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11話 それぞれの生きる意味 99項「ラヴビルダーのお仕事」

 未來たちがカジノへ向かった翌々日。


 ニューアンジェルスより南に位置するセント・ジャック――その倉庫街にて。


「くそっ、逃げるぞ!」


「させるわけねぇだろ! 『TWINCRULLER』!」


 レオーネが手のひらで何かの力を溜め、地面を抉るように下から振り上げる。


 次の瞬間、空気がうねり竜巻が発生した。


「ぬおぉぉ?!!」


 成長した竜巻が残党たちを無慈悲に襲う。


 竜巻に進路を阻まれた残党はその光景に驚愕しつつも、即座に別ルートでの逃走を再開する。


 しかし、その方向には……


「そっち逃げたぜ!」


「まかせろ。妨火壁(ファイアウォール)


 エルフォードの手が地面に触れる。次の瞬間、地面が熱を帯び始め……


 地を這うように広がる炎が、残党の行く手を阻んだ。


「くそッ」


 熱気に圧倒され、悪態をつきながら後ずさりをする残党たち。


 だが、いくら後ずさったところでその後ろにはラヴビルダーが居る。


 唯一の逃げ道はたった今エルフォードが塞いでしまった。


 もう打つ手はない。


 そう思われたその時、倉庫三階の窓から怒声が聞こえた。


「おい、こいつがどうなっても良いのか!」


 そこには、倉庫の中で「INSIDE」を発動しながら待機していた静也と、そんな静也の背中を掴む残党の一人が立っていた。どうやら、静也を人質に取ったらしい。


 残党は静也の口元に高純度のドラッグ片を押し当てている。明らかに致死量のそれは、普通の人間が吸い込んでしまえば確実に死亡するだろう。残党は、静也を完全に人質に取ったつもりで居るらしい。


 しかし悲しいかな、静也にその攻撃は効かない。


「なんだ、まだ残党が残ってんじゃねえか」


「……やれやれだな」


 エルフォードがクロスさせた両手を突き出すと、三階まで届く炎のトンネルが形成された。


 そして、くぐる。そのトンネルを、炎を纏いながら凄まじいスピードで。


上昇火竜(アップストリーム)


「なっ……?!」


 ほんの3秒足らずで二人の居る3階までたどり着いたエルフォード。


 一瞬のうちに距離を縮められてしまった残党は、静也を放り出して一目散に逃げ出す。


 そんな残党の背中に、一粒の火種が打ち付けられ――


「……炎鎖(デッドロック)。これで終わりだ」


 蛇のように絡みつく炎の鎖が残党を締め上げ、あっという間に意識を失わせる。


「流石に余裕だったな。ボクらにとっては」


「……手ぬるかったな」


 口を揃える静也とエルフォード。倉庫の外では、ファイアウォールに行く手を阻まれた残党たちが一人残らず拿捕されている。


 セント・ジャックの倉庫街で行われたワクワクファミリー残党狩り作戦……それは、彼ら自身も驚くほど簡単に完了してしまったのだった。


「うむ。あとは倉庫の中身を燃やすだけだな」


 同じく倉庫で待機していた毒島が、静也にポケットティッシュを手渡しながら告げる。残党は全て捕まえたので、残る任務はドラッグ類の焼却のみである。


「っていうかぶっさん、見てないで助けてくれても良かったんじゃあないか? スタナーも持ってきてるしな」


 口元を拭きながら愚痴る静也。「INSIDE」のおかげで影響は一切受けないといえ、口元にドラッグを押しつけられるというのは非常に気分が悪い。


 だが、それにはちゃんとした理由があるようだった。


「まあそうなんだがな。これだけの炎のせいで、お前も残党の連中も汗だくだっただろう? スタナーを使えば、もしかしたらお前にも感電するかもと思ってな」


「汗くらい、どうってことないだろう?」


「とは思うんだが、念のためな。俺が外さないとも限らないし、万が一お前が気絶したら大変なことになる」


 現在彼らがいるのはドラッグの倉庫。こんなところで「INSIDE」が切れてしまったら、それこそ冗談では済まないことになる。


「第一、お前ならフィジカルで圧倒できただろう、あの程度。どうして大人しくしてたんだ」


「もしかしたらナイフとかも隠し持っているかも知れないじゃないか。変に抵抗して、万が一にもボクが刺されて気絶したら大変だろう?」


 毒島の言葉をそのまま返す静也。仮にも相手は犯罪組織の人間なので、殺傷用の道具を持っていても不思議ではない。


 それに、どうせ静也を人質に取った残党はラヴビルダーメンバーが片付けてくれるので、自分たちが余計なことをするよりも、彼らを待つ方が安全で確実だったのである。


「……それじゃあ、この倉庫も燃やす。さっさと外に出よう」


「ああ、頼んだよ。エルフォード君」


 そして、残党を含めた4人が倉庫を出ると、エルフォードは「焼却(デリート)」と呟き能力を発動させた。超高熱の炎がドラッグ倉庫全体を覆い――炎が消えた跡には、灰すらも残っていなかった。


「とんでもない威力だな……キャスターでも流石に耐えられる奴は居ないんじゃないか?」


「……この技は事前準備が必要だから、戦闘には向かない」


 静也の讃辞に淡々と返すエルフォード。他の技と違い「焼却」だけは設置型の技であり、発動場所に対していくらかの仕込みを行う必要がある。戦闘中にそんな悠長なことをしている暇はないので、使いどころは限られているのであった。


 事前に設置した罠に敵をおびき寄せる、という使い方は出来るが……まあ、難しいだろう。


「それにしても暑いな、この防具は」


 ドラッグの処理も完了したので、ヘルメットを外す静也。レオーネも「全くだぜ」と相槌を打ちながらヘルメットを外している。ラヴビルダーのメンバーは任務の際、必ずこの防具を装備しているのだ。


 彼らに続いて他のメンバーもヘルメットを外す。


「凄いな……これだけ長時間ヘルメットをしていたのに、髪型が一切崩れていないじゃないか」


 静也が感嘆の息を漏らす。野郎どもしか居ないので堂々と手鏡を確認したようだが、そこに映っていた彼の髪型は、およそヘルメットを着用していたとは思えないほど綺麗に整っていた。


「ま、見かけ上だけなんだけどな」


 レオーネが肩をすくめる。


 現在、静也たちにはサンディの「SIMPLE」が発動している。光を操ることで姿を変える能力なので、どれだけ元の髪型が崩れようとセット直後のようにしっかり整ったままでいられるのだが……それはあくまで見かけ上の話のみで、実際の髪はしっかりと崩れているのだった。


 しかし、そんなこと静也と毒島は気にも留めていないようだ。


「どうせ本部まで解除しないんだ、それでも構わないさ」


「うむ、そうだな」


 なんでもないことのように答える二人。


 というのも……


「解除したら飛行機で帰れないからな」


「行きは本当に快適だったな……」


 実は、4人はここセント・ジャックまで飛行機で来ていたのだ。毒島も静也も顔が変わっている……それはつまり顔が割れていないのと同義であるため、堂々と飛行機に乗ることが出来たのである。そして、帰還時まで「SIMPLE」を解除しなければ、二人は帰りも飛行機に乗ることが出来る。


 そういうこともあり、二人は「SIMPLE」を解除する気など毛頭なかったのである。


「……任務は完了した。一度ホテルへ戻ろう」


「だな。ボクも早く風呂に入りたいよ」


「それじゃあよ、こいつら早く引き渡そうぜ」


 エルフォードの呼びかけに皆が答える。


 捕まえた残党をCBSに引き渡し、車へと向かう4人。


 そして、彼らは一度ホテルへ戻ることとなったのだった。







 それぞれの任務が終わった後――


 アイズホープメンバーは、久しぶりに日ノ和の宿街と通話を繋いでいた。


『それじゃあ、もう大丈夫なんだ』


『うんうん! バッチリだよ! 声もちゃんと出るし、身体もこんなに動く!』


 画面の向こうで腕をぶんぶんと振ってニコニコする楓。久々の真佳にテンション爆上げという感じである。もしかしたら彼女ら二人だけで通話しているかも知れないので、実際に久々なのかは分からないが。


『まさか本当に後遺症なく回復するとはな』


 毒島が顎をさする。実際彼の言うとおりで、彼女の治療を担当していた医師たちからも驚きの声が上がっていた。後遺症の回復具合が良好という話はしていたので、予想自体はできていたのだが……こうして現実として目の当たりにすると驚嘆するものがあった。


『それで……こっちには来れそうなの?』


 真佳が尋ねる。彼女が入院してから彼は少し寂しそうにしていたので、どうせなら会わせてあげたいと誰もが思っていたところだが……現実はそう甘い話ばかりでもない。


『えっとですね、申し訳ないのですが……』


 そう答えたのは三崎だった。この間よりは顔色が良さそうである。


「あれ……無理そうなんですか?」


 不思議そうな顔で未來が尋ねる。それは当然の疑問で、怪我が回復した以上、アイズホープメンバーである彼女はアルメリカへ来るものだと、誰もがそう思っていた。


『楓さんには今、とあることを頼んでいる最中でして……というのも、SCの臨床試験が終了したのですよ。それで、一部の住民に渡り始めたのですが……』


 三崎が言うには、SC使用者の精神状況を詳しくモニターするために、楓に協力して貰っているのだという。楓のキャストは相手の心の声を聞くことが出来る……つまり精神を覗くことが出来るので、その情報を数値化することでSC使用者の精神状態を把握することが出来るのだという。


 と、ここでとあることに気付いた千空が、質問を投げかける。


「ってことは、新しい能力も制御できるようになったんだ?」


『そうなの! 今なら、半径5km内にいる相手となら簡単に会話できるよ!』


「凄いな……それ」


 彼女の答えに思わずため息を漏らす千空。もともとの「ARIETTA」で出来たのは声を届けることのみで、負担無しで発動できるのも半径1~2km程度の範囲だったはずだが……それが今やどうだろうか。言葉は一方通行ではなくなり、その範囲も倍以上に伸びている。正真正銘、凄まじい成長である。


 すると、楓がとあることを言い出した。


『でねでね! キャストの名前も変えることにしたんだ! 能力の成長に合わせて!』


『名前をかい?』


『うん!』


 キャストの名前を変える……考えたこともなかったが、それは面白い発想であった。ゲームやアニメでも、スキルや能力が進化したときに名称も伴って進化することが多々ある。


 これだけの成長をしたのならば、名前くらい変わっても良いだろう。いや、むしろ変わるべきである。

『なんて言うの?』


『あ! まな君も気になる!? そうだよねそうだよね! 気になるよね!』


 もとから高めだった楓のボルテージがさらに上がっていく。やはり、彼女を一番突き動かすのは真佳なのだ。


 そんな彼女に皆の視線が集まり――


 楓は、自信満々な顔をしてそれを発表した。


『それじゃあ行きます……私のキャストの新しい名前は――「ARIA」です! ドン!』


 画面の向こうで腰に手を当てて胸を張る楓。ぱちぱちとまばらに拍手が起こる。


 なるほど……「ARIA」か……と、千空は一人で感心していた。


 もともとの名前であるアリエッタには、小規模なアリアという意味がある。であるのならば、新しい「ARIA」という名前は、彼女の進化したキャストとしてはこれ以上になくぴったりであった。


 他のメンバーもいい顔をしているし、「ARIA」と言う名前は概ね好評のようである。


『どうどう?!』


『良いと思うよ、楓姉ちゃん』


『だよねだよね!? やったー! まな君に褒められた!!』


 テンションが最高潮に達する楓。そろそろ熱でも出すんじゃないかという様子である。


『元の名前の派生形になっているのね……あたしもその時があれば参考にしようかしら』


『ほんと!? じゃあ、優奈さんの『FLORA』が成長するの楽しみにしてるね!』


『ま、成長できればの話だけどね』


 優奈が肩をすくめる。キャストが成長するのは珍しいことのはずだし、今から楽しみにするのは流石に気が早いというものである。


 なので、「あー、皆のキャストも早く成長しないかなぁ」と頬杖をつく楓には、誰もが「そんな簡単に言わないでくれ……」という思いを禁じ得ないのだった。


 そんなわけで、楓のキャストについては以上となった。


「それにしても、SC使用後もしっかり調べる必要があるんだな」


 千空が呟く。SCの臨床にはかなりの時間を費やしていたし、安全性や効果などは折り紙付きだと思うのだが……やはり医療機器である以上、その経過観察は重要なのだろうか。


 とはいえ、キャストという個人に依存した調査方法はどうかと思うが……まあ、各国でキャスター組織が重用されている現状に鑑みれば、今更な話であった。


『そうなんだよね。多分だけど、明日『日食観察会』があるから、それも理由だと思うな!』


「あ、そっか。もう明日なんだね」


「そういえば、そんな話あったな」


 どうやら明日、日ノ和では数十年に一度の大イベント「皆既日食」が起こるらしい。向こうでは結構前から話題にはなっていたが、日付までは覚えていなかった。


『うん。せっかくだからセンターに集まって見ようって話なんだ。皆も一緒だったらもっと良かったんだけどね!』


『こればかりは仕方ないわね。とっても珍しいんだから、しっかり目に焼き付けておきなさい』


『もちろん! そのつもり!』


 にっこにこで答える楓。優奈は割と残念そうにしていたので、楓には是非とも彼女の分まで楽しんで貰いたいところである。


 その後も、久々に繋がったメンバーたちは他愛のない話を続けた。各自で用意していたお菓子などもどんどんとなくなっていく。


 そして、一時間ほど経過した頃だろうか。


 毒島が通話に参加してきた。


『よお。楽しんでるか?』


「あ、ぶっさんだ」


『ああ、ぶっさんだな』


『ひふぁひふり! ふっはん!』


 突然の毒島参加にそっけない返事をする千空と静也。楓は口をもぐもぐさせながらもきちんと挨拶していたが、食べ物を口に含みながら挨拶するのが〝きちんと〟なのかは少し疑問が残るので、部類としてはやはりクソ挨拶だろう。


 メンバーから塩対応された毒島は、やれやれと頭をかきつつも用件を告げる。


『とある人物を通話に参加させたいんだが、大丈夫か?』


「……? まあ、いいですけど」


 疑問に思いながらも承諾する千空たち。何の前触れもなく通話に参加してきたのは、それが理由なのだろうか。


 ともあれ、メンバーの承諾を得た毒島は早速とある人物を会話に参加させた。


 一瞬のローディングの後、画面に名前が表示される。


 ユーザー名「宇津峰(うつみね) 心愛(ここあ)」。


 その通話の相手とは――


『やっほー! 皆、元気してた!?』


 彼女の顔を見て、誰もが目を丸くした。


 どうして、彼女が()()に居るのだろうか。いや、どうして()()に居るのだろうか。


 疑問は尽きない。尽きるはずがない。


 だが、現実とは得てして奇なるものである。


 画面に映し出された人物――


 それは、一週間前マスカレードによって抹殺されたはずの人物だった。

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