9.彼女の秘密
9.彼女の秘密
飲み物が運ばれてくると、由愛はカップを両手で包み込むように持った。
「……あったかい」
「そりゃ、ホットだからな」
「ふふっ、そういうことじゃなくて」
由愛は小さく笑う。
「なんかね、こういうのって……落ち着く」
「……そっか」
普段、学校ではあまり感情を表に出さない彼女が、こうやって素直に気持ちを言葉にするのは珍しい気がした。
しばらく沈黙が続いた後、由愛がふと口を開いた。
「……ねえ、藤崎くん」
「ん?」
「私のこと、どう思う?」
突然の質問に、陽翔は思わず固まる。
「ど、どうって……?」
「そのままの意味」
由愛はカップの縁に視線を落としながら、静かに言った。
「私はね、よく『美人でクール』って言われるの」
「……まあ、そういうイメージはあるな」
「でも、本当はそんなことない」
「……?」
「私、そんなに強くないよ」
由愛の声はどこか寂しげだった。
「みんな勝手にイメージを作って、勝手に期待して、でも私がそれに応えられないと、勝手にがっかりするの」
「……」
「中学のときも、仲良くなりたいって思った子はいたけど……私と話すのを怖がる子が多くて」
「怖がる?」
「うん。『何考えてるか分からない』って言われたこともある」
由愛は自嘲気味に笑う。
「だから、誰かと一緒にいても、どこかで距離を感じることが多かった」
「……」
そんな風に思っていたなんて、知らなかった。
学年一の美少女として注目される彼女は、何もかも完璧に見える。
でも、その裏では、自分に貼られたレッテルに苦しんでいたんだ——。
「でも……」
由愛はゆっくり顔を上げる。
「藤崎くんは、違うよね」
「え?」
「君は、私を特別扱いしない」
「……そりゃ、クラスメイトだしな」
「そう。でも、それがすごく嬉しいの」
由愛はふわりと微笑んだ。
その笑顔があまりにも綺麗で、陽翔は息をのむ。
(……やばい)
心臓が、さっきよりも大きく跳ねる。
「藤崎くんと話してるとね、なんか、自然でいられる」
「……そうか」
言葉が詰まる。
このままだと、本当に何かが変わってしまいそうで——。
でも、それが何なのか、陽翔はまだはっきりとは分からなかった。
——ただ、彼女の存在が、自分の中でどんどん大きくなっていることだけは確かだった。
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