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あおはる  作者: 米糠
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  プロローグ

 あおはる



 1.プロローグ


 春の暖かな風が、桜の花びらを舞わせる。

 藤崎陽翔ふじさき はるとは、新しい制服の襟を直しながら、門の前で深呼吸をした。


「……ついに高校生か」


 特に期待も不安もない。

 小学校から中学まで、特別目立つこともなく、ごく普通に過ごしてきた。

 高校生活もきっとそんな感じになるだろう——そう思っていた。


 しかし、それはある「出会い」によって、静かに崩れ始める。


 校門をくぐり、入学式の会場へ向かおうとしたその時——。


「……あっ」


 目の前を歩いていた女子生徒が、小さく声を漏らしたかと思うと、バランスを崩し、倒れそうになった。

 陽翔は反射的に手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。


「大丈夫か?」


 驚いたように目を見開く彼女。

 さらりと風に舞う、艶やかな栗色の髪。

 そして、どこか人形のように整った端正な顔立ち——。


 まるで時間が止まったかのように、数秒間、二人は見つめ合った。


「……っ」


 彼女は我に返ったように、すっと姿勢を直した。


「ごめんなさい。助けてくれて、ありがとう」


「あ、いや、別に」


 陽翔は慌てて手を離す。

 どうやら怪我はなさそうだ。


「でも、どうかしたのか?」


「……えっと」


 彼女は少し恥ずかしそうに目をそらした。


「桜の花びらを見てたら、足元がよく見えなくて……」


「……え?」


 思わず陽翔は拍子抜けする。

 てっきり体調でも悪いのかと思ったのに、まさかの理由だった。


(……なんだ、それ)


 なんとなくクールで落ち着いた雰囲気の子だと思ったが、案外天然なところがあるのかもしれない。


 そんなことを考えていると、彼女がじっと陽翔を見つめてきた。


「……?」


「君、名前は?」


「え? 俺? えっと、藤崎陽翔」


「藤崎くん……ふーん」


 彼女はどこか満足げに頷くと、ふわりと微笑んだ。


「じゃあ、またね」


「え? あ、おう……」


 あっという間に彼女は去っていった。


(なんだったんだ、今の……)


 陽翔は呆然としながらも、なぜか心に妙な余韻が残った。


 ——この時の彼はまだ知らなかった。

 この何気ない出会いが、自分の高校生活を大きく変えていくことを。


 そして、彼女が 橘由愛たちばな ゆめ——学年一の美少女 と呼ばれる存在であることを。


 ◇◆◇


 入学式が終わり、新入生たちはそれぞれのクラスへと移動していった。


「1年B組、か……」


 陽翔は掲示板で自分の名前を確認し、教室へ向かう。

 中学の時の友人がいればいいな、と思いながら席に着いた。


 すると、ざわざわとした教室の中で、ひときわ目立つ存在がいた。

 窓際の席に座り、静かに外を見ている女子生徒——橘由愛だった。


「……まじか」


 まさかのクラスメイト。

 ほんのさっき出会ったばかりの美少女と、同じ教室で一年を過ごすことになる。

 陽翔は少し緊張しながらも、彼女に声をかけるべきか悩んでいた。


 しかし、その心配をよそに、由愛のほうから視線を向けてきた。


「……あ」


「えっと……さっきぶり」


「うん、さっきぶり」


 由愛は一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。

 その笑顔に、なぜか少しドキッとする。


「同じクラスなんだね」


「……うん。よろしくね、藤崎くん」


「こっちこそ。よろしく」


 由愛は静かに頷き、また窓の外に視線を戻した。

 周囲の男子たちは彼女を意識しつつも、誰も気軽に話しかけることができない様子だった。

 そんな中で、最初に言葉を交わしたのが自分——という事実に、陽翔は少しだけ優越感を覚えた。


(……でも、すごいな。ホントに美人だ)


 噂通り、学年一の美少女。

 しかし、話してみるとどこか抜けているような、不思議な雰囲気を持っている。



 ホームルームが始まり、担任教師の自己紹介やクラスの説明が行われた。

 そして、自己紹介の時間になる。


「じゃあ、前の席から順番に」


 一人ずつ名前と簡単な自己紹介をしていく。


 陽翔の番が回ってきた。


「えっと……藤崎陽翔です。特にこれといった趣味とかはないけど、普通に楽しく高校生活を送りたいと思ってます。よろしくお願いします」


 無難な自己紹介だったが、周囲は「まあ普通だな」といった反応。

 特に盛り上がるわけでもなく、すぐ次の人に移った。


 そして、ついに橘由愛の番が来る。

 教室内が一瞬静かになり、みんなが彼女に注目する。


 由愛は立ち上がり、少し間を置いてから口を開いた。


「橘由愛です。……特に話すことはありませんが、よろしくお願いします」


 それだけ言うと、すぐに席に座る。

 シンプルで短い自己紹介。


 しかし、そのクールな態度に、教室内がどよめいた。


「か、かっこいい……!」

「まじでクールビューティーだな」


 男子たちはざわつき、女子たちは「クールすぎる!」と盛り上がっていた。

 だが、陽翔はそれを見て、ふとさっきの会話を思い出した。


(……でも、実際は結構天然なんだよな)


 桜を見ていて転びかけたことを思い出し、思わず笑いそうになる。

 その瞬間——。


 由愛がチラッとこちらを見た。


「……?」


 一瞬の視線。

 しかし、陽翔にはその目が、まるで「今の、笑った?」と言いたげに見えた。


「……いや、別に?」


 陽翔が何もなかったように視線を逸らすと、由愛は小さく首をかしげ、また前を向いた。




この小説を読んで、少しでも「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ


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