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最終話 再演の夜明け 157項「光あつまる所」

 時は少し遡り、千空たちがボスの後を追った後。


 床に残されていたとあるものを命が拾い上げ、真が確認する。


「……最後に、もう一仕事だけ残されていたみたいだな」


 そう言って、力強く頷く真。


 そこに残されていたもの……それは、毒島のユーフォであった。毒島は、彼らに自分の連絡用ユーフォを託していたのである。当然、ルミナス回線専用のユーフォである。


 ユーフォを手に取り、画面を確認する真。


「……宿街。こっちのレオーネというのは、おそらくラヴビルダーのメンバーだろう。連絡すれば、何かしらの応援を見込めるかもしれない」


「私たちが連絡しても大丈夫でしょうか、兄さん」


 命が冷静に尋ねる。彼女の言うとおり、組織の人間が毒島のユーフォを使って通信してきたとあれば、どう考えても警戒されるだろう。毒島がやられたという非常事態だと取られる可能性もある。


 だが、それならそれで都合が良い。その方が、向こうも何かしらの応援を寄越してくれるだろう。それで彼らの助けになるのならば、それでいい。


「どのみち、俺たちにはそれしか出来ることがない。するしかないさ」


 そして、真はユーフォの画面をタップして通話を開始する。通話先は宿街……アイズホープの総裁、風見心司である。


 数回のコールの後、通話に応答があった。


『……治郎ちゃんじゃないわネ。名乗りなサイ』


 通話画面を見た風見から、最大級の警戒で以て対応される真。


 だが、問題ない。全部、想定通りだ。


「私は天童真で、こちらは命……あなたたちがマスカレードと呼ぶ組織の幹部だ」


『……それは本名かしラ。どういうつもり? ユーフォの持ち主は?』


「彼は……ボスを追った。瑞波千空と鍵乃未來、3人で。危険な状況だ。応援が欲しい。私の能力『COMET』ならば、そこから人をここまで転移させることが出来る」


 包み隠さず、全てを正直に伝える真。無理に取り繕って説明するよりも、こっちの方が信用してもらえるだろう。状況も端的に伝えることが出来るし、一石二鳥だ。


 そんな彼の考えを読み取ったのか、風見は落ち着いて答える。


『……なんとなく状況はわかったワ。実は、ラヴビルダーのメンバーから連絡が入っているノ。現場との通信が途絶えたってネ。状況も一致しているし、どうやら嘘を言っているわけではないみたいネ。どうして組織の幹部が味方になっているのかは疑問だけれど、とにかく、かなり切迫してることはわかったワ』


「理解が早くて助かります。味方……というよりも、私たちが勝手に託しただけですが。それで、応援は……」


『そうネ……アタシは最終防衛ラインとして残らなきゃだし、宿街に戦える人は……あ、そうだワ。一人だけど、戦える人が居るワ』


 そう言って、どこかへと連絡しているような様子を見せる風見。どんな人間が来るのかは分からないが、とにかく応援は見込めそうである。これなら、役目も果たせそうだ。


『他に連絡した人はいるノ?』


「今、レオーネという人物に通話をかけてますが……」


 風見がどこかへ連絡している隙に、レオーネへと通話を繋げる真。毒島の意図を汲むのであれば、恐らくこちらへの連絡も期待されているはずだ。時間は少しも無駄には出来ない。


 そうしてレオーネの応答を待つ真たち。


 とその時、レオーネの通話に突然の割り込みが入った。


『待って! ウチも連れてって欲しいんだけど!!』


 開口一番、大音量でそう宣言する割り込み主。一体、誰がこんな無茶苦茶なことをしてきたのかと思いきや、その人物は真や命にとってなじみの深い人物であった。


「ファル・ファリーナ?! 良かった、やはり生きていたのですね!」


「そうか……不夜の光で……!」


 突然の再会に、こんな状況だというのに感極まる二人。不夜の光をよく理解している二人は、生体モニターの死亡通知そのものは信用していなかったが……生きているという確証まではなかった。インナーローダーが回収されているのだから、なおさらだ。


 彼女の生存は、二人にとって本当に喜ばしいことであったのだ。


『偽装はウチの十八番だかんね! って、そんなことはどーでも良くて! そこに行けるなら、ウチも連れてって欲しいワケ!!』


 ファル・ファリーナ……もとい、心愛が必死に訴える。しかし、不夜の光を失った彼女に戦う力は無いし、戦う理由も思い浮かばない。一体、何が彼女をそうさせるのだろうか。


 そんな二人の疑問は顔に出ていたらしく、心愛が少し俯きながら答える。


『……ナポリのこと、全部、聞いたんよ。なのに何もしないなんて……ウチには出来るわけないじゃんね』


 そう答えた心愛は、真っ直ぐにこちらを覗いている。その顔を見て、天童兄妹はその真意を十分に理解することが出来た。インナーローダーを回収されているのに、彼女が生きているという事実……おそらく、彼女はナポリによって公安に保護されていたのだ。そして、今回ナポリが保護されたことでその真相を全て知ることとなった……そんなところだろうか。


 ならば、彼女が何かしたいという気持ちも理解できる。


「わかりました。『不夜の光』は今、私の中にあります。それを、もう一度あなたへ」


『マジ!? ありがとーシェル!!』


「ああ。ファル……いや、心愛。座標を送ってくれ。こちらへ転送する」


「おっけー!」


 真が心愛へ促すと、心愛は現在地の座標をすぐに送ってきてくれた。この位置情報さえあれば、真の能力「COMET」で心愛をこの場所まで転移させることが出来る。


「転送!」


 そして、目の前の空間が歪み……二人の前へ、心愛が現れる。


「おお……マジやばい……」


 感嘆の息を漏らす心愛。座標を見る限り、彼女はビッグ・ハウスにあるSS研究施設に居た。アルメリカの東海岸側から西海岸側まで一瞬で転移したのだから、その驚きもひとしおだろう。


「後は……お?」


 すると、コール中になっていたレオーネから応答があった。


『……って、これどういう状況だ?! 風見さんに心愛に……後は誰だよ?!』


 応答するなり、ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すレオーネ。


 そんなレオーネへと、風見が冷静に尋ねる。


『レオーネちゃん、そっちは大丈夫なノ?』


『あ、ああ……俺なら大丈夫だぜ。なんとかドローンは撃破した』


 画面の向こうで額の汗を拭うレオーネ。満身創痍ではあるが、どうやら彼は組織が送り込んだドローン部隊を一掃したらしい。その事実だけで、真と命は彼がどれ程の実力を持っているのかを理解することが出来た。ドローンの恐怖は、二人が一番よく理解している。


『んでよ、この状況は一体なんなんだ……?』


 困惑気味に尋ねるレオーネ。それも当然だろう。毒島から着信があったと思いきや、風見に心愛、加えて知らない人物が二人という、わけのわからないメンツが揃っていたのだから。


 しかし、それにまともに答えてくれるものは居なかった。


『彼は組織の幹部。色々あって今は味方してくれてるみたいヨ。それで、彼の能力で貴方をメインビルまで転移させてもらうワ』


『はあ?! なんなんだよそれ! わけわかんねえっつーの!』


『わけわかんなくて大丈夫ヨ。とにかくアタシたちを信じて』


「すみません、そういうことです」


「それじゃあ……転送する」


 そして、有無を言わせず強制的にレオーネを転移させる真。彼の位置情報はこのユーフォにも共有されていたので、特に座標を送って貰う必要も無くてありがたかった。


「……結局、説明はなしかよ……」


 きょろきょろと周りを見渡しながらレオーネがぼやく。悪いことをした気もしなくはない真だが、緊急事態なので仕方ない。今は一刻を争う。これは不可抗力である。


 そんなわけで、機嫌が悪くなったレオーネを心愛と命がなだめる。残すところは、風見が言っていた人物をこちらへ転移させるだけなのだが……


 どうやら、その準備も整ったらしい。


『真と言ったかしラ。送る人物の準備が出来たから、座標を送るワ。きっと力になってくれる』


「助かる。では、転送を……!」


 真が能力を発動し、送られてきた座標からこの場所へと空間を歪める。天使の宿街からCYBERSKY本社のメインビルへと、一人の人物が送られて来て……その人物は、真と命も知っている、とある大柄な男であった。


「って、貴方まさか……九十九のところのMASSIVE……?」


「よお、覚えてたみたいだな」


 命が目をぱちくりさせて男を見ると、男は口の端をニッと上げた。


 風見が送ってきた人物。


 それは、九十九のところでMASSIVEとして活動していた大村剛だった。


「……これは本当に、すごいメンツが揃ったな」


 真も思わず肩をすくめる。


 ボスへと反旗を翻した自分たち天童兄妹。


 公安の人間であるレオーネ。


 ボスに裏切られて死んだと思われた心愛。


 そして、使い捨てにされて殺された九十九の仲間、大村。


 それが今、ボスを倒そうと一堂に会している。


 こんな奇妙な繋がりは聞いたことがない。前代未聞であった。


「貴方は何が出来るんですか?」


「……前と同じことが出来るぜ。インナーローダー無しでな」


 自慢げに胸を叩く大村。インナーローダー無しで……つまり、彼もキャストに目覚めたのだろう。大村は毒島と同じくらいの年の筈だが、その年齢でキャストに目覚めるのはかなり稀である。インナーローダーの使用が何か影響を与えたのだろうか。


 しかも、彼は前と同じことが出来ると言った。彼がインナーローダーで手にしていた能力は「剛筋無双」……本人の「人間らしさ」を奪うことで、人とは思えない耐久力や力を得るという能力だった。それがどれほどの強さなのかは、考えるまでもない。


「……心強いな。では、外で戦っているエルフォードさんの援護に回って欲しい」


「了解だぜ」


 大村が割れた窓から下を眺め、その勢いのまま能力を発動する。このまま窓から飛び降りて、彼らの戦いに参戦するつもりなのだろうが……しかし、それに待ったを掛ける者が居た。


『待ってちょうだい! 今、楓ちゃんたちとの通話が繋がったってジャスリーンちゃんたちから連絡があったワ! 皆も『ARIA』に入れて貰うかラ、それで作戦を練りまショウ!』


 風見が告げる。どうやらラヴビルダーと楓たちとの通信が復旧したらしい。そして、その通話で楓へと連絡を行い、ここに集まったメンバー全員を彼女の「ARIA」へと参加させて貰うのだという。それなら、作戦を考えることも可能なのだと。


「それで、作戦というのは?」


『ラトゥーナちゃんが言うには、剛ちゃんはエルフォードちゃんの援護、心愛ちゃんとレオーネちゃんは千空ちゃんたちの援護に向かうべきだって』


「でしたら、その軸で作戦を考えましょう」


 風見の答えに、命が頷く。ラトゥーナという者は、どうやら「最適解」を導き出すことの出来る能力を持っているらしい。彼女の導き出した答えを元に行動するのが、一番確実なのだと。


 だから、誰も文句を言うことはなく、その指示に従い作戦を立て始める。


 楓の「ARIA」も繋がり、作戦は一分にも満たない短時間でどんどんと決まってゆく。


 そうして、彼らもまた動き出す。


 それが、千空たちやエルフォードの元へ、思いも寄らぬ応援が現れた真相であった。

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