狩猟生活
「いやはや。もう一匹いたとは。危ないところでした。怪我はありませんかな」
「はい。おかげさまで! すみません、守ってもらってるだけで、邪魔ですよね」
「いやいや。打ち合わせ通りにして頂けて、大変助かりました。何事もなくて良かったですなあ」
「ご迷惑をおかけします。ここからは、荷物持ちをがんばりますからね! それにしても、さすがに冒険者ですね! ロアーさん、強いです!」
「それほどではありませんよ。タックルボアは、対処法さえ間違えなければ、どうということはありませんから」
村あるところに水場あり、ということで。
タックルボアを担いでえっちらおっちら、川まで運んできた俺とロアーは、水にさらして血抜きをしながら、歓談タイム。
さりげなくタックルボア(大)は俺が担いで運んだ。
「このでかいのは、俺が運びますよ!」とかいって。
前足に加えた石つぶての跡を見られないようにしたが、どうやら気付かれてはいないようだ。
茂みに隠れていた俺を庇う為、ロアーはタックルボアの突撃を避けずに自らぶつかっていき、左手を少し痛めていた。
それも、川での小休憩タイムに、薬草を使って手当てをしていた。
どうやらこの世界、魔法やらポーションやらスキルやらが幅を利かせてはいないらしい。
ポーションを飲んで怪我が一瞬で治ったりすることはなさそうだ。
さて、このロアー、第一印象の通り、人の良い冒険者だった。
ソロ狩りの延長みたいな意識でタックルボア捌きをミスり、俺を庇う為に身を挺する羽目にはなった。
しかし、それも初手で俺と反対側に弾き飛ばした結果であって、最初から一貫して同行者である俺の安全に配慮してくれていた。
タックルボア三匹を一人で倒したのに、荷運びとしてついてきた俺に高圧的な態度に出ることもない。
戦闘力のないポーターを囮にした戦い方だってしなかった。
「俺様が倒すまで時間を稼ぎやがれ」とかって矢面に立たされたり、見捨てられて逃げられたり。人気のないところで追剥にクラスチェンジしたり。まあ色々なケースも想定だけはしていたが、今のところそんな気配は微塵もない。
薬草とか、植物に関する知識もある。
道すがら、色々と発見しては、採取法、保存法とか解説しながら集めていた。
地球に存在していたものもあれば、見たことも聞いたこともないものもあったから、とても参考になった。
そうして、タックルボアに、諸々の野生の恵みを持ち帰って、初日を終えた。
冒険者ロアーとタッグを組んで村々を巡るのは、お互いに得るものが多く、その後も継続して行うことにした。
ロアーにとっては、荷物運びがいるために増収。
俺にとっては、北の村々の状況を知ったり、薬草知識や狩猟知識、この世界の動物の生態や諸々の一般常識などなど、会話の中から知ることができた。
ロアーは問えば気さくに答えてくれる。
煩わしいやり取りを挟まず、率直に聞けば済むから楽なものだ。
また、ロアーと一緒に仕事をすれば、冒険者ギルドを介さなくて済む。
これで変なのに絡まれるイベントを回避しつつ、冒険者の仕事ができて感触もつかめる。
早朝に宿の仕事、それからロアーと狩りに村巡り、夜はまた宿の仕事をして、就寝。
しばらくはそんな暮らしを続けた。
ただ、これだと俺の自由時間がない。
ロアー以外からも情報収集したいから、慣れてきたら三日おきくらいにロアーとの同行を断り、情報収集に充てた。
その間、ウザ子はというと。
特に宿の仕事以外にがんばることはなく、だらだらしていた。
あ、昼は受付と接客を任されるようになって、夜間の接客デビューもした。
そうして、四ヶ月が経過した。