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5話 宿街の休日 43項「受け継いだ力」

 それは今から8年ほど前、英暦512年の、春も終わりを告げる頃。


 杏都(きょうと)府に位置するMES財団の施設が、とある襲撃者の攻撃を受けた。


 襲撃者は数名。仮面をつけていて顔は確認できなかったが、一人一人がホバリング装置とステルス装置を装備しており、そんな襲撃者から繰り出される銃火器攻撃に、財団は為す術無く蹂躙された。


 建物の一部が崩壊し、研究施設からは出火。大きな爆発を起こす建物さえあり、その場に居合わせたキャスターにより被害は途中で食い止められたが、それでも財団施設の被害は尋常でなかった。


 襲撃者の目的は不明。だが、今回の襲撃に限れば、一つだけ分かることがあった。


 それは、この襲撃の目標が財団所属キャスターの拉致である、ということだった。


 特定の誰かを狙っていたのか、はたまたキャスターなら誰でも良かったのかはわからない。敵の目的が不明である以上、なぜキャスターを狙ったのかすらも分からないのだから。


 そうして、施設全体が混乱に包まれた頃、敵はある一人のキャスターに狙いを定めた。


 その人物は財団の中でもかなり優秀な職員で、その身に宿すキャストも極めて強力。それが襲撃者に狙われた理由なのかは分からないが、とにかく優れた人物だった。


 そしてなにより……その職員は、毒島の友人だった。


 未來の検査でたまたま財団を訪れていた毒島は、友を救うため決死の覚悟で襲撃者に立ち向かった。だが、たとえ意志の力が強くとも、生身の人間では限界がある。毒島が大怪我を負った理由、それは友を救うため、自分よりも遥かに強い存在に戦いを挑んだからであった。


 現実は非情なもので、そんな毒島の敢戦も虚しく、その職員は襲撃者に攫われていった。目的を達成した襲撃者は去って行き、後には半壊したMES財団の施設と大勢の負傷者が残るのみだった。


 財団に大きな傷跡を残した悪夢のような出来事。それが、8年前に起こった「MES財団襲撃事件」の顛末であった。







「そういうわけだ。俺と未來は、その時に大怪我を負ったわけだな」


 話を終え、ふうと息をつく毒島。話している最中はかなり真剣な表情になっていたが、今はもういつもの無愛想な顔である。


「ということは、ボクがサリエルを発症して訓練を受けている時に事件が起こったわけか。だから、ボクがアイズホープに入ったとき、風見ネエさんしか居なかったんだな」


 すると、静也がそんなことを言い出す。そういえば、静也が来たときのことは聞いたことがなかった。


「というと?」


「ボクが入った当初は、ぶっさんと未來は入院していたのさ。理由は知らされていなかったけど、そういうことだったんだな」


 静也の話によると、彼が宿街に来たのもちょうど8年前の春なのだという。その後、三ヶ月に渡る訓練の末アイズホープ入りを果たしたのだが、どうやらその時アイズホープには風見しかいなかったらしい。当時のメンバーは毒島、風見、未來の三人だったそうなので、二人が入院している以上、残ったのは風見だけだったのだ。


「ちなみに、アタシもその時財団に居たのヨ。二人みたいに大きな怪我はしなかったけどネ」


 毒島と静也の話に付け加える形で、風見が話す。怪我はしていたが入院するほどではなかったそうで、アイズホープに一人残って静也を迎えることが出来たのはそのためなのだとか。


 感心しながら飲み物を口にする千空。政府の隠蔽体質のせいか財団の事件はニュースになっていなかったので、当事者からここまで詳しい話が聞けるというのは、貴重な体験だった。


 千空がグラスを置くと、毒島がまた真面目な顔に戻る。


「それで、ここからが重要だ。どうして俺が、この話をお前らにしなければいけなかったのか」


 メンバーを見回しながらそう告げる毒島。そういえば、彼はこの話をする前、今話さなければいけない理由があるかのような言い方をしていた。


 固唾を呑んで毒島の言葉を待つ。数秒の後、彼は口を開いた。


「鉱山で仮面を付けた奴がいただろう」


 その言葉に、メンバーの間に緊張が走る。そういえば、話にあったような仮面の人物を、最近見たことがある。


 まさか、そんな……と、誰もが心の中で目を背ける。確かに鉱山にもそのような怪しい奴はいたが、そんなはずはない、違ってくれと。


 だが、そんなメンバーに毒島は淡々と告げた。



「恐らくあいつは、財団の襲撃者と同じ組織の人間だ」



 その目は、真剣そのものだった。冗談とかからかっているとか、そういう雰囲気は全く感じられず、ただ一つ分かるのは、彼がとんでもないことを口にしたという事実だけだった。


「鉱山で見たあの仮面、俺には見覚えがあったんだ。間違いない、あれはあの時財団を襲った奴らが付けていた仮面と同じものだ。色や模様に違いはあるが、間違いなく同じものだった」


 非情なまでに、現実が千空たちに押し寄せてくる。


 正直、この話の信憑性はたかが知れている。当時を知る者は毒島、未來、風見の三人しかいないのに、未來は当時幼く、風見は鉱山で仮面を見ていないため、結論を出すことが出来るのは毒島ただ一人だったのだから。


 なのに、それなのに、毒島の出した結論は、そうと信じさせる妙な現実感があった。嘘じゃない、それが真実だと、えもしれぬ感覚が千空たちを支配するのだ。


「そういえば、あの時戦った二人、急に居なくなったり空から降ってきたりしてたわよね。もしかして、あれもそうだったのかしら?」


 優奈もそんなことを言い出す。確かに、鉱山の前で戦ったあいつらは不可解な機動をしてきたし、先ほどの襲撃事件の話とも繋がる。可能性はあるかもしれない。


 メンバーの間に不安が押し寄せる。


 しかし、優奈の問いに対する毒島の答えはノーだった。


「違うな。ステルス装置とホバリング装置は音が出る。あの時、そんな音しなかっただろう?」


 毒島が言うには、襲撃者たちが付けていた装置は音を発するらしい。人間の耳でも十分聞こえる音らしいので、それが聞こえなかったと言うことは、その装置は使用していないと言うことなのだとか。


「仮面を付けていなかったことも考えると、恐らくあの二人は別の組織だな。あの二人は、セレモニーで捕まえた奴と同じグループの人間だろう。仮面の襲撃者たちとは、あくまで協力関係と言ったところか」


 敵の組織形態について考察を述べる毒島。つまり、二つの敵グループが存在していると言うことだろうが、財団襲撃事件の犯人たちと今自分たちが戦っている敵グループが協力関係にあるというのは、かなり厄介な事実だ。


 当時の財団はキャスターを何人も抱えていたはずなのに、襲撃者に太刀打ちできなかった。つまりそれは、それだけ犯人グループが強い存在だということの証明になるのだが、そんな敵を、アイズホープでどうにかできるものなのだろうか。


 千空が不安げに思考を続けていると、楓が口を開いた。


「でもでも、鉱山はもう捜査できないし……その人たちと戦うことはないんじゃないかな?」


 彼女の言葉には、一理あった。


 確かに、鉱山にいた仮面の人物は、今のところ向こうからこちらに接触してきてはいない。道中に襲われたときも、千空たちを追い返しに来たのは仮面の人物とは別だった。


 そもそも、千空たちを襲ったのも鉱山を調査されたくなかったからであり、こちらから何か行動を起こさなければ、戦いになるどころか出会うことすらないように思えた。かなり強力な相手だし、戦わなくて済むならそれに越したことはない。


 だが……


「うむ。こちらから手を出さなければ、戦闘になることはまず無いと思いたい。だが、あの襲撃者どもがアイズホープに興味を示さないとも限らないからな……」


 なんにせよ警戒は必要。毒島は、そう言いたいのだろう。今のところ恨まれるような理由はないが、相手は財団を襲ったときキャスターを連れ去っている。アイズホープのメンバーを狙わないとは限らなかった。


「実はアタシが戻ってきたのも、それが理由だったのヨ。今後しばらくは外に出るとき警戒したいから、アタシにも来てくれってネ。アタシのキャストなら、それが出来るから」


 風見がそう言ってウインクする。完全に静也と同じ系譜だが、確かにそういう理由ならいきなり出張から戻ってきたのにも納得できた。


「そういうわけだ。今、お前たち用のスタナーを作ってもらっている。今のところ戦いが起こる気配はないが、一応外に出るときは携帯するようにしよう」


「危険だから俺たちには持たせなかったんじゃ?」


「そうも言ってられないだろう」


 そうして、この話は一旦区切りとなった。


 だが、毒島の口からはすぐに別の話題が切り出された。


「もう一つ、宿街に帰ったら俺から話したいことがある」


 そしてその内容は、千空以外の全てのメンバーが想像できるものだった。


「千空のキャストについてだ」







 キャンプを終えたメンバーは、そのまま解散ではなく一度センターまで戻ってきた。外で話すのはまずいということで、いつものオフィスに集まる。


 会議机を囲み、皆が毒島に注目する。


「これから話すことは、トップシークレットだ。絶対に、口外してはいけない」


「いや、俺の能力のことですよね? どうして、そこまで?」


「まあ、話を聞いて貰えれば分かるさ」


 そして、話し始める毒島。


「まず、千空。お前は自分のキャストを、どういうものだと認識している?」


「身体へのダメージを軽減するもの、ですよね。まあダメージというか、身体へかかる力って感じですけど」


 千空が答えると、毒島は「そうだろうな」と頷く。しかし、すぐに首を振って千空の意見を否定した。


「確かに最初の検査でもそういう結果が出ていたし、お前にはそういう説明がされた。だが、どうやらお前の能力はそう単純なものではないらしい」


 そう言って、腕を組みながら目をつぶる毒島。ただでさえ無愛想な顔が、どんどんと険しくなっていく。というか、自分の能力がそれだけではないって一体どういうことだろうと、千空は首をかしげた。

「そのことについて、優奈以外のメンバーは心当たりがあるはずだ」


 毒島がメンバー全員に目配せすると、千空以外の人間が首を縦に振る。優奈も「あたしも楓から聞いているわ」と心当たりがあるようだったので、本当に千空だけがなんのことか分からないでいた。


「一体、俺のキャストってなんなんですか?」


 不安に思った千空が尋ねる。自分のキャストのことを、自分以外の人間だけが知っているなんて、あまりにも気持ち悪かった。


 そんな千空に、毒島が答えを口にする。


 だが、それはあまりにも衝撃的なものだった。


「千空、お前のキャストはな、他人のキャストを強化することが出来るんだ」


「はあ?!」


 想像だにしない答えに、思わず大きな声を上げてしまう千空。


 意味が分からない。だって、自分のキャストは実際にダメージを軽減しているのだ。だったらそういう能力のはずだし、他人のキャストを強化だなんてまったく繋がりが見えてこない。そもそも、なぜそのことを他のメンバーは知っているのだ。


 困惑する千空に、未來と真佳が答えた。


「あのね、このあいだ鉱山に来てもらったでしょ? あのとき、私キャストが使えなかったんだ。今にして思えば敵の攻撃の影響だったんだと思うけど……でも、千空君に来てもらってから、ちゃんと発動できたの」


「僕も、千空さんが近くに居るとき、能力の性能が上がるんです。たまたまかとも思いましたけど、未來さんの件を考えると、そういう力もあるんじゃないでしょうか?」


 そんな二人に、「マジかよ……」としか返すことが出来ない千空。突然こんな話をされて、すぐに飲み込めるわけがなかった。


「聞くと、お前は楓のキャストを彼女が検査をする前に体験しているみたいだし、その線はかなり濃厚だ。そしてそれだけじゃない、お前が他人のキャストを強化する力を持っているという、決定的な証拠がもう一つある」


 未だ混乱している千空に、毒島が追い打ちをかけるように言う。一体、どんな証拠だというのだろうか。心当たりは、ない。


「それって……?」


 千空の問いに、毒島は静かに答えた。



「お前の父親も、同じキャストを持っていたからだ」



 毒島の言葉に、場が静まりかえる。心臓の鼓動すら聞こえてくるんじゃないかというほどの静寂が、辺りを支配した。


 数秒の後、千空はやっと彼が何を言ったのか認識する。だが、理解が出来ない。


 自分の父親が、なんだって……?


「何を言ってるんですか? つまりそれって、俺の父さんがキャスターだったってことじゃないですか。そんなわけないですよ。それじゃあ、なんで俺の一家は宿街の外で生活してたんですか。キャスターってことは、宿街にいるはずじゃないですか」


「サリエル発症者本人は絶対だが、家族は強制じゃない。お前だって、母親が来るか来ないか家庭内で決めていただろうに」


「それは……」


 渾身の反論をしたつもりだったが、あっさりと返されてしまう千空。


「でも、そんな話、一切……」


「宿街のことを子どもに伝えたら、話が外に洩れる」


 千空がなにかを言う度に、どこか冷徹に告げる毒島。普段は無愛想ながらもどこか温かみを感じられるのに、今の毒島は、ただただ冷たかった。


「話を戻すが、お前の父親はお前と同じ力を持っていた。過去に例がないからこれが遺伝によるものなのかはまだ分からないが、確かに、同じ力だ」


 それに、と。


「財団を襲った襲撃者は、財団の中でも優秀なキャスターを連れ去ったんだ。ということは、キャストを強化する力なんて、奴らは喉から手が出るほど欲しいんじゃないか?」


 そう言って千空を正視する毒島。千空のキャストについて彼がトップシークレットと言ったのは、それが理由だったのだろう。つまり、この情報が洩れれば、次に狙われるのは千空だ。


「こちらから手を出さなければ狙われないというのは、あくまで相手にとってこちらに価値がなければの話だ。あの襲撃者どもと戦闘にならないためにも、絶対洩らしてはいけない」


 そう言って、毒島が話を締める。


 千空は、ただただ呆然としていた。キャストのことだけではない。自分の家族について、赤の他人から真実をまじまじと突きつけられたのだ。自分は家族なのに、父について何も知らなかった。それが、ショックだった。


 千空には、父の記憶が一つも無い。それは紛れもない事実で、覆すことはできない。だから、母から度々聞かされる父の話を千空は真剣に聞いていたし、その偉大さを誇りに思っていた。


 でも、それでも。



 ――記憶がない



 その事実が、今になって形を帯び、千空の心にまとわりつく。


 千空はしばらく、何も考えられそうになかった。

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