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3話 不善なる能力者 18項「発売日」

「あ、そういえば俺寄りたいところがあるんだけど……」


 センターに戻るため車の中に乗り込んだ千空は、思い出したようにそう告げた。


「どうしたの?」


「ああ、とあるCDの発売日が先週の金曜日でさ。三崎さんが俺の分も一緒に予約してくれてたんだけど、まだ取りに来れてないみたいなんだよな」


 未來に問われ、そう答える千空。


 実は、以前三崎に予約を依頼していたAKプラチナディアーズのCDが、先週の金曜日に発売開始していたのだ。


 三崎も千空も発売日については予約開始時点で把握していたのだが、楓のアイズホープ加入や歓迎会の調整でバタバタしていて、取りに行く暇がなかったのらしい。


 一応予約しているので1ヶ月くらいは店舗で保管してくれるのだが、千空が外に出たタイミングで受け取れるのなら受け取っておきたかった。


 とはいえ捜査帰りに付き合わせてしまうのは気が引けるので、遠慮気味に申し出たのだが、ありがたいことに他のメンバー達は快く快諾してくれた。


「私は全然オッケーだよ! ぶっさんが良いって言うか分からないけど……」


「私も楓さんに同じかな。というか寝てるからあんまり関係ないし」


 とまあ、彼女たちの意見は嬉しい限りのものであったのだ。あとは毒島が了承してくれるかどうかというところなのだが……


「ああ、お前らが良いなら俺は構わんぞ。今回もかなり捜査に協力してくれたしな。それに、三崎の用事でもあるんだろ?」


 と、毒島の了承も難なく得ることができたのである。


 そんなわけで、千空たちはCDを予約していた店舗に寄り道してからセンターに帰ることになったのだった。





 店舗に着いた千空は、無事CDを受け取ることが出来た。


 発売日当日ではなかったので、店は特に混んでいる様子もなく千空はすんなりと品を受け取ることが出来た。超人気アイドルのデビュー曲と言うことで、店は予約開始時も大勢の人で溢れかえっていたらしいから、発売から三日経った今日取りに来たのはある意味正解であった。


 ということで無事CDを受け取った千空たちは、今度は寄り道せずセンターへ戻ってきた。


 ……と言いたいところだったが、実はその後も一度千空の家に寄っていた。というのも、千空はセンターに自転車で通っていたので、家までCDを持って帰るのが難しかったのだ。


 今回千空と三崎が買ったCDは、限定盤かつ店舗特典も付いた超豪華バージョンである。つまり、CD本体以外にも色々なグッズが付いてくるわけで、かなりかさばるのである。


 車ならまだしも、自転車で運ぶのはちょっと無理な話であった。


 なので、店から大きな紙袋を持って出てきた千空を見かねた毒島が、気を利かせて荷物を置きに千空の家に寄らせてくれたのだった。


 ちなみに、三崎の分のCDはアイズホープのオフィスで預かっておくことになった。


 そのため、三崎がオフィスにCDを取りに来た際、千空はそこで彼女とかなりアツいトークを繰り広げることになるのだが……流石に三崎は仕事の合間に来ていたので、途中で毒島に止められお叱りを受けるのだった。





 そんなわけで今度こそオフィスへと戻ってきた一行は、休憩スペースで少し寛ぐことにした。特に、未來は能力を使って疲れたのか車の中で眠ってしまい楓に運ばれてきていたので、ちょっと休む必要がありそうだった。


 ソファにもたれながら疲れを癒やす一行。楓は未來をソファに寝かせると真佳を捕まえてきて絡み始めているが、それは千空の知ったことではなかった。


「にしても、あのレシートだけで捜査って進むんですか?」


 疲れを取りながら、毒島に尋ねる千空。先ほどは捜査に役立ったんだなと納得していたが、冷静に考えてみるとあれだけで足取りが分かるとも思えなかったのだ。


「まあ、あれだけで全てを特定することは無理だわな」


「ですよね」


 ソファに寛ぎながら答える毒島の言葉は、何というか、想像通りであった。


「だが、あのコンビニは駅構内の店舗だった。防犯カメラでレシートに書かれていた時間の前後を調べれば、かなりのことはわかるはずだ」


 毒島が言うには「あのレシートの時間に駅に居た」という情報だけで、かなり捜査は進められるらしい。防犯カメラの映像からいつどの電車に乗ったかは特定できるし、当日のダイヤに従って他の駅の防犯カメラも調べれば、どこで降りたかも分かる。


 そのためには被害者が乗った路線の駅を順番に調べていく必要があるので、捜査員の作業量は半端ないのだが……それが仕事なので頑張って貰うほかなかった。


「じゃあ、やっぱ神の一手だったことに変わりはないんですねー」


「まあな」


 警察の捜査って凄いんだなーと感心する千空。


 ふと留守番組のメンバーの様子をみると、なにやら会議机で資料とにらめっこをしているようだった。


「なあ、それなにしてるんだ?」


「ああ、君たちが捜査に行っている間、ボクらはボクらでこっちの資料を見ていたのさ」


 静也が机の資料を一束手に取り、千空の方へ持ってきた。資料をのぞき込むと、どうやらそれは先ほどの事件の資料のようだった。


 資料には、現場の状況や被害者の持ち物などが細かく記載されていた。他には被害者が当時着ていた衣類などの写真などもあり、確かにこれだけの資料があればここでも何かしらの手がかりが見つけられそうだった。


「未來以外のメンバーは、ここで資料を調べることが多いわね」


「へー、そうだったのか」


 まあ、確かに捜査に出向かなかったメンバーはオフィスで手持ち無沙汰になってしまう。それならば、こういった資料をみて色々調べた方が時間の使い方としては有意義かもしれなかった。多分ここでの調査でもお金貰えるだろうし。


 でも……


「これって完全に警察の仕事だし、能力者とか関係なくね?」


 優奈の話を聞いた千空は、純粋な疑問をメンバーに投げかけた。だって、事件現場の資料をあれこれ調べるのって、最早能力もへったくれもないじゃないか、と。


 すると、捜査から帰った楓に捕まり一緒にソファに座っていた真佳がその疑問に答えた。


「半分くらいは千空さんの言う通りですが、能力者だからこそ分かる視点もあるんですよ」


 半分は言うとおりなのか……と若干もやもやする千空だったが、後半の真佳の説明でなんとなく理由は理解できた。


 つまり、能力について知っているのといないのとでは、調査での発想にも差が生まれるということだろう。確かに、それは紛れもない事実であった。


 前回の毒ガス事件では、アイズホープに居る静也の存在を知らなかったら毒の除去を考えるだけで一生悩めるし、今回の事件なら、そもそも犯人が能力者である可能性に気づけないかも知れない。


 そう考えると、アイズホープが担当する事件の場合は、ここで資料を調べるのもかなり大事な捜査であると千空は理解したのだった。


「ま、確かにそうかもな」


 そう言って、渡された資料をペラペラと眺める千空。その中には、被害者が当時持っていたカバンの写真なんかも印刷されていた。


 こういう何気ない写真からも、もしかしたら大事な情報が手に入るかも知れないんだよな……そう思い、千空はその写真をじっくりと観察することにした。


「あれ……?」


 数枚めくっていくと、千空はあることに気付いた。


 そして、もう一度最初に見たカバンの写真を見直す。


「やっぱり、これって……」


「何か見つけたの?」


 幾分か疲れが取れたのか、目を覚ました未來が彼の持っていた資料をのぞき込んできた。


 写真に写っているのは、一見すると何の変哲もないただの立派なカバンだった。寝起きの未來もそう思ったらしく、不思議そうに首をかしげていた。


 しかし、そこにカバンに付けられているストラップに、千空は見覚えがあった。このストラップを持っているわけではないが、確かに実物を見たことがあるのだ。それに、デザインもどことなくなじみ深い。


 どこでこのストラップを見たのか記憶を辿る千空。少なくともアイズホープではない。訓練中に見かけるわけはないし、そもそもセンターの中ではない気がした。


 それじゃあ、どこで……


 そこまで考えたとき、千空の中に一筋の稲妻が一閃した。


 そうだ、これって……


「有栖ちゃんのイメージストラップだ!」


 それはまさしく、AKプラチナディアーズの有栖のストラップだったのだ。


 直接キャラがデザインされているわけではないので知らないと気付きにくいが、コンセプトやイメージを元にデザインされた、正真正銘有栖のグッズであった。


 そしてそれを何処で見たのかであるが……それは中村との通話であった。


 彼との通話はビデオ通話だったのだが、その時映っていた彼のカバンに同じものが着けられていたのだ。


 それだけでは有栖のストラップだと決めつけることは出来ないが、気になった千空はあのあと公式サイトでそのグッズの存在を確認していたので、間違いなかった。


「有栖ちゃんって、あの有名な子?」


「ああ、さっき受け取ってきたCDの子だよ。どうりで見たことあるわけだ」


 そう言って千空は立ち上がり、会議机へ向かい他の資料も確認する。何枚か資料を確認すると、他にも有栖っぽいイメージのアイテムがいくつか見つかった。


「被害者の人も、きっとファンだったんだな……」


 やるせなさそうにつぶやく千空。せっかく推しがメジャーデビューしたばかりなのに……きっと無念だったに違いない。


 すると、ソファで休憩していた毒島が急に声を上げた。


「ちょっと待て。さっき受け取ったCDって、確か最近発売だったよな?」


「え、そうですけど……?」


「いつだ?」


「えっと、先週の金曜日……」


 戸惑いながら千空が答えていくと、毒島は勢いそのままに続けた。


「!! 被害者が出かけて殺害されたのも、先週の金曜日なんだよ!」


「それがどうし…………って、そうか!」


 毒島の話を聞いて、何が言いたいのかピンとくる千空。未來も同様に毒島の意図に気付いたらしく、千空に問いかけてきた。


「千空君、推しのCDの発売日に人が出かけるとしたら、行き先って決まってるよね……?」


「ああ、間違いない!」


「なんだなんだ、話が見えてこないぞ?」


 会議机で資料を見ていた静也が、訳が分からないといった様子で三人に問いかける。


 それに答えたのは、意外にも優奈だった。


「つまり、被害者は殺害された当日、CDを受け取りに行っていた可能性が高いってことよ」


 三人の意図を明確に捉え、言葉にまとめる優奈。千空から事前に聞いていた三人と違い、CDや有栖のことは今知ったばかりの筈なのに、もの凄い理解力だった。


「そっか! それじゃあ、CDショップまでの道のりを調べれば、殺害現場もわかるってことだね!」


 優奈の言葉で楓も状況を理解したみたいで、嬉しそうに口にする。


 それにしても驚いた。まさか現場での捜査ではなく、ここでの資料調査でこんな重要なことが分かってしまうなんて……。


 たまたま千空が有栖のグッズについて知っていたからではあるが、資料による調査もバカに出来ないなと千空は思った。


「待つんだ君たち。CDショップなんて何処にでもあるじゃないか。それこそ、被害者が乗った路線の全ての駅の近くにあるんじゃないのか?」


 すると、静也が冷静に皆を止めた。


 確かに、静也の意見はもっともだ。AKプラチナディアーズのCDを取り扱ってる店なんて、探さなくても山ほどある。それこそ、家電量販店でも買えてしまうほどだ。


 しかし、今回の場合は店舗を特定することが可能だった。


「あたしネットニュースで見たんだけど、どうやら特定の店舗では特典が貰えるらしいのよ。千空や三崎さんが貰ってきたみたいに」


「それ、僕も見ました。予約開始日にその店舗に人が集まって大騒ぎって……つまり、そういうことですよね、千空さん?」


 どうやらネットニュースにもなっていたみたいで、思わぬ所から説明が入った。とはいえ、優奈や真佳の言うとおりなので千空もそれに頷く。


「ああ、まんま二人の言ったとおりだよ。そして、こんなコアなストラップ付けてる人は、絶対に特典が貰える店で買うに決まってるな」


 そう答えると、静也はやっと理解したというような顔になった。


「なるほどな……じゃあ、特典を貰える店に限定して捜査すれば効率が良いってわけだな」


 すると、未來がさらに付け加える。


「それにね、さっき私たちもCDを取りに行ったんだけど……結構遠くのお店まで行ってたみたいだから、対象の店舗って相当少ないんじゃないかな?」


「ああ、対象の店舗は県内でも10軒あるか無いかってとこだったはずだ。プラス、被害者の推しは二人組の内の片方だったから、さらに半分に絞られるな」


 二人が交わした会話は、まさにこの話の本質の部分であった。


 被害者がAKプラチナディアーズ推し――特に有栖推しなのは判明した。雪希推しの千空ではすぐに気付かない程にコアな有栖グッズを所持していたし、彼の所持品の中に有栖の概念グッズが多かったことからもそれは明白だ。


 そして、あれほど熱心なファンなのならば、特典付きの限定版CDを予約し、発売日に受け取りに行っていても不思議ではない。当然、特典も雪希ではなく有栖のグッズが付く店舗を選ぶだろう。


 そうなってくると、被害者が当日向かった店は数店舗に限られてくる。さらにそこから被害者が乗った路線の駅から近くにある店舗に限定するとなると、もう答えは出たも同然だった。


「千空、その特典が付く店舗は分かるか?」


「はい。公式サイトに載ってますよ」


「よし、なら話は早い。俺は出雲警部にこのことを伝えてくるから、お前も付いてきてくれ」


「了解です」


 そうして、思わぬ所から得られた情報で、捜査は一気に進展するのだった。

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