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3話 不善なる能力者 21項「次のターゲット」

「しかし、被害者の人ってユーフォ決済すら使わないような人だったんだろ? そんな人が、よくネットアイドルを推していたな。かなり珍しい話なんじゃないか?」


 次の日、オフィスに集まったメンバーはそんな会話をしていた。今の会話だけ聞くと事件に関する話題に思えるが、実際の内容はただの雑談である。


「そうだな。でも、それだけあの二人が凄いってことだろ。事実、俺も今までアイドルとか全然興味なかったのに、あの声を聞いた瞬間に引き込まれたからな」


 彼らが話していたのは、紛れもなく「AKプラチナディアーズ」のことであった。


 そしてその話題は、彼女たちの凄さについてである。


「ぶっちゃけ聞くけど、どうしてそんなに人気なんだ? いや、ネットニュースになったりするくらいだから人気だってことは理解したんだが、どうしてそこまでって、疑問に思ってね」


 静也が不思議そうに首を傾ける。かなり直接的な意見だったので優奈が「失礼でしょ」とたしなめていたが、千空は別に良いよと質問に答えた。


「実際どうなんだろうな……顔や声は他のアイドルと大して変わらないみたいだし、確かにファン目線でも、あそこまで人気が出た理由はちょっと分からないな」


 素直な意見を口にする千空。彼としても、正直そうとしか答えようがなかった。


「え? ファンなのに分からないの?」


 未來がごもっともな意見を口にする。しかし、本当に千空には何も分からないのだ。


 千空が彼女たちを知ったのは、友人である中村の布教がきっかけである。中村が勧めてきた有栖の配信を観て、丁度コラボ出演していた雪希にがっつり引き込まれたのだ。


 今まで千空はアイドルにまったく興味が無かったので、本当に、どうしてそんな一瞬で魅了されたのかは本人にも分からなかった。


「俺としてもさっぱりだよ。多分、スピリチュアル的ななにかだろ」


「それでも、これだけファンがいるのなら、きっと何かしらの理由があるのでしょうね。一度配信を観たことがあるけど、あの盛り上がりは本物だったわ」


「そうだろ! 三崎さんもファンみたいだし、みんなにもおすすめするよ」


 と、自分が好きな理由はよく分からないのに、しれっと布教しておく千空。とはいえ、宿街ではあまり流行っていないみたいなので、せっかくだし広めておいても損はない。


「ところでさ、真佳と楓さんは二人でなにやってんだ?」


 アイドルの話が一通り終わったところで、千空は雑談に参加していなかった二人に声をかけた。オフィス内には居たものの、部屋の反対側で二人して何やらやっていたのだ。


「え? えっと……なんでもないよ」


 おろおろしながらそう答える楓。これは、多分なにかあったやつだな。教室の花瓶を割ってしまって隠そうとしている生徒と同じタイプの反応である。


 一体何をやらかしたのだろうか?


「その様子でなんでもないことはないだろう。なにかあったのかい?」


「いえ、本当に大丈夫ですので……」


 今度は真佳まで言い逃れを始めた。どうやら隠し通す気満々のようである。


 でも、一度冷静に考える千空。


 そういえば、楓はともかく真佳は超が付くほどの真面目くんだったはずである。楓だけならまだしも、真佳が都合の悪いことを隠そうとするとは考えられないので、もしかしたら本当にたいしたことではないのかもしれない。


 そもそも二人は元からの知り合いみたいだし、その辺のことでの相談とかの可能性もある。なので、外野がずけずけと踏み込むのは良くないかも知れなかった。


「そう。なにかあればあたしたちにも頼りなさいよ」


「うん、その時はよろしくね」


 優奈も千空と同じように考えたのか、大人な対応でこの話を終わらせていた。さすがは年長者である。


 すると、毒島が段ボール入りの資料を持ちながらオフィスに入ってきた。


「次の任務が決まったぞ」







「来週の日曜日、藍地県警の記念セレモニーにて犯人を捕まえる」


 開口一番、毒島はメンバーにそう言い放った。


「なるほど。唐突すぎてついていけないな」


「そうだよね……どういう経緯でそうなったんだろう?」


「お前らがそう思うのも無理はない。まずは、順を追って説明する」


 というわけで、恒例となる毒島の説明が始まった。


「まず初めに、先月の事件と今回の事件との関連性が見つかった」


「あれ? それってさ、両方とも被害者が警官だったって話だよね? だったら、この前関連性はないんじゃないかって話だったと思うけど……」


「いや、それ以外の共通点が見つかったんだ」


 そして毒島は、二つの事件に関連性があることの裏付けとなる共通点を説明した。


 その共通点とは……今回の事件に関わっていた警官が、以前、同じ事件を追っていたということだった。それも、悪い能力者による事件だったようである。


「たまたまってことはないのか? 被害者二人が同じ署の警官なら、過去に同じ事件を担当していたって不思議ではないだろうし」


 思案げな顔で意見を述べる静也。


 確かに、毒島が話した内容だけでは根拠としては弱い。静也の言うとおり、同じ署に居れば同じ事件を担当する警官は山ほど居るだろうし、周りのメンバーもそう思ったようで、彼に頷いていた。


 それに対し、毒島はこう答えた。


「そうだな。確かに二人が被ったくらいならば、たまたまってこともあるだろう。だが、それが三人だったら、どうだ?」


 含みのある言い方をする毒島。


 一体何を言いたいのだろうかとメンバーが戸惑っていると、毒島は彼らの返事を待つことなく先を語った。


「先月の事件で同僚を刺した警官がいただろ? そいつも同じ事件を追っていたんだ」


「「えぇ!?」」


 毒島の言葉に、メンバー一同は驚きの声を上げた。


 被害者二人だけではなく、先月の事件の犯人であった警官までもが同じ事件を追っていた。つまり、一連の事件に関係していた人物全員に、共通点があったことになるのだ。


「一件目の被害者と加害者、そして二件目の被害者。その全員に繋がりがあるのだとすれば、これはもう二つの事件に関連性があると考えて間違いないだろう」


 その話が本当ならば、根拠としてはかなり有力なものとなる。ここにきて二つの事件の関連性が発覚するとは……千空としても驚きを隠せなかった。


「一件目の犯人だった警官に話を聞くことは出来ないのかしら? 当事者ならなにか心当たりがあったりするんじゃない?」


 優奈が提案する。


 考えてみれば、加害者側の警官は生きていた。それならば本人に直接詳しい話を聞くことも可能なので、かなりの名案のように思えたのだが……


 彼女の提案を、毒島が残念そうに退けた。


「それが出来たらとうにやっていたんだがな。俺もさっき知ったんだが、どうもその警官……取調中に舌を噛んで自殺しちまったらしいんだよ」


「おいおい嘘だろ?! そんな報道みてないぞ!」


 驚愕するメンバー達。まさか加害者側も亡くなっていただなんて、誰一人として知らなかったのだ。報道されてないとは言え、そんなに重要な情報ならせめてアイズホープには流して欲しかった。


「来月にセレモニーを控えている時期だったからな。取調中に犯人が自殺したなんて報道されたらたまったもんじゃない。そもそも、あの事件を報道すること自体かなり躊躇したみたいだぞ」


「まあ、常套手段ってところかしら……報道しないって言うのは、別に嘘をつくわけではないしね。事情が事情だから、仕方ないことかもしれないわね……」


 難しい問題であると、複雑そうな表情を浮かべる優奈。確かに、大事なセレモニーの前ともなれば、そりゃあなぁ……報道するわけにもいかないか。


 すると、毒島がこんなことを言い出した。


「だがな。俺は彼が自殺したのは、警察の失態が原因だとは思っていない」


「え? どうして?」


 話を聞いた限りどう考えても警察の取り調べが原因なのに、何故か毒島は彼らが悪くないと言いたいようだった。一体、どういう意味なのだろうか?


 メンバーが疑問に思っていると、毒島は神妙な顔で続きの言葉を発した。


「さて……あの警官が言ってたこと、覚えてるやついるか?」


 その発言に、なんとなく嫌な予感がするメンバー。


 そういえばあの警官、取り調べの時に妙なことを言っていたと報道されていた。


 形容しがたい不吉な空気が、オフィスを包み込む。


 誰もが口をつぐむ中、思い当たる節があった千空がそれに答えた。


「……自分は操られていた、ってやつですよね?」


「ああ、それだ。多分だが、その自殺した警官は操られて自殺させられたんだと思う」


「ははは、そんなまさか……」


 毒島の発言に、メンバーは信じたくないといった様子で耳を背ける。


 毒島が語ったその説は、正直信憑性はあった。その警官は当初から依然としてその主張を変えなかったみたいだし、能力者ならば人を操ることが出来ても不思議ではないから。


 人を操る能力に関しては、今回の捜査の初期段階でも可能性は考えていた。ただ、それを考慮していなかったのは、仮に前回の事件が人を操る能力者によるものだとしても、今回の事件とは関係ないと判断したからである。


 事件に繋がりがあるとわかった今、改めて状況を考えると……


「人を殺せる上に、操れる能力……最悪ですね」


 まあ、そうなるだろうな。人を殺すだけでなく、操る力もあるだなんて、凶悪すぎる。


「捕まえ、られるのかな……?」


 かなり真剣な表情で、未來がつぶやいた。そこには不安というよりは疑問の色が強く表れており、彼女の胸中を察することが出来た。


 確かに、アイズホープは強力な能力者の集まりだ。過去を観たり、ものを自由に変形させたり、他にも様々な能力をメンバーたちは持っている。


 だがしかし、こんな殺意の塊みたいな奴に対抗できる能力は、誰一人として持ってはいなかった。こんな規格外の能力者が相手では、何人束になっても勝てるかどうか怪しかった。


「……最悪の結末にはならないように、俺が手を打つ。取り敢えず、お前らは犯人がそういう能力を持っていると考えて任務に当たってくれ」


 あぁ……まさかアイズホープに入ってすぐにこんな事件が起きるとは……運命はなんて残酷なんだろうと、千空は神を呪うのだった。





「さて、これで共通点については分かったと思う。で、何故セレモニーに来るかだが……」


「あ、その前に一つ疑問が。どうして、その事件を追っていた警官が狙われるんです?」


 毒島の言葉を遮り千空が口にする。確かに被害者達が同じ事件を追っていたというのは分かったのだが、どうしてそれで狙われるのか。何か恨みを買ったとかだろうか?


「あー、実はその事件、警察の対応に問題があって、結構被害が大きくなってな」


「問題って?」


「それがな――」


 その事件が起きたのは、ザラキエル事件が起きる前――能力者への危険意識が低かった時代の出来事だった。当初直接的な被害がなかったその事件は、刑事課ではなく生活安全課が担当していたらしい。


 しかし、途中から状況が一変。犯人が窃盗や傷害などの犯罪も行うようになり、最終的にかなりの被害が出てしまったのだという。当然担当は刑事課に移ったのだが、当初この事件を担当していた生活安全課の対応が悪かったのではないかという噂が広まってしまったらしい。


「完全にとばっちりじゃない。責任があるのは、能力者を軽く見てた全員でしょ?」


「まあそうなんだが、当時はそういう流れになっちまったんだよ。だから、それで大きな被害を受けた人が、警察――特に当初の捜査メンバーに恨みを持ったとしても不思議ではない」


 つまり、半ば濡れ衣で今までの被害者は殺されたってわけか。というか、彼らが悪いという噂のせいで今回の事件が起こったのならば、寧ろ世間に殺されたと言ってもおかしくない。


 世論って怖いなぁと、千空はしみじみと感じるのであった。


「ちょっと待ってください。では、藍地県警のセレモニーに犯人が来るということの根拠はなんなんですか? 犯人の目的は、そのメンバーへの復讐なんですよね? だったら、もう完了しているじゃないですか」


「私もまな君の言うとおりだと思う。それにさ、どうしてわざわざセレモニーの日に?」


 すると、真佳と楓から指摘が入った。確かに二人の言うとおり、犯人は既に捜査メンバーへの報復を終わらせたはずである。ならば、これ以上警察を狙うのだろうか?


 犯人は当時の捜査メンバーに完全に狙いを定め、その周辺のことを徹底的に調べ上げてから犯行に及んでいる。ならば、他の警察官に対してはあまり興味が無いように感じられた。


 そんな彼らの質問に、毒島は新たな情報を告げる。


「実は、例の事件を追っていた刑事がもう一人居たんだよ。今では警部補になっているがな」


 なんと、例の事件に関係していた警官が、もう一人居たのだという。当時のメンバーは今までの被害者たちにその警部補を加えた4人だったらしく、次に犯人が狙うのはその警部補の可能性が高いとのことだった。


「マジかよ。ほぼ確定じゃないか」


「ああ。そして、今度はこいつを観て欲しい」


 毒島が机の上にタブレットを置き、藍地県警の公式HPを表示する。


 そこには、記念セレモニーに関する情報が映し出されていた。


「これって、セレモニーのページだよね?」


 ページを観た未來が首をかしげ、千空もタブレットをのぞき込む。そこにはセレモニーのプログラムや出店状況などが細かく掲載されており、警察活動の実演やトークショーなど様々な催し物があるようでかなり楽しそうな感じである。


 すると、読み進める内に千空はとあるものを見つけた。


「あれ、トークショーに出演予定のこの警部補って、まさか例の人なんじゃ」


 千空の言葉に、他のメンバーもタブレットに視線を落とす。セレモニーのページを見てみると、確かにそこにはとある警部補がトークショーに出演すると記載されていた。


 そして、千空の言葉に対する毒島の答えは、イエスであった。


「運が良いのか悪いのか、例の警部補もここに出演するみたいでな。彼が出演することは、結構前からHPに載ってたみたいなのだ」


「「なんだって?!」」


 なんと言うことだろう。犯人のターゲットの可能性がある人物が、こんなにも目立つイベントに出演することになっていただなんて。


 犯人は確実に県警のHPを確認しているだろうし、こんなの狙ってくれと言っているようなものであった。


「つまりこれを見た犯人が、セレモニー当日に警部補を狙いに来るってわけか……」


「でもでも、今までの被害者さんは普通の時に襲われてたんだよね? だったら、わざわざ人が集まるセレモニーを選ぶかな?」


「そうね。確かに人に見られる可能性は高いわ。でも、もしも犯人が藍地県警自体に恨みを持っていたら、大事なセレモニーで殺人事件を起こして、藍地県警のイメージを悪くしようと考えても不思議ではないわ」


「でも、一般客も大勢居るセレモニーで犯人と戦うことになったら、僕たち能力を使えないんじゃ?」


 とんでもない情報が飛び出たことで、机を挟んで色々な意見が飛び交う。オフィスでの会議は、今までに無いと言って良いほどにヒートアップしていた。


 出てくる意見は、的を得ているものもあれば憶測の域を超えていないものもある。だがしかし、確実に情報は揃い始めていた。それも、アイズホープが犯人確保という行動に移るのには、十分と言って良いほどに。


「ともかくだ。次のターゲットが殺されたら、犯人の目的は達成されてしまう。このチャンスを逃したら、二度と犯人を捕まえることは叶わないだろうな。今度のセレモニー、なんとしても実行犯だけは捕まえるぞ」


 そうして、十全な打ち合わせと準備の元、メンバーは運命の日――藍地県警のセレモニーを迎えることとなるのだった。

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