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転生初日の行動指針

 国境の街コルンド北西部。

 街の中では比較的貧しく、されどスラムと呼ぶほどでもない地域にひっそりと佇む一軒の空き家。

 音無進は、その空き家の中を興味深く眺めていた。

 雨露を凌ぐのに不足はない。けれどそれだけといっていい。


 充分だ。


 忍者なら、いざ任務となれば夜を徹して駆け抜けることさえある。

 そこまではいかなくとも、潜入先で機を待ち身を潜めたり、森の中で野宿をすることだってあるだろう。

 屋根があり、夜露を凌げるだけで極上だ。


 大きくひとつ頷いた音無進は、次なる行動指針を声に出した。


「まずは情報収集だな」


 何をするにしても、まずは情報収集。

 どんな事態に陥っても生き延びることこそ忍者の真骨頂ではあるが、情報収集を疎かにする言い訳にはならない。


「地味ねえ。それで、どこに行くの? やっぱり冒険者ギルド?」


 目を輝かせて立ち上がり、聞いてくるウザ子。

 つい先ほどまで退屈そうに部屋の真ん中で座り込んでいたのに、驚きの変わり身の早さだ。


 うざっ。


「いいでしょう~~~~! っていうか、そのうざっというのもう飽きた。ねーえんー、いいでしょー! もう行こうよー、冒険者ギルド!」

「駄々っ子か。そんなに行きたいなら一人で行けよ」


 そして、『あれ? もしかしてなんかあたし、やっちゃいました?』とかいいながら、Sランク冒険者にでもなればいいだろう。


「もしかして、いまあたし、めっちゃディスられてない?」

「もしかしても何も、お前、心読めるだろうが。楽しく浮かれ冒険者ムーブしたいなら止めないから行ってこいよ。俺はどっちだっていいんだぜ」


 本当にどっちだっていい。キラキラおのぼりさん感丸出しのコイツと一緒に行けば、良いカモフラージュにはなるだろうが、必要ではない。

 一人で行くなら、自分がキラキラおのぼりさんになればいいだけだ。めんどくさいけど。

 故郷の村から口減らしで半ば追い出され、街なら仕事にありつけるだろうと夢と希望を抱いてやってきた村人Aと村人B。

 そういう設定でいくことにしたんだ。

 村人B的には、まっすぐ冒険者ギルドに行くのも決して間違った村人ムーブじゃない。

 ただ、音無進的には、冒険者ギルド行きは時機を見て、慎重に行きたい。


「そのこころは?」

「テンプレイベントが多過ぎるからな」


 しかもほとんどの場合、強制イベントだ。

 この世界の常識を何にも持ち合わせていない状況で、強制テンプレイベントに突っ込んでいく愚を犯したくはない。


 大体、冒険者登録するにあたって、どういう手続きをするのかさえ知らない。

 迂闊に冒険者ギルドに行って、職業クラスが忍者だとバレてしまったら、目も当てられない。


「えー。つまんないつまんないつまんないつまんなーーーいーーーーー。そんなんじゃ埋もれちゃうわよ」

「けっこうじゃないか。それに、さっきから言ってるだろ。行きたきゃ一人で行けって」


 本当に構わないぜ。

 ただし、お前のママはがっかりするだろうな。

 何せ、俺のお目付け役という至上命令をおっぽり出して、やりたい放題遊びたいっていうんだからな。


「あーーーーーーーーーーーーー、そうだった! くぅ~~~~、あんたを見守るしかないのね……」

「そういうことだな、ざまあだな」

「ムッキーーーーー! もう、わかったわよ。じゃあ、冒険者ギルドに行かないなら、どこに行くのよ」

「建設的でけっこう。今日は一日観光だよ」

「観光? 名所巡りとかするの? 酒場は? 森は? 西門とかどう? きっと刺激的よ!」

「お前何とかして俺を強制イベントに巻き込もうとしてるだろ」

「ギクリ」

「そんな変な擬音語使ってくるやつ初めて見たぞ。今日のところは、普通にその辺歩いて、市民の暮らしぶりを見てみるだけだな」

「え~~~~~」

「まあそういうなよ。忍者の生活なんて、大部分はこんなもんだぞ」

「果てしなく地味ー」

「だから好きにしろって。おいてくぞ」


 じみじみ呟いているウザ子を放置して、音無進は空き家を後にした。


「へっ? 本当においてくの? ちょっと待ってよー!」


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