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ウザ子と初めての夜

 転生初日にして、拠点が決まった。

 宿屋「戦士の骨休め」厨房奥にある、仮眠室だ。


 当面の仕事もある。

 俺は宿の雑用で、ウザ子はとりあえず昼間に食堂の接客。


 悪目立ちすることもなく、すんなりと潜入できたといえるだろう。

 順調な滑り出しだ。



 店主のオルテガと面談を終えてから、早速ウザ子は接客を、俺はオルテガについていって、色々と買い出しを行った。



 ちなみにウザ子、キドという名前があったらしい。

 俺の中ではウザ子で定着してしまった。

 本体女神からもウザ子と呼ばれていたから、もう対外的に呼ぶ時以外はウザ子でいいだろう。

 第一、女神でキド、なんて勇ましい名前あいつには似合わないし、こっちが第七感に目覚めてしまいそうだ。



 買い出しのついでに、俺とウザ子の、コルンド滞在許可証を作ってもらった。


 本来、コルンドの街にきた余所者は、門番の審査を受ける。

 そこで冒険者カードなり交易証なりといった身分証を提示できれば、すんなり街に入れる。そうでない者は、門番の心証が悪くなければわずかばかりの銅貨を支払い、仮の滞在許可証を発行されて、入門できる。


 仮の滞在許可証は、数日のうちに失効するので、その間に正式な滞在許可証を入手しなくてはならない。

 不法滞在が発覚すると街から追い出されるし、悪質な場合は犯罪者になってしまう。


 冒険者カードでも身分証になるが、俺もウザ子も持ってないし、まだ作る予定もない。


 正式なコルンド滞在許可証は、仕事なりが決まると仮の滞在許可証と引き換えに手に入る。

 俺たちは当然、仮の滞在許可証なんて持っていない。そこで紛失したことにして、オルテガに保証人になってもらった。


 仮の滞在許可証を紛失するのはよくあるケースらしく、さして疑われるようなこともなく手続きは進んだ。

 ごまかして許可証を入手するなんて造作もないが、余計な手間をかけなくて済んだので良かった。


 本当は下働きでも斡旋所に登録して、滞在許可証を持っている者が紹介されていくシステムのようだったが、右も左も分からない駆け出し冒険者ばかりを相手にしてきたオルテガは、その辺のフォローもばっちりだったようだ。

 つくづく、面倒見のいいお人よしなオッサンだ。



 買い出しを終え、帰ってきたら夜の下準備、そして皿洗い。


 夕食時は混むので、ウザ子は接客もせず夕食も食べずで特にやることもなく、付近をぶらついたり、仮眠室でだらだらして時間をつぶしていた。


 そして客足も遠のいた頃、賄いを勧められたが、疲れたから、と断って、仮眠室へ。

 オルテガは残念がっていたが、歓迎会はまた明日、ということになった。



 勿論、本当に疲れていたわけじゃない。

 これから泊まるというのに、出された食事を摂らないようにする為だ。

 昼飯を食べてから数時間。特に身体に異常はない。

 だが夕食もそうだという保証はない。


 仮眠室に入ると、ウザ子が待ちかねたように話し掛けてくる。

 でも俺はスルー。まだ食堂には客が数組残っているし、物音もしている。

 会話は、完全に静かになってからだ。


 それまでの時間潰しに、修行をすることにした。


 部屋の隅でろうそくに火を灯す。

 ろうそくの炎を見つめ、目を閉じる。

 目を開けて、またろうそくの炎を見つめる。それを繰り返す。


 暗闇に目を慣らす修行のひとつだ。

 食堂から漏れ聞こえてくる声や物音を聞くとはなしに聞きながら、無心で続ける。


 やがて、声も物音も聞こえなくなった。



「ねえ、もういいの?」


 小声で、ウザ子が聞いてきた。


「ああ。どうやら、誰もいなくなったな」

「用心深いわねえ。そこまでする必要、あるの?」

「必要はないかもしれないが、こうした方が落ち着く、いや、こうしないと落ち着かないんだ」

「ふぅん、そんなもの?」

「ああ。出先で知り合いを見かけたら何となく隠れたり、暗い夜道に車や人が通りかかったら、とりあえず見つからないように身を潜めるだろう。それと同じことだ」

「例えからして理解不能なんだけど。もういいわ。オルテガさんとおかみさんも、部屋に行ったようね」

「どうやら、な。さて、まずはお互い、離れてた時の情報共有からか」


 俺からは滞在許可証のことを伝え、ウザ子からは注文の取り方や、おすすめ料理とかについて話を聞いた。

 対した情報はない。

 初日だし、こんなもんか。


「許可証ねー。面倒なことにならなくてラッキーだったわねー」

「街の中からスタートすると、こういう弊害があるってことだな。次の機会に活かしてくれ。次の機会があればだが」

「わかった。分体とか、誰か召喚したりとか、機会はいっぱいありそうだから、参考にするよ」

「へいへい」

「おかみさんもいい人っぽかったわよ。ぶっきらぼうっていうか、あんな感じだったけど、中身は優しさでできてた」

「そうか。前情報通りだな」

「前情報って?」

「お前が止まってる間、近場の屋台で情報収集したからな。後、買い出しの時にね」

「止まってた? ええと、なんでだっけ?」

「あ。いや、そこは思い出さなくていい。おかみさんの名前はマーサ。この宿の看板娘をやってて、一目ぼれしたCランク冒険者のオルテガに言い寄られて、断り切れずに一緒になった、っていうのが二人の馴れ初め」

「えっ! そんなことまで知ってたの!? 全然知ってる素振りすらしてなかったのに」

「当たり前だ。忍者ってのは、侮られてれば侮られてるほど仕事がしやすいんだ。わざわざ自分から優秀さアピールなんかしない。

 ちなみに、宿の大まかな場所も名前も調べてあった」

「えー! すごい! にくたらしい!」

「さらっとdisるなよ」

「どうしてそんなことまでわかるのよ」

「人は基本おしゃべりだからな。昼の聞き込みの時点で、オルテガは宿で飯を食うって言ってたから、関係者だろうってことで色々突っ込んで質問していけば、すぐよ」

「忍者……恐ろしい子」

「まあな。ざっとこんなもんだ。さあ、明日からも、表向きは平凡に暮らしていくから、特に山も谷もないと思うが、もう寝るか」

「そうしましょう。おやすみー」



 こうして、転生初日の夜は更けていく。


 宿屋の片隅に男女が二人。

 特に何が起こることもなく。


 俺は壁にもたれて片膝立てて、瞑想。


 寝ないよ。初日だし。



 ウザ子?

 もちろん爆睡だよ。

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