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3話 不善なる能力者 20項「とある武器」

「で、どうするんだ? 能力の目星は付いたが、肝心の犯人については何も分からないぞ?」


 一度オフィスに戻ってきた千空達を交え、メンバーは議論を再開した。


「それについては、警察が被疑者を絞り込むのを待つほか無い。俺たちの出る幕ではないな」


 腕を組みながら静也の問いかけに答える毒島。


 そもそも、現状アイズホープの目的は犯人の能力を特定することだ。実際に犯人と対峙するときのために相手の能力と対策を考えることが重要だったので、犯人が誰なのかの特定までは必ずしもアイズホープがする必要は無い。


 警察からしたらアイズホープに犯人も特定して貰えれば御の字なのだろうが、流石にそれは彼らの仕事である。というか、犯人の能力を探るついでとはいえ、山や駅で未來が捜査に協力しているのだ。これ以上アイズホープに何か求めるのはお門違いもいいとこであった。


「でも、犯人がグループで行動しているのは間違いなさそうですね」


「ええ、あたしもそれは間違いないと思うわ」


 机の上の資料を眺めながら、真佳と優奈が述べる。ここまでの調査で分かったことをまとめると、確かに二人の意見は的を得ているように思えた。


 まず、この事件は最低でも二人以上の共犯である。一人はこの事件を計画し指示を出していたブレーンで、もう一人は犯罪に慣れていない実行役だ。


 根拠は、未來の映像と、遺体が遺棄されていた山の近隣住民の証言である。


 未來の映像では、犯人は混雑している通路から人混みに紛れて被害者を連れ去っていた。しかし、駅員の話によるとあの通路は普段はそこまで混雑しないのだそうだ。あくまでも人通りが多いというくらいで、人混みに紛れて人を攫うなんて不可能なのだとか。


 つまり犯人は、あの日あの時間帯に被害者があの通路を通るということを予想した上で計画を立てていたということになる。CDショップへ向かう客で通路が溢れ、そこに被害者も混ざるということを完璧に予想して。


 被害者の行動と当日の駅の状況をそこまで考えて行動しているとなると、犯人はかなりの切れ者で、犯罪にも慣れた人物の筈である。


 しかし、犯人は山へ遺体を遺棄しに行った際、あろうことか近隣住民に姿を見られるという初歩的なミスを犯していた。当日の計画をここまで練られる人物が、不用心にもそんなミスを犯すだろうか?

 つまりこれは、犯罪に慣れているブレーンが計画し、不慣れな実行役に指示を出していたために起きたミスである、と考えるのが自然であった。


 全て推論であるし確定ではないのだが、これらの情報は確かに、犯人が複数人の共犯であるということを仄めかしているのだった。


「とにかく、取り敢えず警察の捜査が進むまでは小休止だ。ということでだが……お前ら、紹介しておく物があるから、ちょっと俺に付いてきてくれるか?」


 話が一段落付くと、突然毒島がそう言って立ち上がった。


 なんだろうと皆が顔を見合わせていると毒島がオフィスの外へ向かったので、彼らは言われるままに付いていくことになった。






 メンバーが毒島に連れて行かれた先は、オフィスがあるE棟の地下であった。


 生体認証によりロックされた扉を、毒島と三崎が開きながら進んでいく。ロック解除に二人必要とのことで、三崎も連れてこられていたのだ。


 仕事中だったみたいなのでちょっと悪い気もするが、毒島の方が上の権限を持っているので仕方ない。


 二人がロックを解除しながらしばらく進むと、メンバーはとある部屋の前にたどり着いた。


 ロックを解除した毒島が中に入るよう促したので、メンバーは各自部屋へと入っていく。


「この部屋は……?」


 中に入ったメンバーが、不思議そうに部屋を見回す。


 千空も中を見回してみるが、確かにこの部屋は異様だった。オフィスの倍くらいの広さの部屋に、ガラス張りのケースが何列もびっしり並んでいる。


 ケース同士の間隔もかなり狭めで、広いはずの部屋が少し窮屈に感じるほどである。


 ケースの中にも目をやってみると、なにやら見たことのない装置がたくさん並んでいた。何の装置なのかはさっぱり分からないが、どうやらここは機材類の保管庫のようだった。


「こんなところに、見せたい物があるのか?」


 訝しげな顔で毒島に問う静也。確かに、こんな専門的な物を見せられても、千空達は反応に困るだけであった。


 すると毒島は、おもむろに一つのケースのロックを解除した。そして、メンバーを自分の周りに集める。


「お前ら、こいつを見たことはあるか?」


 そう言って、毒島はケースの中にある物を目で指す。


 メンバーの視線がケース内に集中する。人数が多いのに加えてまあまあ狭いのでぎゅうぎゅう詰めになってしまったが、なんとか全員がそれを確認することが出来た。


 そして、それをみたメンバーは息を呑むことになる。




 果たしてそこにあったのは――拳銃であった。




「え、これって……拳銃?!」


 驚きの声を上げる千空。他のメンバーも千空に続いて驚愕の声を上げたり表情を浮かべたりしている。拳銃については中学校の社会で習うので、メンバーは皆それがなんなのか知っていたのだ。


「拳銃……凄く危険な道具、だよね?」


 目の前の拳銃を観察しながら、未來がつぶやく。


 拳銃と言えば、銃弾を発射して相手を負傷させる武器だ。殺傷能力が極めて高く、撃たれた場所によっては即死、死なずともかなり重篤な状態になることが殆どであった。


 三十年ほど前までは国によっては合法だったりしたのだが、法による規制が進み、現在では警察などの組織以外が所持することは不可能となっていた。


 裏ルートでの取引なども、AIによるダークウェブの監視が行われるようになってからは規模が縮小し、十年前には裏社会からも完全消滅している。


「どうしてこんなものが、ここにあるのよ……ここって宿街でしょ?」


 ケース内のソレを険しい表情で見つめる優奈。


 混乱するメンバーの様子をみて、毒島が説明を始めた。


「拳銃、とはかなり違うんだがな。こいつは『スタナー』と呼ばれる武器だ。遠くまで飛ばせるスタンガンみたいなもので、公安に所属する組織ではこいつが使われる」


 その説明に、胸をなで下ろすメンバー。どうやら殺戮のための道具ではなかったようだ。


「ってことは、当たっても死んじゃったりはしないってこと?」


 楓が聞き返すと、毒島はうむと返事をして続けた。


「あくまでも無力化が目的の武器だからな。電気の弾を飛ばして痺れさせるだけだ。だが、こいつが無力化できるのは犯人の動きだけじゃない。なんだかわかるか?」


 もったいぶりながら話す毒島。千空としてはなんでもいいから早く教えて欲しかったが、彼がそれを口にするよりも先に真佳が「わかりません。どういうことですか?」と説明を求めたので、千空はその言葉を飲み込んでおいた。


 真佳の要求を聞き、毒島が説明を再開する。


 そして、驚くべきスタナーの機能が紹介された。


「このスタナーにはいくつかモードがあってな。そのうちの一つに『デキャストモード』というものがあるのだが、驚くなよ、そのモードで撃つと相手の能力を封じることが出来るのだ」


「ええ?!」


 なんと!


 ものすごい情報が千空達の耳に飛び込んできた。


 どうやら、この『スタナー』には能力を封じる機能があるらしい。能力を遮断したりする技術は色々とみてきたが、こいつは能力自体を封じることが出来るのか?!


「それじゃあ、今回の犯人を捕まえる時もコレを使えば楽勝じゃないですか!」


「うんうん。遠くから能力を無効化しちゃえばいいわけだもんね」


「なんだ、あんなに真剣に犯人の能力考える必要も無かったじゃないか」


 一気に拍子抜けするメンバー達。こんな代物があるのならば、どんなに危険な能力を持った相手だろうと負ける気がしなかった。


 しかし、気を緩めたメンバーに対して、先ほどから黙って成り行きを見守っていた三崎が冷静にその考えを否定した。


「それが、そうもいかないんですよ。デキャストモードで能力を無力化する場合には、相手の頭に直接撃ち込まないといけないんです。相手の念波に干渉するわけですから」


 三崎がメンバーに説明する。


 つまり、スタナーは相手の脳に直接作用して念波をコントロールするというわけか……。確かに、それだと頭以外に当たってもあまり意味がなさそうだった。


「頭に……難しそうだね」


「そうですね。銃の撃ち方を知らない僕らでは、身体に当てるのも難しそうなのに」


 そもそもの話、千空含めこの場に居るメンバーは銃なんて見たことも触ったこともない。それなのに、正確に敵に弾を撃ち込めるわけがなかった。


 すると、三崎の説明に毒島がさらに続く。


「それにだな、実弾ではなく電気の弾を発射するという性質上、弾は一度に3発しかチャージできない。リチャージにもかなりの時間が掛かっちまうし、なかなか扱いが難しいんだ」


 二人の説明に、先ほど気を緩めたメンバーは肩を落とした。ただでさえ当てるのが難しそうなのに、三発しかないだなんて……どう考えても無理ゲーだった。


「あと、犯人との決戦に持って行くつもりだったから紹介したが、お前らの分はないからな」


「え、ボクらの分はないのか?」


「当たり前だ。こんな危険な物を未成年に渡せるか」


 なんだよ……しかも、これだけ説明しておいて俺らの分はないのかよ……。千空は心の中で独りごちた。いや、静也や楓も残念そうな顔をしていたので、皆でごちていたかもしれない。


 うまい話なんて無いんだなぁと千空が思っていると、毒島はさらにスタナーの評価を下げに来る。


「あと、使わないお前達に言ってもしかたないが……こいつは念波に干渉するという性質上、サリエルシンドローム患者以外の者に当たってしまった場合かなりの悪影響がある。最悪の場合、当たった人がサリエルを発症する可能性すらあるから、持って行くとは言え正直使う場面はないだろうな。それだけ危ないものなんだ」


 ああ……マジでこの『スタナー』とかいう武器、いよいよ何のために存在しているのか分からなくなってきた。一番最初の説明ではめちゃくちゃ凄そうな武器だったのに……残念な武器選手権があったら一位を取れるのではなかろうか?


「それ、持っていく意味あります?」


 千空が遠慮ゼロで毒島に問う。正直そこまで使いづらいのなら、持って行っても持ち物がかさばるだけのような気がするのだが……


 しかし、その問いに対して毒島は前向きに答える。


「いや、持っていく意味自体は大いにあるぞ。3発以内に当てさえすれば、それで勝利が確定するからな。ただ俺が言いたかったのは、こいつがあるからって気は抜けないぞって話だ」


 ああ、なるほど理解した。要はゲームの即死技と同じか。習得したときは「一撃で倒せる最強技だ!」と喜ぶが、実際使ってみると全然当たらなくて役に立たないというアレ。


 だけどああいう技って、どうしようもないときに使ってみると意外と当たったりする。つまり、持っていても殆ど意味は無いが、たまたま犯人が人気の無い場所へ行ったときなどは、3発分勝利の可能性が生まれるってわけだ。


 確かに、少しでも勝率を底上げしておきたいのならば持っていって損はなかった。


「ま、ボクらも必要ならぶっさんから借りれば良いしな」


 静也がなんとなしに発言する。まあ、使い慣れている毒島が使用するのが一番だろうし、どうせ貸してもらえないからそんな機会ないだろうけどなと、千空は思った。


「ああ、それは無理だぞ。生体認証が付いてるから、登録者が握っているときしか起動しないんだわ」


 うん。なんとなくそんな気はしていたが、どうやら所有者しか使用できないみたいだ。静也はがっかりしていたが、千空としては使いたいとも思わなかったので、別に残念でも何でも無かった。


「取り敢えずスタナーについての説明は以上だ。オフィスに戻るぞ。三崎君も悪かったな」


「いえ、寧ろ気分転換になって良かったです」


「そうか」


 そんなわけで、スタナーという変わった武器の紹介を受けた千空達は、オフィスに戻ることにしたのだった。

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