幼女、筋肉との出会い
翌朝、昨日よりもさらに体が回復しているのを感じながら目を覚ました。
あれから歓迎会はあの調子終わった。
女子どものトークが盛り上がっている間、自分は絶望しきっていて頭に会話が入らなかった。
ただもしやここが別世界なら、あの着火芸は魔法なのかと思いタバコの吸い殻とかを調べていたら、ヒビキが本当に大道芸のようなもので、遊びでやってるうちにできるようになってしまったことを教えてくれた。
どうもこの教会は、国の事情、内乱か戦争かはわからないが、それゆえに貧しい国であるらしい。
今日から少しずつ教会のことを教えてくれるらしい。体調はよくなって大丈夫だろうからと、寮の一室に移動し、幼児にはちょっと広い部屋で目を覚ました次第だった。
場所が異動しただけで、部屋のつくりは基本的には変わらないようだ。
小さな机と木製のシンプルなベッドに鏡。身だしなみはきちんとせねばということだろうか。感心できる。
部屋の中をうろついていると、ドアがノックされた。
「おはよう。喉の調子はどう?」
メガネがいた。
修道服を着ていて、手になにか布を持っている。
「…」
おはようと声を出そうとしてみるがやはりまだ出ない。
「まだみたいね。不便だと思うけれど、じきに良くなるから」
めがねは手にした布を広げると、黒いワンピースに白いベールだった、子供用の。
「これを着てね。教会内を歩くときはこっちの方が便利だから」
言うとめがねは手にした服を見せた。
教会の服だ。黒いワンピースに、白いベール。
ここが教会だっていうならしょうがないと素直に着替える。
めがねは素直に自分が着替えるのを見届けると、満足げに笑った。
「では朝ごはん、というところなんだけれど、教会なのでやることがあります」
教会だから。
ふーん、お祈りとか?
教会だからってなんなんだ。
ぜえはあと息を切らしながら走る。
教会の中というのか、高い壁で囲まれた中をぐるりと一周壁に沿ってひたすら走り込みをしている。
走る方向はペンキで矢印で乱暴に殴り書きしてあって、殺伐とした感じがここを教会に思えなくしている。
めがねは自分をここに連れてきた後、修道服から別の服に着替えて颯爽と走りさってしまった。
いわく、子供用の運動服はないけれど、修道服着ていたら実害はないからと。
実害ってなんだ?不安しかない。
というわけで修道服で走っている。
それも走りづらいのだが、そもそも敷地が平らではなく、岩山の上に建てられたかのように起伏が激しいところを走るのがきつい。
足腰がしんどい。
そもそもこんな幼い子に走らせるようなコースじゃないだろうと思ったが、途中でルーシーが拾いに来た。
「よく走ったなぁ。まさかやるとは思わなかった」
鬼め。
息切れがひどくて何もできないでいるときに声をかけてくる。
「女児がいたことがないから加減がわからなくてね。病み上がりだから難しいと思ったんだが、いい根性してるじゃないか」
やらなくてよかったのかよ。
ぜえはあと息を切らしている自分の背中をなで、呼吸が落ち着いてくるとルーシーに手を引かれながら歩く。
こんな感じに手を引かれるなんていつぶりだろう。
息が整ってくると、ルーシーは立ち止まり、深呼吸と一緒に手を広げて深呼吸しだす。
ルーシーは変態だが、この深呼吸の最中もこちらをちゃんと見ているところは偉いと思う。
「よしよし」
頭を撫でられる。
不覚にもこいつはいい人かもしれないと思ってしまう。