9.
だからこそ、あの絵を見つけた時、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃があった。
素人が見てもわかるくらい、優しくて丁寧なその絵からは深い愛情が伝わってきた。多くの人は、その絵を見て、その少女のことを好意的に思うだろう。それくらい優しい瞳を、温かな笑みを浮かべていた。柚月もその絵が蒼の描いたものでなければ、純粋に素敵な絵だと思っただろう。しかし、それが蒼のものだと思えば思うほど、薄暗い感情が胸を渦巻く。
蒼にとって大切な人がいるということを、気づきたくなかった。
それと同時に、蒼がこの世にとどまる理由がその絵にある気がして怖くなった。絵のことに触れれば、蒼はこの世からいなくなってしまうのではないか、もう二度と会えなくなるのではないか。
そう思うと、やはり怖くて美術室に行けなくなった。蒼と会うのが怖い。
授業終了のチャイムが鼓膜を震わせる。
いつの間にか随分と時間が経っていたようだ。柚月の手にあるプリントは、机に向かった当初から何も変わっていない。白紙のままのプリントには、黒い鉛筆の点が記されているだけで、時間だけが過ぎさっていた。
このままじゃ、ダメだ。
柚月は両手を握りしめ、唇を固く噛む。
このまま蒼を避けていても、何もならない。気持ちが筒抜けでもいい。蒼とこのまま会えなくなるのは嫌だ。蒼に会いたい。彼女の胸から沸々と強い感情が湧いてくる。このままウジウジしているのは柚月らしくない。猪突猛進、思った通りに突き進む、気の強いのだけが柚月の取り柄だ。
蒼に会いに行こう。
そう決心すれば、心のつっかえが小さくなり、前向きな気持ちが湧いてきた。
柚月は養護教諭に美術室に行くと筆談で伝えると、養護教諭は驚いたように目を見張ったが、すぐに満面の笑みで柚月を送り出してくれた。
戦に行く武将のような気持ちで、緊張感を胸に柚月は美術室までの道を一歩一歩踏みしめていく。どんどん足が速くなっていく。早く蒼に会いたい。その気持ちだけが彼女を強く突き動かす。
美術室までは新校舎の反対側の、古い校舎に行かなければならないから割と時間がかかる。階段を駆け上ると、ギィと木の軋む音が廊下に響く。
え。
柚月は早まっていた鼓動が、不規則に乱れるのを感じた。
どうして、ーーーーー。
額から冷や汗がブワッと溢れ出る。柚月の目に映ったのは、美術室へ入っていくいじめっ子たちの姿だった。




