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短編

枯葉色の蝶々は夢を見た

作者: 高原 律月

 一日目、真っ暗あるいは暗闇。形容する言葉が見当たらないが、多分こういうのを深淵と呼ぶのではないのだろうか。

 

 朝は土砂降り、夕刻からは雲一つも無く晴れ渡り、一分の光を探すも見当たらない。

 啓示というべき衝動に打たれ、身は震え、心は嵐のように騒めいた。

 深淵はただ、身の一つを捩ることさえも無かった。


 二日目、今日は穏やかだ。何もない暗闇から少しだが光が差してきた。

 

 私はこの光に恐怖を憶えた、ただ漠然と。


 六日目、ここも大分明るくなってきた。


 以前から考えていたがここはどこなのだろうか。意味の無い問いに答えは無いのだろう、また考える。


 九日目、また明るくなった。徐々に明るくなっているのか、それとも不意に明るくなっているのかは解らない。


 少なくとも明るいことは確かなようだ。


 十日目、暗闇が光よりも少なくなっている。いつから逆転したのか、それに気が付くと急に恐怖を思い出した。


 恐怖に撫でられながらも、初めに比べ落ち着きがある。



 なぜ、怖いのか。



 考える、考える、考える。


 答えが出るのにはもう少し時間が必要なのかもしれない。





 十一日目、それから後の三日間。ひたすらに考えた。それでも、明るくなるばかり。


 十五日目、深淵は無くなった。視界明瞭ではないが、そこに一つの「何か」があることがわかる。この「何か」だが、或いは…いや、まだ解らないから「何か」なのだろう。


 深淵に比べて今は明るいが、ただそれのみである。

 例えるなら、白飛びした写真に辛うじて輪郭らしきものが写り込んでいる感じだ。

 これでは最初の頃と変わらない。


 十六日目、様子がおかしい。辺りは心なしか暗くなっていて、視界も少しだが認識出来るようになった。


 それでも在るのは、この「何か」だけだ。

 輪郭があるはずなのに無い、口頭では説明出来ないが、確かに在る。

 箱のようにも見えるが器のようにも見えて、それでいて液体や気体なのかと言われれば、それとも違う。

 時折、揺らいではいるのでやはり固形では無いといった所だ。


 十八日目、久しぶりの土砂降りだ。絶え間の無い雨音と体を跳ねる雨粒からしか判断出来ないが、雨だ。


 視界はまだまだ不安定だが、度々映る光の線が何色にも輝いて、形容するなら星の雨という感じが私的にしっくりくる。

 無性に泣きたいと思ったが、どうやって泣くのかなんてもう憶えてすらいない。

 三百六十度、どこを向いたって景色は何も変わりはしないが自然と空を仰いでみたりしてみた。

 そして、気が付く。


 上も下も無いのだ、この空間は。


 下を見ても上も見ても、はたまた横を向いてもまるで同じ。


 二十七日目、いよいよ終わりらしい。あれだけ明るかったのに、今は殆ど明かりが無い。唐突に理解したのは終わりが近いということだ。何故だかそう理解出来た。


 皮肉なもので今更はっきりした視界を得たが、最早わかるのは自分の手足くらいのもので、それすら明日になったら見えなくなるのだろう。そう思うと無性に恋しくなり、ただただ手のひらを見つめていた。


 三十日目、もう駄目なようだ。直感よりも啓示に近い確信があった。それでも不思議と恐怖は無い。杯は満たされ、踏み荒らされていない雪野原のように心は清々しかった。


 私は上下のない空間に寝転がった。


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