4話 鉱山と仮面の男 34項「鉱山へ」
病院へ送り込まれた翌日、前日の様子が嘘だったかのように元気を取り戻した彼女は、他のメンバーと共に違法な採掘場があるという鉱山を訪れていた。
「鉱山って初めて来たけど、こんな感じなんだ……」
周囲を見回し、その様子をじっくりと観察する未來。
鉱山と言うからには、採掘用の機材だとか運搬用のレールだとか、そういったものがあるのかと思っていた。しかし、未來が確認した限りでは目に見える範囲にそういうものは一切無い。
ただの洞窟と言われても、信じてしまいそうなくらいであった。
「いや、これは明らかにおかしいです。機材が置いていないだけならまだしも、支柱や梁すらないなんて……普通じゃないです」
未來のつぶやきに答えたのは真佳だ。
真佳に続いて、毒島も答える。
「真佳の言うとおりだな。事前の調査で、この辺りの地質はかなり脆いことがわかっている。柱で強固に補強してあったとしても落盤の危険があるのに、これはどう考えてもありえない。十中八九、何かしらのキャストによるものだろう」
本来、鉱山の坑道は支柱や梁によって補強をする支保工というものを施す必要があるのだという。対策も無しに作業をすれば、落盤などの危険があるから。
特に、この鉱山のように地質が脆い箇所に坑道を作る場合はかなり十全な準備や対策が必要になるはずなのだが、ここにはそういった痕跡が一切無い。
未來には分からなかったが、鉱山や坑道について知っている人から見れば、何らかの超常的な力が働いていると言うことは明白だった。
「だから、キャスターの仕業だってわかったんですね」
「まあ、そんなとこだな」
「ちょっと待ってくれ、そんな危険なところに、ボクたちは今から入っていくのか?」
すると、静也が慌てた様子でツッコミを入れる。
確かに、毒島の話を聞いた限り、このまま調査をするのは危険なように思えた。
今現在、未來たちは坑道の入口付近にいる。まだ外の明かりが届く範囲なので、万一崩壊したとしても、ここならばそこまでまずいことにもならないだろう。外では出雲警部たちも待機しているし、問題は無い。
しかし、このまま奥まで潜っていくとなれば話は別だ。
先ほどの話を聞く限り、この坑道はキャストの力だけでその存在を維持しているようなものである。キャスター本人が居ない今、その力がちゃんと働いているかは分からない。
万が一、坑道の奥で落盤が起きたりしたら……出雲警部たちにはどうすることも出来ないだろうし、想像するだけで生きた心地がしなかった。
だが、毒島はそんな二人を安心させるように言う。
「大丈夫だ、流石にそれは俺たちもわかってるからな。今日の捜査はこの辺りの浅いところで行う。深いところの調査は、しっかりとした安全対策が出来てからだ」
「なんだー……よかった」
ほっとしたように胸に手を当てる未來。アイズホープとはいえ、流石にそこまで鬼畜なことはさせないようであった。
あれ、でも先日の事件もすごく危険だったような……と一瞬疑問に思う未來だったが、あの事件は実際に能力者と戦闘になる可能性があったから、同じく能力者である未來たちが戦わなければいけないのは必然であった。
今回は時間もたっぷりあるし、安全対策が完了するまでは浅いところの調査だけでも問題ない。だから、無理に危険を冒す必要は無いということなのだろう。
「今日がボクの命日になることは、なさそうってことか」
「そういうことだ。というわけだ、未來。早速頼むぞ」
「わかりました」
そして、キャストを発動しようとする未來。
今回の捜査の目的は、この鉱山にどんな人物が関わっているのかを確かめることだ。実際の採掘の様子などは奥まで行かなければ分からないが、誰が出入りしていたかくらいなら入口でも十分分かる。
というわけで、キャストを発動しようとしたのだが……
あ、あれ……?
「どうした、未來?」
いつもと違う未來の様子に、毒島が声をかける。
しかし、未來はそれどころではなかった。
「REAXTION」が、発動しない……?
おかしい。前回の発動から数日経っているし、範囲指定の制限は解除されているはず。なのに、なんでキャストが発動しないの? どうして?
初めての状況に慌てる未來。
しかし、すぐに気付く。
――違う。キャストが発動してないんじゃない……発動してるのに、操れないんだ。
精神を集中し確かめると、未來の「REAXTION」は既に発動していた。範囲指定もバッチリである。なのに、なぜか過去を観ることだけ上手くいっていないようであった。
「キャストが、上手く使えない……」
「なに? どういうことだ?」
ぽつりとつぶやいた未來に、毒島が問う。どういうことか聞きたいのは、こっちである。
今まで幾度となくキャストを使ってきたが、こんなことは初めてだ。だから、未來にも何がどうなっているのか全く分からない。
「もしかしたら、前回の無理がたたっているのではないでしょうか? キャストは精神によるところが大きいですし、いくら身体が元気になったとは言え、まだ完全にキャストを操れるほど精神が回復していないのかも……」
「うーむ。一理あるな」
前回の戦いで、未來は無理をしてキャストを連続で使用した。しかも、しばらく全力で走った後のことだったので、余計に心身への負担が大きかった。現に、昨日だって未來は急遽入院することになったのだ。
だから、今のこの状況は、身体の方が元気になっても精神の方がまだ万全ではない。そういうことなのかも知れなかった。
「となると、やっぱり今日の捜査は無理そうだな。こればっかりは、仕方ないがね」
静也が肩をすくめてそう言うが、事実、このままでは捜査を続けられなかった。
未來としてはみんなに迷惑をかけたくないし、このまま捜査を続行したいところだが……未來のキャスト「REAXTION」がこの調子では、続けたくても続けられないというのが現実であった。
「そうだなぁ。外の警部にも伝えて、今日の所は出直して――」
「あ、待ってください。一つ考えがあるのですが……少しいいですか、毒島さん?」
「ん? ああ、構わんが……」
すると、真佳がそんなことを言って毒島を連れてどこかへ行ってしまった。
一体何の話だろう? それも、なぜ他のメンバーがいない所で?
突然の真佳の行動に、疑問符を浮かべる未來たち。
そして、しばらくして二人が戻ってくると、毒島はこんなことを言い出したのだった。
「一度、ここに千空を呼んでみる。話はそれからだ」
真佳は毒島を連れ、一度坑道の外へ出た。
「それで、その考えってのは何なんだ? というか、あの二人の前だとまずいのか?」
「まずいことはないですが、確証がありませんでしたので……」
そう言って、坑道の方を見る真佳。どうやらなにかに気付いたようだが、確証がなかったため二人には話さない方が良いと思ったのだろう。
「そうか。で、考えってのは?」
「はい。千空さんを、ここに呼んでみてはどうかと思いまして」
「……どういうことだ?」
真佳が口にしたのは、千空をここに呼ぶという突拍子のない考えであった。何故今ここに千空を呼ぶことが、未來が能力を使えないことの解決に繋がるのだろうか。
意味が分からない様子の毒島に、真佳が自分の中に生まれた疑惑を告げる。
「実は――」
重い口を開いて、言葉を発する真佳。
そして、真佳の口から告げられたその疑惑は、毒島を驚愕させることとなった。
「それ、本当なのか?」
「はい。確証はありませんけど、楓姉ちゃんにも確認しましたし……」
「そうか……わかった。とりあえず、千空を呼んでみよう」
彼の言葉に、ほぼ即決で真佳の案を採用する毒島。
真佳が口にした疑惑――もとい可能性。
それは、この状況を打破することができるものだった。
いや、それだけではない。それは、そんな単純な話ではなかった。
真佳の言葉が事実だとするのならば、それは今までのキャストに関する前提を大きく覆すことになる。彼の話は、それほどスケールの大きなものだったのだ。
(ったく、未來のことといい、運命ってのはこれだから……)
毒島は内心、運命というものの不条理さに悪態をつく。
だがしかし、それで問題が解決するというわけでもない。
ともかく、事実の確認という意味も込めて、千空をここに呼ぶ必要が出来た。
そうして、捜査メンバーたちは千空をここに呼ぶことになったのだった。




