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♪計画を立ててみたよ♪

 私って、どうして失敗しちゃうんだろう。


 朝の新鮮な空気をすいながら、秋野かえでは考える。ランドセルを背負った小学生二人組が無邪気に笑い、私を追い越していくのを横目にみた。


 高校二年生になり、慎君と同じクラスになれた。そのことはとても嬉しかった。慎君と仲良くなれるチャンスだと思い、手料理をふるまった。が、失敗した。


 ため息をつきそうになる。


 もっと、こう、要領よくできないかなと考えた。


 なんか、シュパパパーと家事こなしちゃいます!とか、ピシーン!スーパーキャリアウーマンでーす!とか、へへーん!慎君の思ってること先回りして助けちゃいまーす!みたいな感じにあこがれるんだけどなぁ。



「かえで。なに、とぼとぼ歩いているんだよ」


 唐突に名前をよばれて、飛び上がる。振り返ると、肩から鞄を下げた男子高校生がいた。


「し、慎君!」私は小さな悲鳴をあげていた。


「そんなに、びっくりしなくても」


 慎君は苦笑いをする。だって、ちょうど考えていたところに、本人登場だもん。という言葉を飲み込む。昨日の件もあり、気まずくて下を向いてしまった。


「弁当ありがとな」


 慎君が通学鞄から、空の弁当箱を取り出して、私の前につきだしたので受け取る。

 軽くなったプラスチック製の弁当箱は、綺麗に洗ってあった。


「昨日は悪かったな。あいつも、女子から弁当もらってちょっと浮かれていただけなんだよ」許してやってくれというように、目の前で手と手を合わせた。


「こっちこそ」私は顔を上げて、首をぶるんぶるんと横に振った。悪気はないとはいえ、塩と砂糖を間違えた手料理を食べさせてしまったことを反省した。


「あいつは俺が怒っておいたからさ」と慎君は笑った。「俺は、熱中症になったら、あのたまごやき、結構うまいと思うんだよ」


 慎君の言い方はとげがなく、心地よい会話に身をゆだねたくなる。


「また、弁当作ってくれよな」と慎君は言った。「待ってるから」


 私は心から嬉しくなり、にっこりと笑った。


「うん!」


「でも、次は味見しろよ」


「分かってる!」


 気づいたら、慎君の話のペースに飲まれ、横で笑っている私がいた。


 それから教室につくまでは、一瞬だった。



   ◇



 四時間目。お腹が空き始め、時計を見ながら、おひる時間まで、あと何分かを考えた。そして、どうやったら、慎君に気に入られるのだろうか。

 私はノートにメモを書くことにした。


・味見をして料理をつくる


 と書いて、にやりとする。完璧な作戦だ。


「秋野かえでー」先生の声がした。


 突然、名前を呼ばれてはっと顔をあげた。すっかり上の空になっていた。


「はい!」


「123ページの最初の文章、読んで」


「あ、はい!」あわてて机の中から教科書をとりだす。


 123、123と、ページをめくった。

「青年の姿はとても寂し気で……」


 どっと教室から笑いがおこった。


 状況が分からず、きょろきょろとあたりを見渡す。


「秋野かえで」先生の厳しい声がとんだ。「今、何の授業か分かるか?」


 黒板を見た。制定された法律の名前が書かれている。日本史だった!


 急いで、日本史の教科書を取り出そうとする。慌てるあまり、筆箱が落ちて、床に散らばる。みんなの視線がつきささった。


 机の右横から教科書があらわれた。顔を上げると慎君がいた。

 人差し指で、最初の言葉をさしてくれる。


 私は教科書をうけとり、読み始めた。


「1982年……」


「もう、いい」日本史の先生は私の声をさえぎった。「授業に集中しろ。教科書ぐらい出しておけ」


「す、すみません」私は反省する。

 授業が再開された。


「さっきは、ありがと」

 やっぱり、慎君は優しくて大好き!

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