10.
柚月は階段の壁に身を寄せ、浅い呼吸をなんとか落ち着けようと、かたく目を瞑る。こちらの校舎は来年、取り壊すことが決まっており普段の授業では使わないはずだ。
どうしてあいつらがこんなところに……。
自分の神聖な場所を汚されたような、深く鈍い感情が胸に広がる。苦虫を噛み潰したような、嫌な苦味が口に広がる。
彼らに会いたくない、今すぐ来た道を引き換えそう。
そう思い足を動かそうとするが、体が麻痺したかのように動かない。脳裏に暴言を吐かれ、暴力を受けた時のことが浮かぶ。確かな恐怖が柚月の体を蝕んでいた。
恐怖だけではない。
彼らは柚月の大切な場所である美術室に入って行った。彼らは美術室で何をしようとしているのか。強い不安が柚月の胸をさらに締め付ける。
彼らに見つからなければいい。ただ、少し様子を見るだけ。
柚月は自分にそう言い聞かせ、静かに階段を上がる。膝が震えてうまく足が動かせない。それでも、恐怖よりも、不安の方が勝つ。
蒼は大丈夫だろうか。
きっと他の人には見えないはず。けれども、有坂には見えなかっただけで、いじめっ子達の目には映らないとは言いきれない。幽霊相手に変なことはしないだろうが、彼らに見つかったせいで蒼がいづらくなるのは嫌だ。
それに、美術室にはあの絵がある。
準備室にまで彼らが入るとは思えないがもしものことがある。あの絵だけは守らなくてはいけない。
柚月は震える足を叩いてなんとか足を進める。階段の1番上まで登る頃には手の痺れも感じてきた。
おそらく過呼吸になっているのだろう。胸に手を当ててゆっくり深呼吸する。
うん、大丈夫。
柚月は自分を奮い立たせて、美術室の扉の前に進む。近づくと中からいじめっ子達の話し声が聴こてくる。柚月は扉の窓からそっと中の様子をうかがった。




