幼女、風呂にいれられる
昔から5秒で寝られる人間だったが、それは変わらないらしい。
目が覚めたら部屋は相変わらずだったが、ろうそくが灯り、しっかり暗くなっていた。
体を起こすと少し汗ばんでいた。
体が少し痛い。よほど寝ていたんだろうか。でも寝る前よりずっと体は調子い。
着ているのは、ボロキレみたいな服で頭が痒い。
頭をかけばべたべたしている。気持ち悪い。
殺し屋といえど、清潔にして衛生面は気をつけていたというのに。
クソっと布団を拳で叩く。
なんて細い腕。
これじゃナイフ一つももてないだろう。
まずは状況を把握しなくては。
ベッドから出ようとしたときだった。
バタンと盛大な音を立てて、ドアが開いた。
長身の眼鏡女がいた。
くわえタバコの火が暗闇で赤く光る。何も言わずに部屋に入ってくると、ようやく女だとわかった。
黒髪のポニーテールでなければ男かと思っただろう。
細みで長身の女だった。
あっけにとられて見つめていると、女は顔色一つ変えずにタバコをふかして言った。
「お前だな。」
なにが?
さっぱりわからないうちに、女がつかつかと歩いてきて颯爽と自分を小脇に担ぐ。
「メシの前に風呂だって。」
なんと?!
待てと言いたいが声が出ない。
「ああ、最近、喉に来る風邪が流行ってるらしいから、なんかあったら肩叩いて。」
何いってんの?
小脇に抱えられている時点で肩に届くわけがない。
「ま、届かないけどね。」
わかってんのか!
「言ったという事実が大事なんだ、そらついた」
なんて奴と思ってる間に、風呂場らしき場所にたどり着く。
タイル貼りの部屋にお湯の溜まったタライがある。
「タライだ」
女が言う。
タライだとは自分も思う。
「お前シラミついてるからな。ちょっと別で洗うんだ。ちっこいから問題ないだろ。」
は?
何を言ってる。
私にも恥じらいが。
そう思ってる間に足首を捕まれ、
逆さ吊りにされるとボロキレを剥ぎ取られた。
キャー助けてー。
叫んでも声が出ないし助けは来ない
ジタバタしているから抵抗はつたわったらしい。
「おいおい大人しくしろよ。恥ずかしがることないだろ。別に見るもんないし。」
ハッとした。自分は女だった。
驚いてる間に逆さにお湯につけられる。
ぶえっ。
顔から突っ込まれるとは思わなかった。
しばらく犬のように洗われる。
冷静になってくると、意外といい匂いである。
「いい匂いだろ。薬草入れてるから。ここらの子供は結構みんなシラミにやられてるんだ。治安がよくなって、子供の保護も進んできたとはいえ、まだまだお前みたいなのは多いよな」
女がたばこをふかしながら自分の頭を洗う。
たらいは大きめで、自分が座ってるとお腹ぐらいまではお湯があった。女は小さな椅子に腰かけながら、自分の頭をじっくり洗っていた。
泡にまみれながら自分も自分の体を洗う。
「自分でかゆいところあらいな。」
固いスポンジみたいなものを渡される。
体がかゆかったり、垢が浮いてくるのが先ほどから気になっていた。
「清潔好きなんだな。今時珍しい。」
激しくうなずいておく。
女は乱雑ながらも頭をあらうと、湯をためてあるところから小さな桶でお湯をすくい自分の頭にかける。
一言言ってほしい。
「ああ悪い、目を閉じろ」
遅い。
と思っていたらまたお湯をかけられた。
こいつはふざけているんだろうか。
拳を握りしめそうになるところをぐっとこらえる。
女は、かまわず頭をわしゃわしゃと洗う。
「お前、どこから来たとかわかるか?」
突然話が始まってびっくりした。
それが相手にも伝わったのか、女が少し悩んだように、間が開く。
「あー、あれだ、お前が寝ててだいたい一週間ぐらいたったんだが」
一週間。
なんてことだ。
そんなに寝こけていたなんて信じられない。
「ここらのじゃ見かけないんだ、こういう金髪って。この国もまだ荒れてるから、もしかしたら遠くからきたんじゃないかって仲間内で話してる」
なるほど。
ようやく少し状況がのみこめるような情報がきた。
「見つけた時も死んでるかと思ったんだけどさ、ステラアートが」
?
今なんといった。
思わず振り返る。
うでまくりした白いシャツの女が、驚いたようにこちらを見ていた。
「ステラアートのこと知ってるのか?」
知ってるといわれると何とも言えない。
もうろうとしていた時に話した気もするが、あまり覚えていない。
「ステラアートはこの地域の信仰の対象というか守護神だな。ステラアートが遣わした子供だって信じてやまない奴がいるからさ、もしかしたらその可能性もあるけどね。ま、後でゆっくり説明するだろう。いまは、体調を治すのと、しっかり餌を食うことだな」
もう一度、前触れなくお湯がかけらた。
「あ、ごめん。お湯掛けるぞ」
だからと文句を言おうと振り返ったら、ざばんとまた頭からかけられた。
ぽたぽたと頭から水を滴らせて、相手を恨めしそうに見る。
泡が目に染みる。
「だからお湯掛けるって言ったじゃないか」
言ったけどさ、先にお湯掛けたことを後付けでいったのかと思ったんだよ。