肉食系冒険者ロアー(Dランク)
何事もなく夜が明けた。
簡単に身体をほぐしてから、仕事にかかる。
朝に仕込みを手伝ったりするから、俺の方が朝は早い。
ウザ子は昼からだから、そのまま爆睡していた。
こいつはホントに、普通に食っちゃ寝してて神々しさの欠片もない。
ひと通り朝の仕事をこなし、俺は街の散策に出かけた。
特に何をするでもないが、まだ知らないことだらけだからな。
初日の散策も大通りをまわったくらいで終わってしまったし、その後はオルテガについて仕入れ先をまわった程度。
もっとフリーに色々と情報収集をしたい。
そうして市場や大通り、東門の警備体制なんかをそれとなくチェックしていたら昼を過ぎた。
宿のピークを越えたから、「戦士の骨休め」で賄いをもらった。
ここの料理を過度に警戒する必要は、もうないだろう。
「シン。お疲れちゃん。これが今日の賄いだよー」
客の少ない時間帯だから、接客はウザ子がやっている。
ウザ子が厨房から持ってきたのは、チャーハンだった。
二皿持ってきたかと思うと、俺の前に座って、一緒に食べ始めた。
チャーハンというと胡椒をかけたくなるが、香辛料は使われていない。
ここでは出回っていないのかもしれない。
代わりに辛みのある野菜が使われていて、いいアクセントになっている。
塩も効いていて旨い。
味わいながら食っていたら、来客があった。
ウザ子も飯を食っていたので、女将のマーサが応対している声が聞こえてくる。
「ロアー。いつもすまないねえ。そいつは裏に置いといてくれよ。丁度賄いで出してるから、なんなら食ってくかい?」
「お~! それは良い時にやってきましたな。いやあ、役得、役得」
「なにいってんだい。いつもそれを狙って昼時にきてるくせに。いいから、とっとと裏に置いたら、戻っておいで」
「これは敵いませんなあ」
来客(ロアーというらしい)は随分と気安い関係のようだ。
一度裏に行って荷物を置き、食堂へとやってきた。
「お邪魔しますよ。お? これはこれは。新顔ですかな?」
賄いを食ってる俺たちを見て、気さくに声を掛けてきた。
「どうも。昨日から世話になってます」
「どうも~!」
「いやあ、そうですか。それはラッキーでしたな。なにせ、ここは飯が旨いですから」
そんな風にいいながら、ロアーは自然と俺たち二人の近くの席に、どっかりと腰を掛けた。
冒険者ルックで、筋肉質というより、やや小太り、といった風体の男で、物腰は柔らかい。
どことなく粗野なイメージのある冒険者だが、彼はあまりそういった冒険者らしくない。
ただ、獲物は立派だ。身の丈ほどの槌を背中に掛けていた。
片側は尖っている。
剣や短剣が主流の中で、槌とは珍しい。パワーファイターなのだろうか。
「はいよ。タックルボアの混ぜ炒め」
「お~! 待ってました! これ、これ! タックルボアはここで混ぜ炒めにしてもらうのが、一番旨い」
「お世辞言ってないで、ちっとは精進したらどうだい。あたしがいうのもなんだけど、毎日タックルボアばっかり狩ってないでさ。そんなんだから、万年Dランクなんじゃないか」
マーサは、言うだけ言うと、受付に戻って行ってしまった。
「おやはや、手厳しい。これは情けないところをお見せしましたな。というわけで、万年Dランク冒険者のロアーです。どうぞよろしく」
「シンです」
「キドよ。この料理に入ってる肉って、ロアーさんが狩ってきてるのね」
「いかにもそうです。いやー、この匂いがたまらない。それでは早速、いただきます」
言うが早いか、ロアーは盛大に料理をかき込み始めた。
「あたしたち、戦ったことがないんだけど、タックルボアって強いの?」
「フグフグ。そうですな。タックルボアは、敵を見かけるとすぐに突っ込んできますが、曲がれないので、まあ、大したことはありませんな。ちょっと避けて、こいつで叩けば、一丁上がりですな」
チャーハンをがっつきながら、肉食系(?)冒険者ロアーは器用に背中の槌を指し示した。
なるほど。
特化型の安定志向な冒険者というわけか。
万年Dランクとはいうが、生活していく分には、決して悪くない選択だ。
何より、本人が幸せそうだ。
きっと旨い飯さえ食えたら幸せなんだろう。
「ロアーさん、良かったら今度、連れてってもらえませんか。仕留めたタックルボアをかついで帰りますから」
「なるほどポーターですな。フグフグ。確かに、そうすれば大量に持ち帰れますな。しかしこの混ぜ炒めは旨い。待てよ。シンさんを連れていくとなると、昼時にここへ来れなくなるのでは? ふ~~む、これは悩みますなあ。フゴフゴ」
ロアーは食っては悩み、悩んでは食って考えた。
結果、連れて行ってもらえることになった。