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11.


 「あいつ、引きこもりかと思ったけど学校来てたんだね」


 「こんな絵ばっか描いてんの?きもっ」


 「こんなに飾って、自分の絵見て酔いしれてるのかな。気持ち悪い」

 

 「うわっ、触っちゃった。菌が移る〜」


 いじめっ子達の笑い声が部屋中に響く。

 美術室の中には柚月をいじめていた主犯格の女子生徒が3人居て、柚月の絵を見て馬鹿にしていた。乾いた喉が、ヒューッと色のない音を立てる。才能がないのは分かっているが、柚月にとって救いになっていた絵を貶されるのはいい気がしない。嫌な気分だが、見まわした限り、蒼の姿がないことにほっと一安心する。


 このまま飽きて帰ってくれればいい。


 そう思い、柚月が静かに扉から離れようとした時、「あっ」といじめっ子が何かを発見した声を上げる。ドキリ、と心臓が波打つ。まさか柚月がここにいるのがバレてしまったのではないか。

 不規則に波打つ心臓が早鐘をうつ。柚月が視線を上げられずにいると、中から「鍵開いてる」と彼女達の笑い声が止むのが聞こえた。その声を聞いてようやく顔を上げられた柚月は、目の前の光景を見て嫌な予感にまたもや心臓が暴れだす。

 

 いじめっ子達は準備室の扉が開いているのに気がついたのだった。準備室には蒼の絵がある。


 お願いだからもう帰って。


 柚月の願いも虚しく、彼女達は準備室の中へと入って行ってしまう。


 「何ここ、カビ臭いんですけど」


 1人が鼻を摘んでくぐもった声で苦情を漏らす。3人ともが準備室の中に入ったのを見て、柚月は思わず立ち上がる。嫌な予感がする。

 柚月は恐怖心をなんとか宥め、静かに美術室の中に入り、準備室の扉の影に忍び寄った。彼女達の声が鮮明に聞こえる。


 「ほんとカビ臭いね」


 「もう早く出ようよ、なんか薄気味悪い」


 窓がない部屋だからか、じっとり湿った暗い室内にいじめっ子達は嫌がっている様子だ。このまま出て行ってくれればいい。柚月は見つからないように美術室から出て行こうとしたその時、いじめっ子の中の1人がまたもや、何かを発見した声を上げる。


 「何この絵?」


 やめて、ーーーーー。


 柚月は泣きそうな目で準備室の中を覗き見る。嫌な予感が的中した。いじめっ子の手には、柚月が心配していた蒼の絵があった。


 いじめっ子達はその絵を覗き込むように釘付けになる。


 「何この絵」


 「気持ち悪い」


 「なんか、どこかで見たことあるくない?」


 「ないよ、きもいってこれ」


 絵を持っている女生徒以外は、この絵を気味悪がって遠ざかろうとしている。しかし、絵を持っている生徒は何か思うところがあるらしく、他の2人に近づけてよく見てと促す。


 「この人、どっかで見たことあるって」


 「ないって!気持ち悪いから近づけないで」


 1人が絵を持つ女生徒の手を叩き、絵が床に叩きつけられる。気持ち悪がっていた女生徒が大きく足を上げる。


 「こんな絵、こうしてやればいいのよ」


 やめて、ーーーーー!


 柚月は無我夢中で駆けつけ、絵の上に覆い被さるようにいじめっ子の足の下に滑り込む。ぎゅっと踏みつけられ肩が痛む。


 いじめっ子達は、急に現れた柚月に驚いたのか口をぽかんと開けて、言葉を失っている。


 突然のことに呆気に取られていたいじめっ子だが、ハッと気づいたように柚月を踏む足に力を入れる。ズキリ、と肩に痛みが走る。


 「誰かと思えば加賀屋じゃない、あんたまだ生きてたんだ?」


 他の2人もくすくすと笑い出す。


 「学校来ないからもう死んじゃったんだと思ってた。あんた図太いね」


 柚月を踏みつけていた足を大きく上げ、柚月の顔に向かって思いっきり蹴り上げる。ピシッと柚月の頬に鈍い痛みが走る。

 蹴られたと分かる頃には口の中に鈍い血の味が滲んでいた。

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