大通り散策
「ずいぶん広い道ねー」
空き家を出てから歩くこと数十分。
置いてきたはずのウザ子は、いつの間にか先に立ち、
キョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡しながら歩いていた。
「端が見えないな。さしずめ、街に通った大動脈、といったところかな」
今、音無進とウザ子の二人がいるのは、コルンドの街の中心を東西に通る、大通りであった。
現代の道路風に言えば、片側二車線の幅広さである。
馬車4台がすれ違える。
今も荷物を満載した馬車が、西門へ向けて進んでいっているところだ。
「見て! あっちに武器屋らしきお店があるわよ」
大通り沿いには様々な店が軒を連ねていた。
ウザ子が指し示したのは、交差する剣のマークが飾られた一軒の店で、
冒険者とおぼしき一団が出入りしている。
「ねえ。入ってみる?」
「今のところは、やめておこう。とりあえず、店を眺めながら東門方面へ向かおう」
「また地味。地味地味地味思考」
「一人で行けば?」
イベントは黙っていても向こうからやってくるものだが、わざわざ引き起こしに行かなくてもいい。今はまだ。
武器屋を始め、宿屋に酒場、馬車屋に雑貨屋、冒険者をあてこんだ様々な店を横目に、道沿いを歩いていく。
大通りに面しているだけあって、どの店も立派な店構えだ。
人通りも多いし、一等地、といったところだろう。
道なりに進んでいくと、一際立派な店構えをしている店が目についた。
翼を広げた、何やら恐ろし気な魔獣のシルエットをした看板には、『魔物卸問屋 グリフォンの翼』とある。
店の軒先には、店の手広さを誇るように、様々な商品が陳列されている。
食材としての魔物肉、その加工品、そして、ちょっとしたお土産まで。
卸問屋というからには、店先にあるラインナップは、あくまで宣伝用で、大口注文は別で行うのだろう。こんなところで調査をすれば、自然と魔物の情報や、この世界の情勢なんかにも詳しくなれそうだ。
要チェックだな。それにしても……。
「スライムまんじゅう……ねぇ」
透きとおったゼリーのようなものの中に、赤や黒、緑など色とりどりの中身が入った商品があった。
こしあんっぽいし。
どうみても和菓子にしか見えんが。葛もち的な。
あれも魔物由来なんだろうか。スライム入ってんだろうか。
それとも、スライムをイメージしただけの商品なんだろうか。
妙に気になる。
まあ。今はスルーだ。
他にも、気になる店やスポットが見つかるだろう。今のところは、さらっと観光あるのみ。
「おいしそうねー! あれってやっぱりスライムが入ってるのかな?」
「お前、無鉄砲だよな」
まあ俺も葛もちは好きだが。餡は断然こしあん派だが。
感想、発想があいつとほぼ同じというのが癪だ。
「それより、あっちの方からいい匂いが漂ってくる。行ってみよう」
「本当だ。これ何の匂いだろうねー」
問屋の先は、ちょっとした屋台通りになっていた。
鳥型魔物の香草焼きに、山菜ごろごろスープ。
採れたての牛型魔物の乳、他の街名産の酒、などなど。
ファンタジー素材をふんだんに使った料理もあれば、元の世界になじみのありそうな料理もあって、バラエティに富んでいる。
「あっ! ここかな? 『三街鳥の香味串焼き』! おいしそー!」
「おっ! らっしゃい! お嬢ちゃん、いい匂いだろ?」
威勢の良い店主のオッサンが、パタパタとあおいでこっちに暴力的な焼き鳥の匂いを流してきた。
スキンヘッドにねじり鉢巻きの無骨なオッサンだが、商売慣れしているなあ。
「一晩で三つの街を飛び過ぎるっていわれる三街鳥。特にこの手羽の部分は絶品だぜ! 一本どうだい?」
串を左右に振りながら誘惑してくるオッサン。
確かに魅力的だ。魅力的だが。
「また今度かな」
「え~~~~~! 今の絶対買う流れだったでしょう? ウッソーーー! なんで? たーべよーよー!」
ウザ子が腕をとってぶんぶん振ってくるが、買ってやることはできない。何故なら……。
「あいにく、持ち合わせがない」
ない。全くない。ゼロだ。
この世界の通貨についても知らないし、カネなんて一銭も持ってない。
これでは、買えるわけがない。
「ない? ないって、あんちゃん、焼き鳥一本買う金もないってのか? たったの8銅貨だぜ?」
オッサンは呆れた顔で、看板を指し示した。
そりゃまあ、いい年した若い男女が、串焼き一本買う金もないなんて、有り得ないと思うだろうな。串焼き一本8銅貨が高いのか安いのか知らないけど。
今こそ設定を活かすとき!
「俺たちは口減らしで村を出てきたからな」
「あっ。……なんだそうだったのかよ。あんまり悲壮感がないもんで、分からなかったぜ。なんかすまねえな」
途端に、オッサンが気の毒そうな顔になって謝ってくる。
騙してるから、そんなに同情してくれなくても、いいんだぜ。
あとウザ子、今さら悲壮チックな顔を作ってもおせぇよ。お前絶対設定のこととか忘れてただろ。
「いいんですよ。確かに今はカネがないけど、街にくれば何とかなると思って。俺たち若いし、田舎出身なんで、金は稼げばいいし、なんならその辺で野草でも摘めばいいし」
おいウザ子。何普通に大口開けて驚いてんだよ。ちっとはこっちに合わせろよ。
「そ、そーなんですぅ。あたしたちってホラ、たくましいし? けっこうなんでも食べられるっていうか、ね? あ、あは、アハハハ……」
「……そっかそっか。二人してずいぶん苦労して、ここまでやってきたんだなぁ。よっし、分かった! おい、二人とも! これ食え。マジうめえから!」
若干鼻をすすってから、スキンヘッドオッサンが串焼きを二本、譲ってくれた。
「「ありがとうございます!」」
二人して礼を言い、早速食べた。
ウザ子は豪快にかぶりつき、俺は念の為、一口だけ。
「ーーんーーーー! ジュースゥーーーイ!」