12.
痛い、苦しい。
柚月は視線を上げることができず、ただ床を見つめて痛みに耐える。
最初は笑っていたいじめっ子達も、反応せずにじっと蹲っている柚月を見て、焦燥感を感じずにはいられなかった。
「キモいんだよ!早くどけよ」
何度蹴られても絵を離さない柚月を見て、いじめっ子達は苛立ちを露わにする。
思いっきり踏まれ、肩にズキンと鋭い痛みが走る。
今直ぐここから逃げ出したい。そう思うのに柚月にはその絵を見捨てることはできなかった。
何よりも大切な絵だから。
「そんなキモい絵、あんたとお似合いね」
その一言が放たれた時、まるで体に電流が走ったかのように、柚月は目の前が真っ白になった。この絵だけは、何があっても馬鹿にされちゃダメだ。
「……してよ」
消えそうな音が鼓膜をふるわせる。蚊の鳴くような小さな声にいじめっ子達は気づかない。体を押されて絵を取られそうになったその瞬間、柚月は大きく息を吸った。
「いい加減にしてよ」
久しぶりに出したその声は確かな怒りを孕んでいた。柚月は数ヶ月ぶりに自分の声を取り戻した。だが、柚月にとってそれは驚くべきことではなかった。それよりも腹の中を渦巻く禍々しい怒気をぶつけることに必死だった。
「私のことは好き勝手言えばいい。でも、この絵だけは」
柚月は立ち上がり、蒼の絵を胸に抱きならいじめっ子達をキッと睨む。
「この絵だけは絶対に渡さない」
そう言った瞬間に美術室の扉をノックする音がした。いじめっ子達はハッと息を呑む。
「加賀屋さん?有坂だけど入るわよ」
有坂が扉を開ける音がした。第三者の登場にいじめっ子達は焦っているようで、柚月に何も言わずにそそくさと部屋を後にした。
「あら?あなた達、ここで何してたの?」と有坂の不思議そうな声が聞こえたが、いじめっ子達は適当に誤魔化しながら美術室からも出て行ったようだ。
柚月はほっととしてその場にしゃがみ込む。緊張からか手の震えが止まらない。
守れたんだ……。
蒼の絵を守れた、それだけが勲章のように柚月の心をあたためる。胸に抱いている絵をもう一度きつく抱きしめた。




