7.
眩いほどの日差しが目を掠め、柚月は汗ばんだ額を袖で拭う。湿度が低く、からりとした空気の中、柚月は悶々とした気持ちを持て余していた。
美術室で見つけたあの絵は、蒼が描いたものなのだろうか。
本人に聞いたわけではないから確信は持てないはずなのに、直感がそうだと告げる。優しげな表情の絵の少女を思い出すだけで胸がちくりと痛む。だが、柚月にはその痛みの理由がわからなかった。
蒼の絵が見れて嬉しいとは、嘘でも思えそうにない。あんなにも見たかった彼の絵なのに。
瞳を閉じれば鮮明に浮かぶ少女の絵。丁寧だけど大胆な筆遣いは、朗らかだが茶目っ気のある彼の性格を表しているかのようだ。そして、その絵の少女が特別な存在であることは一目瞭然だった。
あんな絵を描いてもらえるなんて、羨ましい。誰かに大切にされることに飢えていた柚月のその想いは、誰かに想われることが羨ましいのか、蒼に想われることが羨ましいのか、彼女の本心を曖昧にさせた。いや、きっと本心ではわかっている。ただ、その事実があまりにも残酷で、彼女は気づかないふりをしているのかもしれない。
もう死んでる人に恋なんて、不毛すぎるから。
蝉の鳴き声が乾いた空気を震わせる。柚月は絵をみつけたあの日から、美術室に行けなくなっていた。気持ちが筒抜けの彼に、こんな思いを見せたくなかった。絵を描くこともやめていた。何度、筆を取っても自分の描きたいものがわからなくなっていた。浮かんでくるのはあの絵の少女のことばかり。
準備室に置き去りにしたあの絵は、今も柔らかな微笑みを浮かべているだろう。
柚月は保健室登校に逆戻りした。絵を描くことを喜んでくれた有坂は、柚月の変化に心配気な様子だった。ただ、態度には出さずに、保健室でも変わらず勉強を見てくれたし、絵を描かなくなったことについて何も触れてこなかった。それがありがたかったが、それと同時に心苦しくもあった。心配をかけている自覚があったから、今の状況から脱しようともがき苦しんだが、どうすることもできない。
柚月はこれまで以上に心を閉ざし、筆談でのおしゃべりも減ってしまった。




