プロローグ3 崖の上の少女
崖の上で俺が咄嗟に助けた少女。
髪の色が水色で奇抜だと思っていたが、まさか異世界人だったとは。
いや、女神、なのか?
「お察しの通りです。この度は、誠に申し訳ございませんでした」
心底申し訳なさそうに、崖の上の少女は謝ってくる。
「マーニーと申します」
えっ。
あっ名前? いや~その名前はどうなんだろう。なんか混ざってない?
というか、これあんまり深く掘り下げたらアカンやつや。
忘れよう。
思い出にしよう。
ともかくマーニーは、女神とも偉そうにしているちっこいのとも非常によく似ていて、どうやら女神、らしい。
ちっこい方によると女神は唯一神らしいし、そうするとちっこい方も、俺が崖の上で助けたマーニーも、この世界の唯一神であるところの女神様、ということになる。
いわば女神の分体、といったところだろうか。
「ズバリそういうことよ!」
ドヤァ!!
「敬いなさい! とでもいうように、この三人の中で一番威厳のない奴がふんぞり返る。激しくウザい」
「いやだから、モノローグ風でナチュラルに声に出すのやめて……心折れる」
いやでも待てよ。マーニーが女神だということは、だ。
俺は彼女を助ける為に崖から落ちる羽目になった訳だから、要は俺が死んだのって、この女神のせいじゃねえか!
《ごめんなさい》
テヘペロ。
真ん中の本体女神様は無表情のままだったが、代わりにウザい方がテヘペロしていたので、とりあえず殴っておく。
こいつはあんまり神々しくないし、ウザいので構わないだろう。
「あいった! あにすんのよ! あたしだって女神なんだからぁ!」
たんこぶができて涙目のウザ子から抗議されるが無視だ無視。
ってかなんだよそのたんこぶ。
マンガか? マンガなのか?
女神だっていうから、怒らせたり、あまりにも不敬なことをしたらまずいかと思ってたけど、もういいや。
ウザ子もマーニーも彼女の一部ってことだろ。
直接語りかけたら俺がもたないから自分はやらないだけで、ウザ子にドヤ顔させたり、テヘペロさせたりしてるんだから、中身は相当いい加減で、しかもドジっ子だ。
間違いない。
「いや~照れますなあ」
「ほめてない。ほめてないから」
嵐を呼ぶ五歳児かよ、まったく。
「えーとそれで? マーニーはあの崖の上で、何してたんだ?」
「はい。それはそのぉ……」
なんだよこいつマーニーはっきりしないな。
何のために出てきたんだこんにゃろ。
「ひっ。どす黒いオーラ出てますよ~。邪気です邪気です。
払いたまえー清めたまえー」
あっなんかちょっと気分良くなった。ってコラ、いくら女神だからって勝手に浄化すんなやコラ。全部てめえのせいだろうがコラ。
「うひぃっ! すいませんすいませんごめんなさいぃっ!」
「あーもうっ! 悪かったわよ! この通り、ママは感情を抑えて暮らさないといけないから。唯一神だからすっごく多忙だし。時々あたしたちを作り出しては、異世界プチ旅行に出してくれるのよ」
「ほ~~~ん。で、このマーニーは俺の世界で何やってたんだよ」
「……世を儚んで傷心の旅に出た家出少女ごっこ」
「はあ? 聞こえんなあ?」
「世を儚んで傷心の旅に出た家出少女ごっこです」
「あんだとコラ?」
《世を儚んで傷心の旅に出た家出少女ごっこです》
テヘペロ。
ごすっガスッ。
「ちょっとぉ~~! トリプルアイスになっちゃったんですけど~~!」
うるさいわ。どうせちっとも痛くないだろ。
「あっわっかるう~? あたしってばほら女神だからさあ」
ウザッ。
それじゃなにか? 俺が咄嗟に命を張ってマーニーを守ったのって、
全くの無駄だったってことかよ。
「ブフッ。そうね」
「申し訳ありません……」
《いのちをだいじに~~》
テヘペロ。
「くっそ。おいこらてめえ真ん中! 一回お前を殴らせろ」
「ごめんなさい。さすがにそれは……」
マーニーとウザ子がサッと俺の行く手を阻んでくる。
「殴ったら逆にあんたが消えちゃうから」
《ウザ子なら殴っても構いませんよ》
「ママ!? ママまであたしをウザ子呼ばわり?」
「ハァ。もういいよ。なんか疲れた。それで、どうしてくれるの?」
元の世界に返してくれよ。多分無理だろうけど。
「ごめんなさい。力及ばず」
あーあ。まあ死んだもんな。
もう帰れないのか。
「そこはホント、ごめんね。その代わり、こっちで転生させてあげるから、許して」
「許さん」
「即答!?」
「あったりめーだバーロー! こちとら、たまの休みに修行してただけなのに、お前のせいで死んじまって、しかも元の世界にはもう帰れないんだろ? 許せる訳ねーだろ!」
「そんなこと言ったって。人があんな断崖絶壁を登ってくるなんて。神ならぬ身では想像すらできませんでしたよ」
「ってかお前ら神だろ! 想像しとけよ! チェーンソーでぶった切るぞ!」
「チェーンソーだけはまじで勘弁してください」
いちいちボケてくるなー。ツッコみ待ちかい。
「どうしようもないことは分かったよ。もういいから、転生させてくれ」
「ほんとにゴメンね。魂をこっちの世界に連れてくるだけで精一杯だったから。せめて、できるだけ希望に沿って転生させてあげるから」
やめろウザ子。お前がそんな殊勝な態度をとるなよ。キモいから。
「うるさいわよ。それでどうするの? 不老不死? スライム転生? 美少女戦士? よりどりみどりよ」
「守備範囲ムダに広いな。なんかもっと普通のでいいよ、普通ので!」
「いいの? 本当? 後悔するわよ~~?」
「もうしてる。割と激しく。具体的にはそりゃやっぱりはっきりきっかり、お前なんかの為に命を捨てたことをだ」
「もうイジらないでよ」
「やだね。それぐらいさせろよ。で、聞いておきたいんだけど、お前の世界ってどんなとこなの?」
「一言で言うと、そうねえ」
《なろうファンタジー》
ぶっちゃけたなおい。ぶっちゃけすぎじゃないか? まあいいよく分かった。
「じゃあまず、種族は人間」
「人間、と。吸血鬼とかリッチとか、オークじゃなくても大丈夫?」
「うるさいだまれ。だまって人間にしろ」
「アハイ」
「年は今の俺よりちょっと若い方がいいな。その方がいろいろ動きやすいだろうし」
「ハイハイ。じゃ18ってことで。そんでもってボンキュッボン、と」
「おい待てコラ。いちいちぶっこんでくるなめんどくさい。さらっと性別変えてくんな」
「はいはい性別は男っと。クラスはどうする?」
「クラス?」
「そう職業。勇者とか、賢者とか。何がいい? やっぱり勇者?」
「やめてくれよ柄にもない。っていうか魔王とかいるの?」
「一応いるわよ。まああたしなんだけどね」
「女神が魔王やってんの? ひでえマッチポンプだな」
「まーねー。澱みが集まって、魔物になるんだけど。放っとくと無秩序に破壊をまき散らしちゃうから。ある程度こっちで調整してるってワケ」
「じゃあ魔王、討伐したらだめじゃん」
「そこはほら、『ぎゃああ~~~~~~~!』ってやられたら派手に消滅してみせて、しばらくしたらまた別のとこでポコッと生まれれば大丈夫だから」
「ひどすぎ。俺、今からこの世界で生きていくんだけど」
「まあまあ。忘れさせてあげようか?」
「いや、やめておくよ。何もかも忘れて魔王に対抗したり、まかり間違ってお前を崇めたりとか、絶対にしたくない。しっかり覚えといて、好きなようにやらせてもらうよ」
「そう。それは面白そう! いい暇つぶしになるわ~」
「お前、ホントにひどいな」
「最大の敵は、暇なのよ。だからつい異世界に旅行に出かけたりとかしちゃうのよねえ」
「そして俺の死因も大概酷い」
「だからごめんって。それでクラスは?」
クラスか。それはもう、最初から決まってる。
「当然、忍者だ。それ以外の選択肢はない」