表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6.



 もやもやとした気持ちを抱きながら数日が過ぎた。柚月は美術室の裏にある倉庫で画材の整理をしながら、ぼんやりとあの日の出来事を思います。

 今まであまり深く考えてこなかったが、蒼はどうして幽霊になってこの美術室にいるのだろう。

 あの日見た葵の涙の理由を1人で模索して、でも、答えが出る訳もなく、ただぼんやりとあの日の光景を反芻する。


 蒼も人間だったんだ……。


 当たり前のことを心の中で呟く。今まで彼のことを、自分とは違う何者かだと思っていたと気づく。生きているか、死んでいるか、そんなことがどうでも良くなるくらい、彼の感情に心乱される。

 悲しみ?怒り?諦め?涙が抱く、彼の感情は一体なんなのだろう。


 彼は、私を通して誰を見ていたんだろう?


 その問いはきっと彼の核心に迫るだろう。なんとなく、そんな気がする。しかし、柚月にはその問いを蒼にぶつける勇気などなかった。ぶつけて仕舞えば、きっと今の関係は壊れてしまう。

 綱渡りのような危うい糸で、二人の関係は繋がっていて、一歩でも間違えれば柚月は蒼を失ってしまう。それも永遠に。そんな確信があった。


 葵は消えてしまうのかもしれない……。


 いやだ、と柚月の心が反発する。彼を失いたくない。彼を失うことへの恐怖心が、どんどん大きくなり柚月の心を締め付けていく。

 なぜ、自分がこんな感情になるのか、なぜこんなにも彼に執着するのかわからない。自分が不健全な思考に陥っている気がして、柚月は落ち着かなげに体をゆすった。


 はやく片付けて、絵を描こう……。


 絵に没頭すればモヤモヤも軽減されるだろうと、急いで画材を集めることにした。先生からこの中のものは好きに使っていいと言われている。

 モヤモヤしている時は絵を描くに限る。思い切って久しぶりに油絵でも書いてみようか、と柚月は積み上げられた絵から目当てのサイズを探し出す。ここに置かれているのは先輩たちが練習で描いたもので、もう処分してもいいものばかりだ。木枠を再利用して使うので、先輩には少し申し訳ないが、絵のかかれたキャンバスを剥がして新しいキャンバスを貼る。代々そうして使われてきた。

 キャンバスを剥がして貼るのもいい気分転換になりそうだ。柚月は上の方の棚から目当てのものを引っ張り出す。そして、その絵を見て言葉を失った。


 なに、これ……?


 柚月と同い年ぐらいの少女の横顔がそこに描かれていた。柚月に似た鋭そうな瞳が柔らかく微笑んでいる。

 柚月が驚いたのは自分に似た少女の絵を発見したからではない。問題は右下に鉛筆で書かれた文字だった。


 そこには消えかかった文字でこう記されていた。


『心へ 蒼』




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ