表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/168

最終話 再演の夜明け 148項「未來の未来」

 暗い暗い地下トンネル――その終端。


 そこでは、長きにわたる因縁がぶつかり合おうとしていた。


「BANISH!!」


 先手必勝と言わんばかりに、毒島が芦宮へと能力を発動する。


「……くっ」


 毒島の能力を喰らった芦宮が苦しそうに呻きながら地面へと膝をつく。毒島の能力は対象から意志の力を喪失させることで能力を無効化する。だが、意志の力を無効化されるということは、能力だけでは無くあらゆる行動が阻害されると言うことでもある。


「毒島さん……能力は消えたんじゃ……」


「ああ、お前たちが危惧していたあの能力は消えたぞ。ま、変化して別の能力になったがな」


「……あなたのことは、常に危険視しておくべきでした……」


 悔しそうに呟く芦宮。これでひとまず芦宮の自由は奪えた。


 だが、敵は芦宮だけでは無い。毒島が能力を発動したのと同時、ドローンも動き出す。


「千空!」


「わかってます!」


 毒島から声を掛けられ、千空も行動を開始する。先ほどボスのランチャーで砕けた床の欠片を両手いっぱいに握りしめ、未來と共に芦宮の近くへと向かう。芦宮が盾になるこの位置ならば、ドローンはひとまず機銃での攻撃をしてこない。


「食らえ!」


 そして、投擲する。トンネル内を縦横無尽に飛び回るドローンめがけて、握りしめた破片を一つずつ。狙うのは、揚力を生み出している機構――プロペラだ。


「よしッ!」


 破片がドローンに命中したのを見て、千空がガッツポーズをする。千空が投げた破片が、狙い通りドローンのプロペラ部を破壊し、その機動力を奪ったのだ。揚力のバランスを失ったドローンが、情けない速度で低空飛行している。


 後は、未來が芦宮にスタナーを撃ち込めば――


 だがしかし、そう上手くはいかなかった。


「そんなッ?! スタナーが効かない?!」


 スタナーのトリガーを引いた未來が、焦りながら声を上げる。彼女は確かにスタンモードの弾を芦宮に撃ち込んだ。それなのに、芦宮が意識を失う様子は微塵もなかったのである。


 すると、毒島に抑え込まれている芦宮が口を開く。


「私の皮膚には、バイオボットが組み込まれています……熱や冷気、電気を遮断するんです」


「おいおい、そんなのアリかよ……」


 毒島が絶句する。この事態は流石の毒島でも予想できなかっただろう。とにかく、芦宮を行動不能にするという作戦は完全に破綻してしまったわけだ。


 そして、状況が芳しくないのはこちらも同じであった。


「く……こっちも……流石に数が多すぎる……!」


 こちらへ向かってくるドローンに一つずつ対処している千空だが、ドローンの数があまりにも多く埒があかない。破片の投擲は100%命中させられるわけでもないので、油断するとドローンに囲まれてしまう可能性もある。


(ぶっさんにドローンを止めてもらった方がよかったのか……いや、それはだめだ)


 別の方法を模索するも、すぐに首を振る。ドローンの動きはただのAIでは考えられないほどに洗練されている。破片の投擲も、成長した千空の能力で無ければ避けられていただろう。


 つまり……このドローンは、ボスが能力で直接操っているか、ボスに制御された人工精神を与えられているかのどちらかである。


 前者であれば、毒島の能力で無効化してしまえばそれまでだが……殺戮兵器に宿った人工精神は、果たしてどんな行動を取るのだろうか。リスクがある以上、これを試すことは出来ない。


 とはいえ、為す術が無くなってきた。千空が破壊できるドローンの数を、こちらへ迫ってくるドローンの数が上回っている。それだけでなく、毒島の変化も想像以上に早い。見れば、毒島の右腕と左足は既に変質が進んでいる。これ以上の能力使用はどう考えても致命的である。


 読みが甘かった。このままでは、全員助かることは不可能だ。


 千空と毒島が額に汗をかき、呼吸を浅くする。


 万事休す、最早これまでか……



 ――しかし、そうはならなかった。



 絶体絶命に思われたまさにその時。

 トンネル全体を照らすほどの眩い光が発生したのだ。







(――これ……もう、そうするしかないよね)


 未來の目の前では、今まさに千空たちと芦宮の戦いが始まろうとしていた。


 この戦いが始まれば、きっとドローンは千空たちに攻撃を始めるだろう。作戦を考えるのであれば、毒島が芦宮を抑えて、未來がスタナーで無力化。その隙に千空がドローンに対処していく。そう言う形になるはずだ。


 だが……それで上手くいくわけが無い。ドローンは縦横無尽に動けるのに、それら全てから毒島や自分を守り切ることは千空でも不可能だ。いくら千空を信じているとは言え、出来ることとできないことはある。


 そして今、芦宮にスタナーが通じないことさえも判明してしまった。


 であるならば……この場を切り抜けられる方法は、ただ一つ。


 使うしか無い。自分の中に眠る、天使の力を。


 さて、彼女の中には、天使の因子による能力が眠っている。使ってはいけないはずのその能力は、使う練習も訓練も行っていない。本来ならば使えるわけがない。


 しかし……彼女は既にその能力の使い方を完璧に理解していた。どうやって使えば良いのか、使ったらどうなるのか、その全てを彼女は完全に把握していたのである。


 それに気付いたのは、天宮から天使についての話を聞いた直後。天使のことについて知った未來は、自分の中にある新たな能力の使い方を、教えられるでもなく、練習するでもなく、感覚的に理解できたのである。


 それはきっと、未來が天使の血を引いているからなのだろう。天使の血が持つ本能――それが、彼女に天使の力について教えてくれたのだ。彼女自身は、そう納得している。


 だから今、その力をぶっつけ本番で使ったとしても……必ず上手くいく。能力の発動は絶対に成功するだろうという確信が、未來にはあった。


 それでも……頭によぎるのはあの言葉。


〝天使の因子を使おうものならば、当然にその存在は天使そのものへと近づく〟


 天宮は、天使になれば人から認識されなくなると言っていた。



 ――天使に近づいた時、果たして私は人に歌を届けることが出来るのだろうか。



 認識されないと言うことが、自分の夢にとってどれほどの足枷になるのだろうか……それを考えなかったことはない。人に認識されずして、どう歌を届ければ良いのだろう。


 でも……と、未來はゆっくり胸に手を当てた。


 だって、彼は言ってくれたから。手段になってくれるって、言ってくれたから。


 だったら、とことん頼ってみるのも良いかもしれない。


 私の目的は彼じゃない。私の目的は、私自身だ。


 それに……人から認識されなくなった者を音楽で認識させる――彼なら、そんな無茶苦茶なことすらも成し遂げてしまうかも、なんて……そう思えたからこそ、私はこの場所についてきたんだ。彼についてこようと思った時点で、覚悟は出来ていたんだ。


 もう、護られるだけじゃいられない。


 私は、私にできることをする。


 そうして、未來はゆっくりと深呼吸をする。


 息を吸って、吐く――ただ単純なその行為は、頭の中を酷く冷静にしてくれる。


 決意は、揺らがない。


 この想いは、本物だから。


(行こう、一緒に――)


 そして、彼女の中に眠る天使の力が目を覚ます。







「な、なんだ?! この光は……!?」


「くそ……おい芦宮、何をした?!」


「……私は何もしてませんよっ」


「じゃあなんなんだこれは?!」


 声だけでそんなやりとりをする千空たち。あまりの眩さに目を瞑らずには居られないが、とりあえず声でお互いの位置は把握できた。


 しかし、何が起こったのかが分からない。芦宮は何もしていないと言っており、嘘をついているようにも聞こえなかった。当然だが、毒島が何かしたわけでも無い。


 となると、考えられるのは……


(まさか……いや、そんなまさかな……)


 嫌な予感が頭の中を巡る。いや、考えるな。こういうことは、考えてしまうと現実になってしまうと、千空はその考えを振り払おうとする。


 だがしかし、現実はままならぬものだ。


 光が収まったとき――そこには、千空が考えたとおりの光景が広がっていた。


「今の一瞬でドローンが全滅……一体、何をしたんですか……?」


 芦宮が驚きの表情を見せている。それも当然だろう。自分の後ろに控えていた大量のドローンが、わけのわからない光に包まれているうちに壊滅していたのだから。一機たりとも残っていない。彼の後ろには、ただただドローンだったものが転がっているだけであった。


 だが、そんな芦宮の呟きは無視されることとなる。


 だって、それ以上のことが目の前で起こっていたのだから。


「お前……どうしてだよ…………!!」


 千空が未來の肩を強く揺らす。そう……肩を揺らす、揺らしただけなのだ。それなのに、千空がその手を前後する度に、するはずの無い音が聞こえてくる。


 バサッ……バサッ……


 その音には聞き覚えがある。だって、この目でしっかりと見て聞いたのだから。


 彼女の背中には――天宮と同じ、天使の羽が生えてしまっていた。


「全てのものは運命に従うしかない――それだったら、その運命という名の脚本を書き直せば良い。『REACTORS』――ここにあるドローンの脚本を……既に壊れたものとして書き直した」


 それが、未來の能力――天使の血を引く者としての未來に目覚めた、天使の能力。対象の運命や歴史を脚本に見立てて、書き直すという能力だろう。天使の力だけあって、とてつもない性能だ。


 だが……そんなことはどうでもよかった。


「どうして……そんなことしたら、歌が…………」


 戦いの最中だというのに、問い詰めることを止められない。


 彼女の肩を揺するこの手を、止められない。


 歌を沢山の人に届ける……それが、彼女の夢じゃ無かったのか。


 彼に問いかけられた未來は、一瞬だけ微かな笑みを浮かべ、千空の目を真っ直ぐ見つめた。


「わかってるよ。この行動が、何を意味するのかなんて」


「だったらどうして……!」


「千空君が、言ってくれたから。俺を手段にしろって」


「!」


 その言葉に、千空はズガンと頭を殴られたような気がした。


 ああ、そうか……分かっていなかったのは、自分の方じゃないか。


 どうして、天使になったら未來の夢が潰えるだなんて思っていたのだろうか。


 違うだろ。


 たとえ彼女が天使になっても、自分は連れて行かなければいけないじゃないか。


 未來は、あの約束を大切にしてくれているのに。


 絶対に果たせると、信じてくれているのに。


「私、知ってるよ。千空君は、言ったことを嘘にしないって。だって、約束したんだもん。だから、信じてる。こうなった私でも、千空君は連れて行ってくれるって。信じてるから」


「……そうか。そうだよな。ああ、そうだ!」


 だから、千空もそれに応える。


「わかったよ未來。絶対、果たそう。あの約束は二人じゃなきゃ意味が無いんだ! だからさ……半端な歌だったら連れて行ってやらないからな!」


「……うん!」


 そして再び敵へと視線を向ける二人。やはりこの二人に、必要以上の会話は必要なかった。見れば、未來の羽も光となって消えている。ギリギリだったが、セーフだ。まだ、自分たちは奪われてなんかいない。


「全く、戦いの最中だというのに。しょうがないですね、お二人は」


「悪いな、芦宮さん。今からぶっ飛ばしてやりますよ」


 二人の会話を邪魔せずに待っていてくれた芦宮に、そんな軽口を叩く千空。だが、意識は既に芦宮との戦いに向けられている。


「ぶっさん! 芦宮は俺が相手します! 能力を解除してください!」


「うむ、そろそろキツかったとこだ……!」


 毒島がそう言って地面に膝をつき、入れ替わるように芦宮が立ち上がる。短時間とはいえ、毒島は変質した能力を使い続けた。その影響は、既に無視できないほどになっている。


「ぶっさん……その左足と右腕……なんとかなりそうですか……?」


「さあな。それより、未來のその能力……芦宮に対してはいけるのか?」


 未來に尋ねられ、自分のことはお構いなしといった様子で聞き返す毒島。現状一番まずい状況なのは毒島だというのに、何という根性だろう。


「使うことは出来ると思うけど……既に発動した能力がどういう風になるかは分からないです。もしかしたら能力が暴走したり、その影響がこの場所に残ったままになったりするかも……」


「なら、芦宮を天使の力でどうこうするのはマズいな。千空、頼んでいいんだな……!」


「任せてくださいよ!」


 そう言ってガッツポーズをしながら、二人の前へと進み出る千空。どのみち、未來にこれ以上あの力を使わせることは出来ない。風見や天宮と違い、彼女は天使化の進行があまりに速い。幸い羽は光となって消えたが、次に使ったとき……その天使化は確実なものとなるだろう。


 だから、戦うのは俺だ。


 そうして、千空と芦宮の視線が交差する。お互い、対峙するのは初めてでは無い。


 握りしめた拳に力を込める千空。芦宮には一度やられている。雪辱を果たすという意味でも、毒島たちの恨みを晴らすという意味でも、父から受け継いだその力を全力でぶつけなければ。


 対する芦宮も、その能力を発動したようだ。コインの落ちる音がトンネル内に響くと同時、場の空気が変わり……身体に重みが増してゆく。


 だが、負けるつもりは無い。こいつを倒して、ボスを止めなければならないのだから。


 両者が、一歩ずつ距離を詰めてゆく。


 戦いの行方は――誰にも分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ