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幼女、疑いを覚える

衝撃の内に朝食は終わり、メガネと一緒に掃除をすることになった。

案内されてみると女子寮はそんなに広くなく、全部で三階建てで、一階に食堂、台所、ふろ場などがそろっており、二階と三階は個室だった。

台所と食堂は

「今はだいぶ落ち着いてきたから、部屋も空きがあるんだけど、一時はだいぶ満室だったのよ」

ホテルじゃないんだから。

言いたくなる気持ちをぐっとおさえて、廊下を水拭きする。モップなんてものはないらしく、ぼろきれとバケツで年季の入った廊下を拭く。

これを毎日やってるってどんな汚し方なんだろう。

「使わせてもらっているんだから、奇麗にして感謝しなくちゃね」

メガネにタイムリーに言われた。そういう問題ではないらしい。

廊下を水拭きして、台所と食堂の床を箒ではき、メガネが水拭きする。

風呂場は交代制らしい。

掃除が一通り終ったころには、もう昼近くになっていた。

メガネは意外とえらかった。

文句も言わずにそのまま調理に取り掛かる。

「薪をたかないとね」

めがねはいうと、薪小屋を見せると言って寮の裏に自分を連れて行った。

寮の裏手に寮の一階分と同じ高さのある薪が積みあがっているところがあった。

メガネはそこから薪を取ると、こちらを見た。

「少し運べる?」

うなずくと、にこにこしてメガネが手ごろな大きなの薪を自分の腕に載せてくる。

これぐらい余裕だろうと思っても、幼女の体には意外と薪は重くて4、5本を積むともう腕がいっぱいになった。

メガネは慣れた手つきで片手に薪を重ねていく。

「いったん帰りましょう。また後で台所に補充すればいいから」

うんとうなずき、メガネの後に続いて台所に戻った。

台所は石でくんだ古いかまどと薪置き場、流しがあった。

「ステラちゃんの薪をかまどに入れてね」

その名を呼ぶな。

背筋をぞわぞわさせながら、薪をもったままかまどに向かう。

メガネが鍋を持ってくる。

ん、でかくね?

「あ、ちょっと大きいよね。私意外と力持ちなの。」

いや、そんなこと思ってない。

口をあんぐり開けたまま見つめてると、メガネが言ってくる。

メガネは自分の身長の三分の一はあろうかという巨大鍋を両手に軽々と抱えていた。

「大丈夫よ! ステラちゃんを煮て食おうとかそんなこと思ってないからね!」

あまり冗談にならないことを言わないでほしい。

まっさおになっていると、メガネが慌てて続けてくる。

「ステラちゃん。」

鍋をひょいっと投げて、かまどに命中させると、こちらに走り寄ってきた。

鍋は派手な音を立てた後、かまどに斜めにぶっ刺さっている。

「こんなに小さいのに声も出せなくて、地面で倒れてたなんてとってもつらかったと思う」

そうだったんだ。

そんなような状況は見たけれど、声を出せなくて助けが呼べなかったわけではないと思う。

メガネの迫力にこくこくうなずく。

それをみて、メガネが自分に目じりをふいていった。

「いやだ、私ったら。思い出しちゃって」

何を?

メガネが何を言ってるのかちょっとよくわからない。

「私の弟もステラちゃんぐらいに小さかった時、戦争に巻き込まれてそれ以来行方が分からないの。たぶん、もう無理よね」

うん、それはまぁ、そうかもしれないが、ちょっと話がぶっ飛びすぎててあまりお涙になれない。

気持ちはわからなくもないんだが。

「だからかステラちゃんを見てると、弟のこと思い出すんだ。弟も年のわりに小さくて、気がちいさくてあまりしゃべったりとかできなくて。よくいじめられてたのを、私が追い返したっけ」

なんかどっかで聞いたことがあるようなないような話をしてくるな。

メガネが鼻を、ぶーっと音を立ててかむ。

ちょっと女性らしさを求めていいだろうか。

「ステラちゃんは一人にしない」

いや、いいから。

一人でいいんだって。さっさと帰りたいぐらいだし。

「私たちみんなで守るからね」

あ~ん、あ~ん。

ぶわっと涙をあふれさせてメガネが泣き出す。

冗談かというぐらいの派手な泣き方に、戸惑うしかできない。

「おー、何かと思えば」

ルーシーが出てきた。

こいつどこに行ってたか興味ないから気にしなかったが、いきなりきた。

「昼間っからやったなぁ。ルウはお涙頂戴が好きだから。今日は姉だった? 従妹だった? それとも生き別れた親とか?」

なんだ、それどういう…。

そこまで考えてはっとした。

「ルウは嘘付きとは言わないけれど、お涙頂戴が好きなんだよな」

はっはーとルーシーが笑う。

高らかに笑うルーシーの横で、メガネが邪魔されたことを心の底から恨むような目でじっと睨んできていた。


予想外なことはあったものの、あれから機嫌を取り戻したメガネと一緒に昼ごはんの準備をした。

あの巨大な鍋はおかしいものの、あの三文芝居で何事もなかったかのようにされてしまった。

そしてやはり5人で食べる量ではなかったけれど、気がついたら鍋の中身は空だった。

そのことを追求しようとも、子供だからと相手にされず、次の仕事だと言って今度はヒビキに連れられて森に出ることになった。

森といっても協会の裏、石垣を超えると広い草原があり下の方には森が茂っている。

「マリはあっちにいったんだ。」

ヒビキが指差す方には教会裏手の山が見える。

「私たちはこっちだ。」

ヒビキに連れられて歩く。

ヒビキは背中に矢筒を背負い弓矢を肩に担いでいる。

「ルーシーから狩りを見せてやってと言われてる。まあ見るだけだから気にするな。」

わかったとうなずくと。

頭をなでられる。

牛を育てたり狩りをしたり一体こいつらは何をしてるんだろう。

疑問に思うが、この周りの景色や雰囲気を見るととても荒れた土地に思えない。

緑は青々としていて牧草地だった。小高い丘のようになっている教会裏手からは景色が見下ろせて、街もこの間見たように変わりなく見え…。

あれ。

草原の向こう、草の影になにか動いているのがみえた。

「どうした?」

ヒビキが声をかけてくるのでそちらを指差す。

ヒビキはそれを見た途端、表情を一変させた。

射殺しそうな目をして、チッと舌打ちをする。小さく口が動いた。

いま、絶対クソがって言った。

それも一瞬のことで恐らく過去の経験がある自分だから見逃さなかったのだろう。

ヒビキはあっという間に平静を装うといつもの淡白な表情になっていった。

「何も見えなかったぞ。」

やべーよ。

俺の中の何かが警鐘を鳴らし始めた。


それから変わりなかったようにヒビキに連れられて森に入った。

既に罠が設置してあり、それを見て回るんだという。

というわりにヒビキがピリピリしてる。

それだけというよりは、何かを警戒していて、視線があちこちにいく。

そっちが気になってこちらも気が気じゃない。

杜の中は荒れていて倒木が多く手入れされていないのがわかる。

ヒビキはその木1つ1つに目印をつけていく。薪木にするのだという。

確かに寮の裏手にある薪小屋はすごい量だった。

倒木を乗り越え罠のところにいくだけで精いっぱいで一つ目の罠にたどり着くだけで息切れしてしまった。

この体は一体どれだけ脆弱なんだろう。

「大丈夫か?」

ヒビキが心配してこちらを見る。

うなずくものの明らかに表情に力がないだろう。

ヒビキは少し悩んだあと、矢筒と弓をおろして、ひょいと自分を担ぐと紐で自分をヒビキの体にくくりつけ始める。

おぶひもみたいな原理のようだ。

そこまでしなくてもと思い手で抗う

「ステラは軽いから大丈夫。もう少し太った方がいい。」

女子に向かって太れとは。

ちょっと心がヤサグレかかる。

ヒビキにおぶわれたまま、罠のある場所へ歩くこと少々。すごく簡単な罠があった。うさぎが狙いかもしれない。

「うさぎ取り用だ。」

ヒビキがいう。

相変わらずタイミングが合わない。

「人が入らなくなったから獣が増えるかと思ったんだが、変わりに飢えてるから乱獲がひどくてな。」

罠をめくると罠字体にかかった形跡はあるけれど、うさぎがいなかった。

「こうやってかかってもとられてしなう。」

盗みかよ。

ひどいな。

「ま、とられたけどそれは誰かが飢えをしのいだってことなんだって思うことにしてる。」

意外だ。

そんな穏和な言葉が出るとは。

本当は罠を作る方法を知ればいいとも思うけれど、まだ気持ちがそこまでならないんだなって思ってる。そういう人は意外といるんだ。

正義とは。

正義とはなんだろう。

ふと浮かんでしまった。

自分が疑いようもなく正義だと信じてきたものは、そんなの即刻排除の対象かもしれない。

人の努力を横取りし、ルールを破るもの。

でもまだ待つとヒビキは言ってるようなものである。

その後いくつか罠を見て、うさぎを2兔捕獲し、帰ることになった。

あらされてる罠のほうが多かった。

「この調子だと相談だな。」

ヒビキがぼそりとつぶやく。

気になって聞こうにもどう訪ねたらいいかわからなかった。

声が出ないからだが、でもでなくて良かったかもと思う。

自分の中に迷いがある。今口を開いて、子供らしく話せるか自信がなかった。


ヒビキと森へ行って帰る頃には夕方になっていた。

すでにメガネは夕食の仕度をしており、あの異様にでかい鍋があった。

相変わらずのでかさに驚きを隠せないでいるとメガネに夕飯の手伝いを言われる。

色々気になることは多いけれど、命の危険もないし、どうしようもなくおかしいわけでもない。

とりあえずはまだ大人しくしておこう。

結露づけると火をくべはじめた。

騒がしくなったのは支度もだいぶ進んだ頃だった。

話しているのはヒビキとルーシーのようだった

メガネも心配そうに顔をあげる。

「だからそれは無理だって言ってる。」

「そうはいっても待てないだろう。」

何の話だとメガネに解説を求めようとメガネを見る。その視線に気づいたのかメガネが困ったように笑った。

「心配よね、ああいうのみると。」

メガネが言う。

「たぶんいつものことだと思うんだけど、この街は戦争が長かった影響がまだまだあって平和かもしれないけど豊かからは遠いんだよね。」

メガネが二人を見ながら包丁を動かす。

「だから街はステラぐらいの小さい子はお腹すかせてて、大人は逆に老人が多いから狩りとか農作とかうまくできないの。」

メガネは器用に切ったものを見ないで鍋につっこみかき混ぜていく。

「もともと山越えしてきた人たちが次の街にいくまでに休憩するための街で成り立ってたから、戦争で行き来なくなると食べるものがなくて、命の問題っていうか。難しいよね、こんな話。」

首を降る。

6歳だとどうかわからないが自分はわかる。

「ステラはすごいね。私たちはしばらどう生きるかがわからなくって慣れない狩りとか農業をやりはじめたの。でもそれはここの人たちぐらいで、おじいちゃんおばあちゃんは難しくて。今度は子供たちにもそれを教える人がいなくて、でもお腹はすくじゃない?盗みをする子もふえてきたのよね。」

メガネがひょいとなべを持ち上げる。

なんと?!

目をかっぽじって見ていると、メガネは喋ってることに気を取られてるのか巨大な鍋をもって移動しながら話す。

「孤児院をという話もあるんだけど、家族がいる子も多いからどうするかで悩んでいるんだと思うんだ。前からずっと話してきたことだから。」

メガネが鍋を作業台に置いた。

「ルウ、ステラがビビってる。」

「え?」

ルーシーの声にメガネが心当たりが全く無いような声をあげる。

メガネがこちらを振り向くと、正直驚きから抜けきれていない私とその後ろから声をかけるルーシーとヒビキがいた。

メガネがおもむろにメガネの位置を直しだし、咳払いをする。

「何も見てない、よね?」

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