♪立方体を見たよ♪
朝、玄関を開けると、冷たい風が首筋にあたる。
ランドセルを背負った子供が、親に手を振っている。数羽の雀が空に羽ばたいた。
長く息を吐く。そして、息を吸った。
混沌とした不安に苛まれ続けるのかと怯えていた思考が、鎮静剤を打つように、落ち着いていった。眼科で矯正された眼鏡をかけた時にも似ていた。こんなにも簡単に、世界の焦点が合うことに驚く。
情熱の成分の点滴を打ったようだ。
私の目の前に、同じ学校の制服を着た男子学生が立っていた。
「綺麗な立方体……」思わずため息が出る。
「かえでも見えるの?」慎君が聞いた。
「うん、昔はどう頑張っても、平面にしか見えなくてもどかしかった。でも、ある日、立体的に見えるようになってから」
魅了されちゃった。
織姫さまの纏うストールのように、繊細できらきら光る立方体を成型している。
時間をかけて、丁寧に整えられた立方体は、角度を変えると、輝きの色を変えた。エメラルドの色をしている。魔術師みたいな人だ。
「そういえば」
「何?」
慎君は、ポケットからハンカチを取り出すと、手のひらに乗せた。
あ、これは、ずっと前に失くしていたハンカチだ。
いつ落としたんだっけ。もうあったかも分からない記憶がよみがえる。
毎日練習しているから、次のお弁当は、うまくいく! といいな。
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