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5話 宿街の休日 45項「動き始める闇」

「そうか。NOISEが……」


 ビルの一室に、悲哀に満ちた声が響く。


「すまん。俺の責任だ」


 そう答えた部下に、男は座ったまま「お前は悪くない」と声をかける。しかしすぐに首を横に振り「いや、悪くないことはないか。俺たちがしていることを考えれば」と自嘲気味に呟く。


 男たちは、自分たちの正義の為に行動している。だが、それが法を無視した復讐である以上、やっていることが正義と対極のものだということは理解していた。


「は、違いねえな」


 部下の男も苦笑しながらそれに頷く。上司に対する言葉遣いとは到底思えないが、それもそのはず、この二人の上下関係は建前上のもので、実際はNOISEも含めてこの三人は対等な存在だった。


「そういや、DAMAGEのやつはどうしたんだ? 見かけねえが」


「〝あちら〟と話があるみたいだったぞ。あいつは一応、〝あちら〟の所属だからな」


「ほー。何を話してるんだか」


 男の言葉に、部下はあまり興味が無さそうに返事をする。DAMAGEと呼ばれた者は男たちと理念が共鳴した仲間ではなく、ただ派遣されてやってきているだけの人員なので、他のメンバーからあまり好かれていなかった。


「ところでなんだがよ、あの新入りの能力は、本当に情報の通りなのか?」


 すると、部下がそんなことを男に尋ねる。


「宿街から直接入手した情報だし、間違いないはずだが」


 男が不思議そうに答えると、部下は「でも……」と続ける。


「あの千空っていう坊主、俺の攻撃をものともしなかったんだよ。戦闘中に意味分からねえ幻聴も聞こえたし……」


 アイズホープとの戦いを振り返り、眉間にしわを寄せながらそう告げる部下。他のメンバーの能力は聞いていたとおりだったが、攻撃が通らなかったり幻聴を聞かせてきたり、そんな能力、事前情報にはなかった。


 その話を聞いた男は、眉をひそめながら本当かどうか部下に聞き返す。部下は「その能力に油断してNOISEは捕まっちまったからな」と、隠すことなく真実を語る。


 男は少しの間目をつむり思考を巡らせ、おもむろに立ち上がった。


「もしかしたら、データを入手するのが早すぎたのかもしれないな。データ上の能力とお前が話した能力は系統が似ているし、能力が不安定だった頃のデータを入手してしまったのかも」


 宿街から手に入れた能力に関する情報は、新入りが入ってすぐの頃のデータだった。それはちょうど彼らが訓練を行っている時期のものだったので、現在の能力とは異なっている可能性も否定できない。


「そう考えると、NOISEが捕まっちまったのは俺の責任だな……もっとちゃんと、アイズホープの情報を精査しておくべきだった」


 悔やんでも悔やみきれないといった様子で男が呟く。事前に新入り二人のキャストについてしっかりと調べていれば、不意討ちでNOISEが捕まることはなかったかもしれない。完全に、男の調査不足であった。


「とにかく、あいつらの能力の情報が必要だろ。この間入ったあいつに、最新のデータを手に入れてきてもらったらどうだ?」


「うむ……それが、確実か」


 ふうとため息をつき、男は再び椅子に座る。そして、今までよりも真面目な面持ちになり、次の話を切り出す。


「さて、今度は俺の話だ。ところでMASSIVE、お前は前にKINETICとBATTERYが襲った警官を、覚えているか」


「ああ、覚えてるぜ……KINETICの馬鹿が襲った方は、一人死んじまったけどな」


 残念そうに答える部下。どうやら名前はMASSIVEというらしい。


 そんなMASSIVEに、男が目を背けたくなるような事実を告げる。


「公表されてないから俺もつい先日まで知らなかったんだが……どうやら、KINETICが襲ったもう一人の警官と、BATTERYが最初に襲った警官も、死亡していたらしい」


「はあぁ?! ど、どういうことだよ!?」


 あまりにも衝撃的な内容に、耳を疑うBATTERY。つまり、自分たちは三人もの警官の命をこの手で奪ったというのだろうかと、彼は動揺で身体を震わせた。


「NOISEとMASSIVE、お前ら二人と違って、KINETICとBATTERYは能力を得てから日が浅い。制御しきれなかったと考えるのが、妥当だろうな……」


 男がそう推察し、自分の見解を述べる。特に、KINETICとBATTERYは少々難儀な性格をしていたため、強力な恨みの感情によって能力が暴走しても、本人すら気がつかない可能性があった。


「くそ……」


 MASSIVEが一言だけ呟き、奥歯を噛む。男たちは人を害するために行動していたわけではないので、自分たちが人を殺してしまったという事実は、二人を強く苛んだ。


 そんななか、男はあることを思い出した。


(3人、じゃない。あの人も含めれば、4人だな……〝あちら〟が殺したらしい、あの人も)


 それは、自分たちがとある事件を起こした時に殺された、ある人物のことだった。


 名前は確か望月――


 その時、ドアが開き誰かが部屋に入ってくる。


「〝あちら〟との連絡が終わった」


 そう言うなり、入ってきた人物は入口近くの壁にもたれかかる。それは、先ほど少しだけ話題に上がっていたDAMAGEであった。


「一体なんの話をしていたんだ?」


 男がDAMAGEに尋ねる。DAMAGEは度々〝あちら〟と連絡をしているが、その内容が男たちに知らされたことはついぞなかった。


 そんな男たちに、DAMAGEは冷徹にあることを告げる。


「アイズホープメンバーを始末する」


 その言葉に、男とMASSIVEはすぐさま反論した。


「俺たちの目的は警察に非を認めさせ謝罪させることだ。計画の邪魔だとしても、殺すようなことはあってはならない。これ以上……犠牲を出させるな」


「ああ、そうだぜ。なにを考えているのかは知らねえが、俺たちはそんな真似しないし、お前にもさせない」


 DAMAGEの言葉に、猛反発する二人。すでに3人もの命を奪ってしまったのだ。これ以上自分たちが命を侮辱することは、許されない。


 だが、そんな二人の抵抗を無視して、DAMAGEは淡々と告げる。


「お前たちの失態で鉱山を失ったことを忘れたのか。残念だが、拒否権はない。お前たちがやらないのならば、私一人で実行するまでだ」


 ふ、と二人のことを鼻で笑うと、DAMAGEはそのまま部屋を出て行った。


 部屋の中に重い空気が漂う。どうしてこうなってしまったのだろうかと、二人は考える。


 〝あちら〟と手を組んだことが間違いだったのだろうか。手を組まずに、自分たちだけでなんとかしていればあるいは……しかし、手を組まなければ自分たちはここまで大きくなれなかったのも事実。どうすれば良かったのか、答えは出ない。


 しばらくしてMASSIVEも部屋を出て行くと、ビルの一室に、男だけが取り残された。


 男は、一人考える。


(〝あちら〟とは対等なものだとばかり思っていたが、そんなことは無かったようだな……なんにせよ、新入りのデータは必要だ。早めに入手した方が良さそうだな)


 そう考え、とある人物に電話をかける男。その人物は、すぐに電話に応答した。


『お疲れ様です、代表。どうなさいましたか?』


「少し頼みたいことがあってね」


 相手に用件を伝える男。電話の相手は、その用件をすぐに了承する。


『承知いたしました。では、次の訪問の際に受け取って参ります』


 MASSIVEとは違い、丁寧な言葉で男と受け答えをする相手。


 そして男は、電話を切る直前に、期待の声を相手に投げかけた。




「ああ、それじゃあ頼んだよ、神木君」









「そうだ、この写真みるか?」


 父の話を終えた千空が、ロケットを未來に見せてきた。千空の父が一体どういう人物だったのか見当もつかなかったので、見てみる価値はありそうだなと、未來は思った。


 なので、彼に頷きロケットを受け取る未來。


 もしかしたら、この写真を見ることで何か分かるかも知れない。風見の話と千空の話が食い違っている原因は、このロケットの写真にもある。ならば、その写真を見れば、あるいは……


 そんな思いを胸に、未來はロケットを開いた。



(えっ…………?)



 しかし、そこに写っていた人物に、未來は一瞬思考が停止した。


 どういうこと?


 なぜ?


 どうして?


 そんな言葉が、彼女の頭を巡った。



 ――彼女が開いた千空のロケット。そこに写っていたのは、あの日の記憶の中で倒れていた少年と、あまりにも似た人物だった。



 それだけではない。幼き千空の後ろに立つ男性。その人物にも見覚えがある。それは、検査のため財団に連れて行かれたときに何度か会ったことのある人物で……


 その時、寝ていた千空が身体を起こした。汗を拭くためだったが、その拍子に額に乗せていた冷却シートが外れ落ち、いつもは前髪で隠れている部分があらわになる。


「……っ!!」


 そんな彼の額を見て、未來は言葉を失った。


「キミ、その傷は……?」


「あーこれか? さっき言った事故の時に怪我してさ」


 静也とそんなやりとりをする彼の額には、大きな傷跡が残っていた。


 それは、記憶の中の少年が怪我をしていた部分と全く同じで。


(うそ……? そんな、はず…………)


 未來はもう、何も考えられなくなってしまった。

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