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僕は今、暗闇を走っている。
どうして走っているかと言われても、自分でも分からない。
ただ、居ても立っても居られずに、ひたすらに走っている。
星一つない夜。月も無く、真の暗闇。
目の前に道があるかさえ怪しいほど。
家に帰れないと直感しながらも、足は止まらない。
何度も葉音に心を揺らされながら、下を向いて走っていると、
急に横風が目に入ってきた。
視界を上げると、建物に身を隠していた月が顔を出していた。
そして、前面には巨大な海原が広がっていた。
僕は足を緩め、堤防へと歩くことにした。
夜の砂浜は不気味で、波音と風音以外は無であった。
不思議な寒さを覚えながら、堤防に座る。
座ったところで、特にすることはないのだが。
何時間。いや、何分経っただろうか。
真っ黒な空を眺めていると、一点の白光が現れた。
星か。
何の感動も感傷もなく、目を落とそうとした僕は、
何か異変を感じ、再びその星を見た。
異変は直ぐに理解できた。
星が、デカくなっているのだ。
明らかにデカくなっている。
僕は試行錯誤をした結果、逃げることもせず只々その星を見つめた。
白い光が、海に衝突した。
一瞬、途轍もない光が辺りを包み、僕は思わず顔に手を当てた。
不思議と音は立たず、気付いた時には静かな夜に戻っていた。
混乱状態にあった僕は、兎に角その場から離れようと考えた。
だが、好奇心が勝ってしまった。
白い光を放った物体は、完璧なまでの球体で、それが人工物であることを証明していた。
砂浜に流れ着いた球体は、身長と同程度の大きさだった。
近づくか、離れるか。
悩んでいると、物体が開いた。
まるで巨大なカプセルボールのように、何の音も立てずに、開いた。
中からは煙が溢れ出ており、砂浜が霧に覆われた。
そして、霧が晴れたとき、僕は宇宙人を覚悟した。
しかしそこには、一人の裸の女性が立っていた。