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幼女、世界を知る

剛力の謎はうやむやにされ、いや正確には、筋肉で片付けられたのだが、自分の中には不信感が絶妙に積もる。

それを感じたのかメガネが引きつったままであれ以来話さなくなってしまった。

とはいえ、夕食の時間になるとマリこと筋肉もやってきて普通に食事が始まった。

「ほお、それではステラは今日狩りに行ったのか。」

筋肉が頭をなでてくる。

狩りっていうか罠の確認だけど。

それより手が超デカくてビビる。しかも撫でられる度に、あの安全性0のキッズチェアが揺れるのでやめてほしい。

「そうなんだが罠が荒らされてた。ルーシーにもいったが、最近頻発してるから誰がやったか調査をしないと。」

ヒビキがいう。

そんな話だったのか。

私は反対なんだがな。もし子供がやったとなるとその子の未来に影響するだろう。必要に迫られての行為だろうし刺激しない方法がいいんだがな。

意外とまともっぽいことをいっている。

もっとガチガチの脳筋話になるかと思っていた。

よくある方法は配給ですよね。教会も豊かとは言えませんが。

だがルウ、施しを与えるのはそれはそれでいいが、長続きしない方法は期待ばかり煽る。能動的で統制の取れた動きは必要だ。」

ルーシーが珍しくまともなことを言う。

「この土地はあまり豊かではないからな。」

筋肉の言葉に皆うなずく。

意外と深いことを話してるんだな。

できたら仕事を与えるのが一番だろうが、この集落ではそれが難しいし、国もそこまでまだ機能してない。

「聞いたのか?ルーシー。」

「うん、行商を捕まえたんだ。あっちはまだ荒れ放題で行くのもやめたほうがいい。王を誰にするかで揉めていて城下は疫病が流行りじめてるらしい。」

「まだこっちのほうがましね。」

メガネがうんざりしながら言う。

「まあ、詳しいことはまたわかるだろう。罠から盗む件は明日街に降りて聞いてみよう。なにかわかるかもしれない。」

みんなが口々に合意を表す。

「ステラも行ってみるか。まだ街に行ったことないだろう。」

ルーシーの提案にこくりとうなずいた。

「ステラはそろそろ字の勉強もある。午前中に少し時間をもらいたい。」

「あ、私もステラちゃんと掃除が」

「私はないけど、ステラを風呂に入れたい。」

「それいいな。私もやりたい。」

ヒビキの発言にルーシーがのってくる。

なんなんだ。私はペットか何かか。

女子共がぎゃあぎゃあわめく姿を見ながら夕飯を進めた。


結果ひどいスケジュールになった。

早朝から走りこみ、そのまま掃除、そして朝ご飯を食べてからの文字の勉強。

ご飯を食べずに勉強になりかかったが、それは断固として抵抗した。

そしてこうして筋肉と一緒に机に向かい、文字をならっている。

文字は自分が知っているものとはあまりにも違っていた。文字の数が多いし、形が独特だった。これを組み合わせて一つの文字を作るのか。

先日の何故か読めた筋肉の文字を思い出す。

「まずはこの行から。」

言われるがままに石版に文字を書く。

白い跡が残る石なので、書きづらい。そしてなにより手がうまく動かない。

「ゆっくりでいい。あせることはない。字には心が表れる。ステラが堂々としていればその心持ちが、そして焦れば焦った心が字に出る」

そうだとは思うけれど、六歳に言うことじゃないだろう。

手に力を入れるにしても、こうもうまくいかないものなのか。

子供というのは意外と苦労するんだな。ぷるぷるする手で書くと一つ一つがかくかくしている。

そして疲れる。

「うん、うまい。」

筋肉が満足げに言うと、頭をなでてくる。

筋肉のでかい手でなでられると、頭一つがすぽっと収まるのが若干恐怖があるが、そのなで方は優しいと思う。

「ステラは賢いな。小さい子同士で遊びたい盛りだろうに、ここではそれをしてあげられないのが心苦しい」

いや、別に。

正直なところだったので、首を振る。

「そうか。まだこの街でも遊んでいる子はいないだろう。どちらかというとその日を生き延びるために、畑で作物をこしらえたり、食べものを探したり、小さい子の面倒を見たりして子供たちの一日は終わっている。せめて一日も早くお腹いっぱいに食べられる日がくるといいんだが」

そこが不思議なのだ。

自分はここで腹いっぱいではないが、食生活で飢えてはいない。

むしろあの巨大鍋いっぱいのご飯ができるということが、不思議なのだ。

あの食材があるのに、教会は何もしないのはなぜだろうか。

「どうした、ステラ」

悩んだ末に、少し身振り手振りで伝えられないかやってみることにした。

お腹をさして自分を指さして、ぷっくりとしたお腹を表現する。

「ふむ、自分はお腹がいっぱいだと」

そうそう。

筋肉が相手でよかった。。

街のほうを指さして、お腹がすいたを表すため、くの字に体を曲げてみる。

「…腹痛か?」

違う。

残念だが、難しいかもしれない。

うーんと悩みこんで、また文字盤に向かった。

話せないって不便だ。

「話せないからな。早くステラも声が戻るといいが」

素直にうなずいた。

なれ合うつもりもないし、さっさと戻れるなら戻りたいが、でも少しこの世界を知ってみたいという気もする。

自分も前の世界では、平和のためと殺しをやっていたのだ。国のために家族のためにと戦い、そのことに疑いを持たなかった。

でもここでは戦いが終わった後のようだ。

自分の元居た世界も苦しかったが、状況が違うけれど、似たようなものを感じる。どちらにせよ摩耗し、擦り切れるような思いをするのは、民なんだなと思う。

自分は民のために戦っていたんじゃないだろうか。

「今日、街に行くだろう。ステラと同じくらいの子を見るかもしれない。もしかしたら揶揄されるようなこともあるかもしれないが、その時はルーシーに言うんだぞ」

揶揄?

なぜだ。

教会なんて人のためにあるんだろうに。

不思議に思っているのが伝わったのか、筋肉が悩み始めた。

「ステラは何故ここの教会がこんなに人数が少ないか不思議に思ったことはあるか?」

うなずいた。

ある。

正直不思議でならない。食事があって、寝るところがあって、清潔だ。

なのに、孤児院があるわけでもないし、人も正直少ないと思う。

「賢い子だな。きっと街に行けばわかるだろうが、人がいないわけではない。私はこの教会が好きであるし、この街の住人も悪くは思っていないだろう。だけれど、こうなってしまったのはいいのか悪いのか」

筋肉が腕を組んで考え出す。

筋肉が悩むようなことなのか。意外とこのまともな思考の筋肉が悩むなんて、よほどの気がしてきた。

「まあ、いけばわかるであろう。そしてこういうことはルーシーが説明がうまい。私では言葉が足らないからな」

そうかな。

それはすごく疑問があるが、続きをうながす筋肉に負けて、文字盤に再度向かった。



午後になってからルーシーと街に降りた。

不思議とワクワクしてしまった。

幼児仕様になるとそうなるのだろうか。不思議とワクワクがこみ上げてくる。

自分の頭と心は違うように動くらしい

さっきからソワソワして、足踏みしている自分がいる。

「 ステラも楽しみでしょうがないんだな。わかるぞお。お出かけとは常に気が浮つく。」

ルーシーも激しい貧乏ゆすりをしている。

「 落ち着いて。ルーシーはちゃんとステラちゃんのこと見てあげてね。」

「うむ。もちろん!」

鼻息が荒い。

メガネの言葉に即答するもののルーシーは話が聞いてるのかわからない。

「ステラちゃん。ルーシーは街の人が大好きなんだけど、教会と街の人はうまくいってるとは言い切れないの。」

どういうことだ。

話が飲み込めないでいるがメガネは続ける。

「だからルーシーもしばらく街へ行くのを禁止してたの。今日は久々。」

メガネが笑う。

でもその笑顔が妙に元気すぎる。

「 気をつけて楽しんできてね。仲良くなってきて。」

鼻息荒くエネルギー抑えきれないルーシー見ながら、半分冷めながら半分足踏みは止まらないまま考えた。

一体何が起こったんだろう。


「 ステラ、街だ。」

ルーシーが自分の手を引きながら教会の前に立っている。

石壁が並び街と区切る境を唯一、双方の通行が可能になるのが教会を通り抜けることだった。

「 そして我らが教会だ。」

ばばーんと手を広げてルーシーが教会をもり立てる。

はいったことはないが、教会の敷地内からほとんどどこからでも見られるからしっている。

何よりあのステラアートをたたえているとか信じられない。

ぶるると体を震わせる。

「そうかそうか、そんなに嬉しいか。」

恐らく自分が血を吐いても、ゲロしても同じ事をいうだろう。

「ほら行こう。」

ルーシーが手を引きなかばひきずられるようにして教会に入る。

中は簡素だった。暗い室内に明かり取りの小さな窓がある。教会の裏側から入ったらしく、入ってすぐに教壇のような台があった。

質素なその台はろうそくの台があって、小さな像があった。

ステラアートだ。

見てすぐわかった。あの熱に浮かされたような時でさえ、顔もおぼえていないが、でもこれはステラアートなんだとわかる。

怒りが沸き立つかと思ったが、そうでもなかった。なぜかというとあまり人が来ているように見えなかったからだ。

「 気になるか、ステラ?」

ルーシーの声に彼女を見上げる。

穏やかな笑顔を浮かべルーシーは小さな像を見ていた。

くこりとうなずくとルーシーは続けた。

「 意外と殺風景だろ。人が来ている感じもないし。」

そうなのだ。人がいない、つまり信仰されて居ないのかと思った。

「実際きてないんだ。私達は教会にいるからステラアート神が悪い神ではないと思っている。でも街のみんなはそうでもなくて助けてくれないと感謝しないやつも多い。

まあ、いいのか悪いのかという基準で測れない気はする。

特に貧困がと言っている状況で筋肉とか言われても、ぴんとこないだろうし、それより今日のパンをと思うだろう。

わからなくもないが、ステラアート神の教えは根本的にどう解決するかを説いてるから私は好きだ。それにその教えがなかったら、この街はとうに壊滅していたかもっとボロボロだった。」

どういうことだ?

思わずルーシーをガン見する。

「 ここは交易で成り立ってたから、主戦場にはならなかったけど、前から領主が警護を派遣してたんだ。そうじゃなくて平和だったからみんな誰かが襲うなんて考えがなかった。でも戦争になって警護がいなくなって、気がついたら実は危険で手段がないことに気づいたんだ。」

平和が問題じゃない。

考えることが大切なんだ。

平和は絶対的に良いものだ。俺もそれを目指していた。それが崩れたら俺はどうなるんだろう。

「 それで色々掘り起こしてたら、ステラアートの文献が出てきたんだ。感動した。武器を持てとあった。持っていいんだとそこに驚いたんだ。そのためには肉体を鍛えろと。」

そうなるんだ。

なんでだ。どういう神なのか気になってきた。

「これは理にかなってると思い…」

え?

「やるべきだと声をかけまくって残ったのが今の教会のみんなだ。」

同類とはあんまり思えないけど、なんとなく経緯はわかった。

「でもその時から戦況が怪しくなってきて、男は徴兵され、行商がこなくなり、食料が乏しくなってきた。自分たちで畑を耕すとかしてこなくて、外からの供給に頼ってきたつけだよな。前はやってたんだけど、宿とか飯屋の需要が大きくなって、そこはやめたんだよ。

平和が大前提の発展だったんだな。」

外に供給を頼るのは悪いわけじゃないと思う。理由がわからないが戦争でもめたことが原因だ。」

自分のことではないが、やはり腹が立ってくる。

「そこそこ、ここの街が大きかったから、あと地形的にも山越えの拠点になるからさ、今度は両方からせめられた。守ってくれるっていうのは最初のうちで、今度はどっちが守るかで揉めた。

兵士たちが信用できなくなって、みんなが教会に逃げ込んできた。その時はみんなでご飯作ったり、助け合ってそれはそれで良かったんだ。でもこの筋肉の考えには賛同してもらえなかった。」

ルーシーは独り言みたいに続ける。

自分はさすがに、はあとしか言えない気分だからかもしれない。

「 今なら無理だったなと思えるけどその時は自分もそれが絶対だったんだ。教会に入り筋トレすると、どうやら筋肉の育ちが早いらしく…」

育ち?

「 ルーみたいな怪力に普通になる。鍋持ってただろ。」

ああ、と思い出す。衝撃だった。

ごまかしたことも。

「 ルーはステラがびっくりするだろうと思って誤魔化したんだろうけど、まあここのみんなあんな感じだ。毎日訓練必要だけどな。」

なりたくない。

ならないって、言っていいよな6歳だし。

「 その特典のおかげで兵士たちも自分たちで撃退できたもんだから頭に乗ってたんだ。みんなも入るべきだってゴリ押ししたら嫌われた。」

なるほど。

明らかに怪しいもんな。

「紛争が収まって、街に戻れるようになるとだんだん教会から人が去った。色々理由つけて。でも自分のせいだなと思うよ。」

ちょっとマシなとこはあるらしい。

「 私は未だに街の人が好きだしみんなに幸せになって欲しい。向こうが嫌っててもこっちが門戸を開き続ければきっと変わる。でもどうも過剰らしく出禁になってて。」

出禁…

「なにをやったんだ今日は久々というわけだ。」

ルーが言ってたのはこのことだ、ステラ。

な、なるほど。

別の意味でドキドキしてきた。

「さあ行こうか。ステラが興味深く聞いてくれるからつい長話してしまう。」

いや…

興味深いは確かだが。

ふと思う。昔の自分なら聞いていただろうか。話を流していないだろうか。それより時間をとるとわかっただけで、避けていなかったか?

ルーシーがこちらを見て手を差し出す。

自然にその手を取ってあるき出した。

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