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良く晴れた朝。
地域で唯一の公立高校の3階、2限の授業。
クラス委員長の世名は、とても不機嫌だった。
(なんで灯は今日も来てないのかしら!?)
先日、2年生になって初めての席替えが行われた。
世名は、幼馴染の灯の隣になるために、あらゆることを尽くした。
友達に協力してもらってくじの交換を取り付け、神社にもお札を投入した。
そして念願叶い、無事隣の席を獲得したのである。
彼女の席は窓際の一番前。灯は本来なら隣に座っているはずなのだ。
…はずなのだが、
(折角隣の席をゲットしたのに灯が来ないと意味ないじゃない!)
何故かはわからないが、一昨日から彼は欠席している。
ひょっとして嫌われているんじゃないか、そう考えると泣けてきそうだ。
ため息が溢れてくる。
(やっぱり放課後に家に寄ってみようかしら。もしかすると風邪かもしれn)
「……るぎ、こゆるぎ!」
突然名前を呼ばれ鼓動がはじける。
「は、はい!小動です!」
「おい、小動。ちゃんと授業聞いてるか?一番前だと目立つぞ?」
公民のオジサン先生は、呆れた様子で注意する。
慌てて真っ白なノートを隠し、私は黒板に目をやった。
何も聞いていなかったので、黒板の文字を順に追い、内容を把握していく。
どうやら、日本の選挙の仕組みを説明しているようだった。
選挙といえば…、
世名は先月話題になった選挙を思い出していた。
それは、「首都決定選挙」である。
日本の首都は1956年以降、形式的に東京とされていた。
しかしながら、明確な定義はなかったのである。
日本政府は首都を東京であると法律に定めようとし、野党が反発。
国民に判断を任せようと、解散総選挙が実施されたのだ。
その結果、なんと世論は真っ二つに分離。
日本の首都が法律によって定まることはなかった。
世名はこの選挙に少しばかり関心があった。
この選挙には、日本人としてどうあるべきかが、詰まっているような気がしたのだ。
どちらが正しかったのかは、正直分からないのだが。
チャイムが鳴る。
世名は教室の外に出ると、窓から校庭を見渡す。
体育を終えた生徒たちが校舎に戻っていくのを眺めていると、
そこに紛れて、見覚えのある生徒が制服で小走りで駆けていくのを見つけた。