プロローグ
とある日の昼日中、とある男を追う者たちがいた。
「逃がすか!」
壮年の男性が叫び、逃走する男を追う。側に居る二人の少年もそれに続き、路地裏を奔走する。
逃走する男はフードを深く被っているというのに、狭い路地裏を的確に走り抜ける。少年の一人は追跡に慣れていないのか、ついて行くだけで精一杯と言った様子だ。
「千空! 次の角でお前は反対側に回れ!」
「りょ、了解です! 挟み撃ちですね!」
壮年の男性が少年の一人に指示を出すと、千空と呼ばれた少年はそれに従い角を迂回した。
それを確認すると、さらに男性はもう一人の少年にも指示を飛ばす。
「千空の方へ誘導するぞ! 道を塞げ!」
「……わかりました」
もう一人の少年も、指示に従い男の逃走経路を塞ぎに掛かる。
タイミングを見計らい、少年が手に持ったカプセルを犯人の前方へ放り投げる。カプセルは狙い通り逃走する男の前方、建物の切れ目で上手く炸裂し、煙をまき散らした。男はまんまと少年の策に嵌まり、それを避けるように逃走経路を修正した。
《千空君、前方百メートル付近、ビルの路地から犯人が出てくる! 急いで!》
「わかってるよ!」
全員に指示を飛ばしていた少女から連絡が入り、迂回をしていた少年は全力を越えて駆ける。すでに息は上がっているが、そんなことは関係ない。間に合わなければ全てが無駄になってしまうのだ。
往来する人々を避けながら全力で通りを駆け抜ける少年。息も絶え絶えだが、無理をして走った甲斐あって、少年は逃走する男が出てくる前に路地にたどり着くことができた。
狭い路地、前後で挟み撃ちをされてしまった男は、悪態をつきながら側にあった低木に触れる。すると次の瞬間、低木の枝が意志を持ったように成長し、少年達に襲いかかった。
少年達が低木の回避に気を取られていると、男は上方向へと急成長を始めた低木に掴まり逃走経路を確保した。そうはさせまいと迂回していた少年も低木に掴まり、男とともに上昇していく。
「……危ないですよ、千空さん!」
地上十数メートルへと昇っていく少年に、もう一人の少年が声をかける。壮年の男性もそれに続き、早く降りろと促す。
しかし、その注意は少し遅かった。
「じゃあな!」
男がその言葉を発するのと同時、枝の一つが低木に掴まる少年の胸を強く打った。極太に成長した枝から繰り出されるその一撃は、無防備な少年に対し必殺の威力を秘めていた。
「ガッ……!」
そして、枝による一撃をまともに喰らった少年は、その拍子に掴んでいた手を緩めてしまう。
とある日の昼日中。
少年は、地上十数メートルからの自由落下を始めたのだった。