9
その日の夕方。
絃と灯は人気のない公園で待ち合わせた。
「それで、話したいことって何だよ。」
絃は部活の欠席を律儀に報告していたようで、少し遅れて来た。
息が上がっており、制服が僅かに汗ばんでみえる。
僕はどう切り出すべきか、そもそも話すべきか、最後の最後まで葛藤して、
何も言わずにそれを通学バッグから取り出した。
それを握る右手は、走ってきた絃よりも汗でいっぱいだった。
ネイビーの鞄の中から、光沢感のある一丁の拳銃が顔をみせた。
絃はそれを一目見て、驚きを隠せない。
「うぉっ!灯、ついにエアガンの魅力に気づいてくれたか!初めてみるやつだけどカッケーな!」
…いや、そうじゃない。
「いや、これは本物の拳銃で…」
「は?そんなわけないやん。こんな銃見たことないぞ。」
…確かに、エアガンか?
僕の心には安堵感と残念な気持ちが入り混じる。
「ま、取り敢えずウチで試射しようぜ。」
絃は重度のガンマニアで、家には専用の試射場がある。
言うまでもなく富豪の家系で、父親は何やらスゴイ医者らしい。
「それじゃ、弾詰めてみようか。口径はどれぐらい?」
そう言われて改めて拳銃を見回す。
すると、僕はあることに気付いた。
「この銃、弾入れるとこないぞ?」
絃が確認のために銃を手に取る。
壁に向かって引き金を引いても、何も起こらない。
「ほんとだ。この銃、おもちゃだろ?」
凄く興ざめだった。
ワクワクが大きかっただけに、あまりにも呆気ない夢の覚め方に拍子抜けしてしまった。
そのタイミングで執事が様子を伺いに来たので、部活を休んだことを隠すために家から出た。
「ずっと学校を休んでたのって、もしかしてこれが理由だったん?」
「まぁ、そうなるね…」
僕は、自分がおもちゃの銃で学校を休んでいた恥ずかしさに耐えられなかった。
行く宛もなく散策していると、少し入り組んだ通りに差し掛かる。
スパイ映画の如く、曲がり角の先に銃を向けて遊んでいると、ずいぶん気が晴れてきた。
向かい側の道路を歩く男性に向かって、引き金を引きながら撃つ素振りをしてみる。
ジュ…
手元が震えた気がした。