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あおはる  作者: 米糠
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99.すれ違いの午後

 99.すれ違いの午後



 週の半ば、水曜日の昼休み。

 陽翔はいつものように教室の後ろの窓際に座り、スマホをいじりながらぼんやりしていた。


(由愛、今日は……来ないな)


 普段なら、昼休みが始まると同時に近づいてきて、何気ない話をしてくれるはずの彼女の姿がない。


 机に肘をつきながら、陽翔はそっとため息をついた。


(もしかして……何かあった?)


 そう考えてスマホをチェックするが、メッセージは来ていない。


「橘さん、なんか今日元気なかったよな」


 近くの女子たちの会話が耳に入る。


「朝、誰かと電話してて、ちょっと揉めてたっぽいって聞いたけど……」


 その言葉に、陽翔の心がチクリと痛んだ。


(……俺じゃないよな)


 昨日までは、確かに笑い合っていた。

 帰り道も楽しくて、何も問題なんてなかったはず——そう思っていたのに。


 放課後になっても、由愛は陽翔に話しかけてこなかった。

 教室を出るとき、彼女の後ろ姿がほんの一瞬見えたけれど、なぜか声をかけられなかった。


(なんで、声かけられなかったんだろ)


 夕方、自室のベッドに寝転びながら、陽翔はスマホを握りしめる。

 メッセージを打っては消し、打っては消すを何度も繰り返した。


 『今日、どうかした?』


 やっとの思いで、その一文を送信する。


 返事が来たのは、それから数時間後だった。


『ごめんね、ちょっと家のことでバタバタしてたの。心配させてごめん』


 その文字を見た瞬間、陽翔の胸の中のもやもやが、すっと軽くなった。


『大丈夫? 話、聞くよ?』


 陽翔の返信に、すぐに由愛から返ってきた。


『ありがとう。やっぱり、陽翔くんに話すと落ち着く』


 その言葉が、何よりも嬉しかった。


 ⸻


 翌朝、教室に入ると、由愛がすでに席に着いていた。

 目が合うと、彼女は少し照れたように微笑んだ。


「……昨日は、ごめんね」


「俺こそ……心配しすぎたかも」


「ううん、嬉しかったよ」


 ふたりの間に流れる空気が、以前よりも少しだけ深く、温かくなったような気がした。


 たった一日の、ちょっとしたすれ違い。

 でもそれが、ふたりの距離を、また少しだけ近づけてくれた——そんな出来事だった。


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