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7話 運命に垣間見る闇 63項「KINETIC その1」

「……すごいな。まさか、衣服をパラシュート代わりにするとは……」


 窓から後ろを眺め、感心した様子で呟く毒島。その視線の先には、自分のパーカーと大男のマントをパラシュートのように変形させ、ゆっくりと降下する二人の姿があった。


「よし、俺たちは急いで病院へ向かうぞ!」


「で、でもまな君が!」


「そうですよぶっさん! あいつを放っていくって言うんですか?!」


 酷く現実主義な発言に、楓と千空が抗議する。


 だが、毒島は至って冷静だ。


「あいつなら大丈夫だ。それに、助けに戻ったとしてあの大男も一緒なんだ。真佳が作ってくれたチャンスを無駄には出来ない」


 毒島の言葉に、苦虫をかみつぶしたような顔をしながらも納得する二人。真佳はメンバーたちが大男から逃れられるように八咫烏から飛び降りたわけで、その真佳を助けに向かってしまっては、本末転倒であった。


(それにしても……)


 毒島は、先ほどの未來や千空の言葉を思い出す。


『人は誰かを支えていて、一方で誰かに支えられている』


 その言葉に、微かなわだかまりを覚える毒島。


(誰かのため……か。だが、俺は助けられてばかりだったな)


 それは、遠い過去の記憶。


(なあ……俺は、何かしてやることが出来たか?)


 自問自答の末、記憶の中の旧友に答えを求める。


(望月――俺はお前たちに、何か出来たか……?)


 八咫烏は、病院を目指し空を行く。







 中央病院のヘリポートに着陸した八咫烏から、千空たちはぞろぞろと降りる。


 向かう先は犯人がいるという中央診療棟5階。渡り廊下を全力疾走し、目的地へ急ぐ。


「よし、まだ院長が到着したという連絡はない。先に到着できたみたいだ」


「それより、さっきの話マジなんですかね? 敵が院長を殺すつもりって」


 息を荒らげながら千空が尋ねる。それは、中央病院に到着するほんの数分前、真佳から届いた情報についてだ。その情報には真佳が大男から聞いた全ての情報が含まれていた――つまり到着直前にとんでもない情報が入ってきたわけで、メンバーたちはあれこれ考える暇がなかったのである。


 千空の疑問に答えたのは、未來だった。


「多分だけど……間違いないと思う。あの人、悪い人なのは分かってるけど……なんだろ、邪悪なものは感じなかったから、嘘は言わないと思う」


 なんとなくだからわかんないけどね、と付け加える未來。


 それでも、そんな彼女に他のメンバーも追随する。


「ボクも、話しててそれは思ったよ」


「うんうん。悪の組織の人間って雰囲気じゃなかったよね」


 どうやら皆も同じ意見だったようで、異口同音に彼への認識を語る。


 そんなメンバーを見かねて、毒島が釘を刺す。


「お前ら、殺人を犯していた組織の人間だって事は忘れんなよ」


 それは、決して忘れてはならないこと。どれだけ取り繕っていても、変わらない真実。


 だが、それを忘れるメンバーではない。


 分かった上での発言だったのだ。


「わかってるさ、ぶっさん。真佳が言っていたように、彼らにはいずれ然るべき裁きを受けさせればい」


 静也が若干の複雑さを残した顔で答える。彼は八咫烏の中でも初めは大男と協力することに反対していたので、まだ心の底からは納得できていないのだろう。


 それに、本来アイズホープという立場でそういう発言をするのは、あまりよろしくないことだ。凶悪な犯罪者と手を組むなど、本当ならあってはならない。


 しかし、静也を含めアイズホープメンバーは馬鹿ではない。より大きな脅威に対抗するためにやむを得ず、という理由ならばそれも仕方ないということを、千空を含め皆が理解していた。


 今回のパターンは、まさにそれだったのだ。


「……そうだな。とりあえず、犯人が院長を殺すつもりで、かつ拳銃を所持しているという前提で動くとするか」


 毒島も何がこの場での最適解なのか理解しているので、それ以上は何も言わなかった。だから千空も、今は目の前の事件の事だけを考えることにする。


 少し走ると、前方から機動隊の格好をした人物が一人やってきた。


「毒島さん!」


「おお芦宮、戻ってたのか! 出雲はいないのか?」


「警部は他の用事で来れなくて……」


「そうか。電話を寄越してきたときはいたのにな」


 毒島と親しげに会話しているその男は、みたところ四十歳前後と言ったところ。毒島とは十ほど離れていそうだが、知り合いだろうか?


「ああお前ら、こいつは出雲警部の後輩でな……あーとりあえず紹介は後だ。芦宮君」


「はい、こっちです。これが皆さん用の防具です」


 挨拶もそこそこに、芦宮と呼ばれた隊員は千空たちを防具置き場まで案内する。今は暢気に人物紹介をしている場面ではない。この芦宮が誰なのか、それはひとまず保留となった。


 かなり重めの防具を身につけた千空たちは、再び現場へ走り始める。


「それで、実際問題どうするんです? 犯人の要求が院長の命だとすると、人質の解放がめちゃくちゃ難しくないですか?」


 走りながら千空が毒島に問う。真佳から連絡が入る前に出ていた作戦では、一旦犯人の要求を通して人質を解放してから、犯人の確保に移るという流れだった。


 しかし、犯人の要求を通せなくなった今、犯人の意思で人質が解放されることはまずなくなった。これは状況としてかなりマズい。


 犯人が院長を殺そうとしているのならば、院長を近づけることは避けなければならない。だが、人質を解放するためには院長を引き渡すほか道はない。


「うーむ。可能性があるとすれば、遠くからバレないようにスタナーを撃ち込む、という作戦だが……これも失敗したときのリスクが大きいな」


 毒島が険しい顔で呻る。彼の示した方法なら、成功した場合は安全かつ迅速に人質を解放することが出来る。だが、その方法だと万が一外したとき人質が殺されかねなかった。ハイリスクハイリターンが過ぎる方法である。


「そもそもだな、拳銃を持ってる時点でその場の全員が人質と言えるんじゃないかい?」


「それは大丈夫です。患者や病院の職員は既に避難していて、現場にいるのは機動隊と皆さんだけなので」


「でもでも、機動隊も警察だよね? って事は狙われるんじゃないかな? 犯人は残虐な人ってまな君も言ってたし……」


「機動隊の武装なら拳銃くらいどうってことない……っと、あそこだ!」


 そうこうするうちに、千空たちは犯人がいるエリアへとたどり着く。重い装備を身につけながら全力で走ってきたので、皆、息が上がり始めていた。


 ひとまず、犯人と人質の様子を確認する。まずは状況把握が第一だ。


 犯人がいるのは5階通路。吹き抜けとなっており一階まで見渡すことが出来るので、犯人は一階の機動隊とも言葉でのやりとりが出来ているようだ。


 そんな犯人はといえば、この間のローブとフードで全身を覆っており、その様子はよく分からない。視界が制限されているからか、まだこちらには気付いていないらしい。


 とりあえず、気付かれていないうちに人質も確認しておこう。


 そして、その少年へと視線を移し――


 千空は言葉を失った。



「……え?」



 犯人に捕らえられた人質。その後ろ姿には、どこか見覚えがある。



 それは、今の千空にはよく見慣れているはずの人物。



 髪を茶髪に染め上げ、どこかチャラチャラとした風体の少年。



 ふと、少年がこちらに気付き顔を向ける。



 その顔は、やはり見慣れたあいつだった。



「中村!!??」



 あまりの衝撃で、千空はふらふらとよろける。


 すんでの所で持ちこたえ、なんとか体勢を立て直す。


 だが、この状況は千空にとってあまりにも非情な現実だった。


 人質は彼の友人――中村だったのだ。


「ち、千空?!」


 中村が驚いて声を上げているが、千空はそれにも反応できない。


 理解が追いつかない。どういうことだ。どうしてこうなった。これはいったいなんだ。


 千空は、必死に考えようとする。


 だめだ頭が働かない。首から上が熱い。思考が停止するのをとめることが難しい。


 千空は、懸命に考えようとする。


 動け、考えろ、働け。もっと脳に酸素を運べ、俺の血液。


 千空は、自分の身体を全力で鼓舞して考えようとする。


 そしてふと思い出す。宿街に入ったばかりの頃に、中村とした通話の内容を。


 そういえば、前に中村が言っていた。病気が見つかって中央病院に通うことになった、と。


 そうか、そういうことか。


 つまり、今日がたまたま中村の通院日だった。そして、たまたま犯人の側にいた。悪い偶然が、いくつも重なってしまった。


 そういうことなのだろうと、千空は火照る頭で理解した。


「なんて、間が悪いんだよ……お前は」


 力なく呟く千空。そんな千空に、中村も声を返す。


「どーして、お前がここにいるんだ……?」


 酷く戸惑った様子で声を絞り出す中村。飄々としているいつもの彼は、そこには居ない。蛇に睨まれたかのような、ただただ怯えた姿がそこにはあった。


「え、も、もしかして知り合いなの?」


 息を整えながら未來が尋ねてきたので、千空は軽く頷く。


「今の俺にとっては、一番付き合いが長い奴だよ」


「そんな……」


 愕然とした様子で口を押さえる未來。周りを見れば、他のメンバーも彼女と同じような反応をしていた。人質になったのがメンバーの知り合いだったなどと、誰が予想できただろうか。


 さらに、問題はそれだけではなかった。


「お前ら、犯人を見てみろ。聞いていたよりもまずい状況になっているぞ」


 そう言って毒島が犯人の方向を顎でしゃくる。千空たちのやりとりに気付いた犯人が「なぜアイズホープが……MASSIVEはどうした」などとぶつぶつ言っているが、なにやら様子がおかしい。


 言われたとおり犯人の姿をよく観察する千空たち。そして、あることに気付く。犯人が、ローブの中に何かを着ていることに。フードの下に、何かを被っていることに。


 それは、機動隊の防具――ヘルメットと防弾ベストであった。


「スタナーは、完全に役立たずになったな」


「うそうそ、どうしよう……」


 メンバーたちの焦りが大きくなる。あれだけ武装していては、スタナーはもう意味をなさない。スタンモードもデキャストモードも、通用しない。


 唯一の可能性であったスタナー作戦まで、潰れてしまったのである。


「くそ……中村…………」


 千空は歯を軋ませる。人質となってしまった友人を前に、自分はなにも出来ずにいる。キャストは誰かのためになれる力じゃなかったのかと、自分に問いかけずにはいられない。


 その時、千空はとある作戦を思いついた。


「そうだ、KINETICだったっけ?! 一つ相談がある!」


「……なんだ?」


 ヘルメットの奥からこもった声が聞こえる。どうやら耳を傾けてくれたらしい。


 千空は続ける。


「人質を交代することは出来ないか!? そいつは俺の親友なんだ! 俺が代わりになる!」


「なるほどぉ」


 千空の提案に、一応相づちを打つKINETIC。ヤバいとは聞いていたが、話が通じないわけではないらしい。


 千空の狙いはこうだ。まず、とにかく中村を救出する。それが第一優先だ。そのために、誰かが中村と人質を交代する。そうすることで、とりあえず中村は助かる。


 じゃあ誰がという話だが、それこそがこの作戦のポイント。そう、この状況では、千空が最適解なのである。千空ならば、操られて自傷行為をしたとしてもダメージは免れる。敵が千空の能力を知っていたらアウトだが、人質になるにはもってこいの人物であった。


「ま、まてよ千空! そんなことしたらよ……お前が――」

「お前は黙ってろ中村!」


 中村が余計なことを言わないように牽制する。なにも知らない中村が千空を心配するのは仕方ないことだし、本当ならめちゃくちゃ嬉しいことだ。だが、この状況では邪魔だった。


「どうだ……? それに、俺らなら人質として申し分ないだろ」


 慎重に、それでいて大胆に提案する千空。そんな彼を、他のメンバーも黙って見守る。これが通れば、もしかしたらそのままこいつを捕まえることが出来るかも知れない。


 だが、現実は甘くなかった。


「……」


 犯人が黙って中村を見つめる。


 直後、中村の身体が動く。


 それは、決して中村の意志ではない。


「ちょ、まて……や、やめろ、おい……」


 中村が苦しそうに呻くが、その言葉とは裏腹に身体は止まらない。


 KINETICから何か光るものを受け取ると、それを腕にあてがう。


 それは、医療用のメスであった。


「お、おい……なにする気だよ」


 焦りながら問いかける千空。だが、この後行われる行為の想像は容易に出来た。


 どれほどえげつないことが行われるのか、想像できてしまった。


 千空の問いかけに、KINETICが答えることはなかった。


 そして――中村がメスを自分の腕に入れる。


「あああああーーーー!!!」


 病院の白いフロアに、真っ赤な斑点が描かれ――やがて、一つの水たまりになる。その源流は、絶叫しつつも患部を押さえることが出来ない中村の腕。まるで湧き水のように、赤い液体がしたたり落ちていく。


 その光景に、千空はただ唖然として立ち尽くすことしかできなかった。


 だが、同時に頭では理解する。真佳が――あの大男が言っていたということを。


 残虐。


 それが、この犯人――KINETICの本質。


 交渉など、最初から不可能だったのだ。


「やりやがったな……」


 千空が小声で呟く。普通の刃物とは比べものにならぬ切れ味を持つそれを、麻酔無しで人体に入れたらどうなるのだろう。どれほどの痛み、苦痛が、彼を襲っているのだろう。


 千空の中には、複雑な感情が渦巻き始めていた。自分のせいで怪我をさせた中村に対する心苦しさ。親友をこんな目に遭わせているKINETICへの怒り。それらが入り交じり、千空の胸中はいままでに感じたことのない境地にあった。


 とにかく、これ以上相手を刺激するのはマズそうである。毒島もそれを察知したのか、機動隊がKINETICに武器を構えるのを制止している。これ以上、人質に危険が及ぶことは避けなければならない。


 一触即発の空気が流れる。もはや打つ手など考えられない。人を操る能力が厄介なのは想定内だったが、これほどまでに狡猾かつ残忍に追い込まれるとは予想できなかった。


 そんななか、状況はさらに悪化することとなる。


 まるで、運命に牙を向けられたかのように。


 一階診療棟入口が騒がしくなり、メンバーのユーフォに連絡が入る。



 ――どうやら、院長が到着してしまったようだ。

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