イケオジ、評価される
「手のひらの上で、所詮お前はあそ、回されている程度の男よ。」
何を言ってるんだ。
頭がぐらぐらしている。
言い直したところで大して変わっていないのもすごく気になるんだが、自分の視界も定かじゃなく相手がよく見えない。
熱に浮かされたような状態で聞えるのは、女の声だ。
遠くから自分に話しかけているような。
「お前ほどの悪人は見たことがないから更生してくれと、隣の世界からきた案件だから、受けないわけにいかないけど」
案件?
隣?
ずいぶん安っぽいな。
「本来ならお前みたいなのは地獄に落ちればいいと思うが、我らが神の間ではいま人々を救おうキャンペーンで私はちょっとポイント足らないから、って回してもらったのでやらないわけにはいかない」
俗世の話しだよな。
それにしても話の半分もわからない。
「とにかくお前はこの私、ステラアートにより、わが管轄でちょうどよさそうなところに放り込むことにした。しっかりがんばって徳をつみなさい」
徳?
徳ってなんだ。今の今までだって、徳しか積んでいない。
人は殺したけど。
「ステラアートの御名をよく覚えておくのよ」
ステラアートの名前がエコーがかかったように脳内に響く。
この熱っぽい状態でそれをやられるととても頭に響く。
やめてくれ。
なんだか意識が遠のいてきた。
体が沈む。
今までどこにいたのかもわからないが、急に水の中に落ちていくような感じで意識まで飲まれていくような感じだった。
気が付いた時には、見えてるのは地面だった。
土がむき出しになった地面に自分が突っ伏している。こんなところ、前はなかった。自分の住んでいたところは、だいたい石で舗装されてこんな土埃にまみれるなんてことはなかった。
時折吹き抜ける風に土埃がまき上げられ、顔に当たる。それでも自分は指一本動かせる気がしなかった。
頭を上げることも、目をこれ以上こじ開けることも難しい。
ああ、自分は死にかかっているのか。残念だとも思わなかった。
国のためにひたすら働いた。
今にも傾きそうな自国をすくうため、攻め入ってくる敵を撃った。時には破壊されたビルのがれきの中から、時には敵兵に紛れて敵軍の暗殺へ。
銃でもナイフでも爆薬でもなんでも使った。
自国の敵、悪だといわれるものを、ターゲットといわれたら即刻排除した。
正義を名乗る悪をどれだけ退治したことか。
正義の名のもとに、悪事を働くものがどれだけ多かったことか。
自国のためといって、これは正義といって、苦しむものをたくさん見てきた。
狂った正義を正すため、一部の者には正義狩りとまで言われた。
手は血にまみれても、心は決して折れてはいなかった。自国を助ける。そのためになら、なんでもできた。
だけれど、疲れたのは確かだった。
最後に覚えているのは、スパイが紛れ込んでいるといわれた自分の街だった。家族に敵の刃が向かうと思うといてもたってもいられずに、指示の通り、疲れていようとなんだろうと夜の街へ飛び出した。戦火にある街は夜になると活気がなかった。歩いている自分の足音が妙に響いて聞えた。
誰かがついてきてる。
そこで終わった。