宿屋「戦士の骨休め」採用面接
屋台の店主改め宿屋「戦士の骨休め」の主人、オルテガの話を総合すると、こうだ。
「戦士の骨休め」は、冒険者をメインターゲットとした宿兼酒場で、一階に食堂、受付があり、二~四階は客室になっている。ご主人とおかみさんは四階の一室を改装して住んでいるそうだ。
一階の厨房の奥に仮眠室があり、俺たちはここで寝泊まりしていい。
夜は賑わうから、落ち着かないというのであれば、正規の宿泊料より幾分か割り引いてくれるから、客室に泊まってもいい。
昼に一食、賄い付き。
田舎出の若者にとっては、これ以上ないほどの好待遇だ。
仕事の内容の方はというと。
まずはウザ子。
最初は見習い期間ということで、夜の賑わってる時間帯での接客はなし。
昼間、客の少ない間だけ、おかみさんの代わりに接客する。
慣れてきたら昼間の受付をやったり、夜の酒場で働いてもいい。
ウザ子が受付できるようになったら、おかみさんは買い出しに行ったり、客室整理をしたり、自分の部屋で寛いだりするそうだ。
俺の方は。
主に雑用だな。
買い出しに行く時に荷物持ちをやったり、厨房での仕込みを手伝ったり、夜の酒場営業中は皿洗いとか。
空き時間は好きに過ごしていいそうだ。
みっちり働くっていうか、働く時間帯と、自由な時間帯とが交互にある感じ。
金は貯まらないけど、つなぎで仕事を探す分には充分過ぎる。
オルテガは、駆け出し冒険者を捕まえては雇い、こうして面倒を見ているらしい。
確かに冒険者なら、仕事の合間に簡単な依頼を受けたりすることもできそうだ。
そうして、自分の生活ペースを掴んだ冒険者が、ここを巣立っていく。
夜間にウェイトレスとして働いている従業員にも、現役の冒険者がいるらしい。
日帰りの仕事だけ受けて、ほぼ毎日、ここで働いているそうだ。
「それ、冒険者なんだろうか?」と思ったが、まあ冒険者も色々なんだろう。心は冒険者、みたいな感じかな。
ともかく、俺の方は早朝から朝にかけてと、夜間営業中に仕事。
ウザ子は昼に仕事。
ここでの生活を始めると、互いの空き時間が合ってるのは、食堂の営業終了後、ということになる。
申し分ない好条件だが、日中は別行動になるのがネックか。
ウザ子の目的を鑑みれば、ここは一旦相談かな、と思ったら。
「いいわよ」
とアッサリOKが出た。
「いくら同じ村の出身だって言っても、四六時中一緒にいるなんて無理よね。稼がなくちゃだし、ちょっとくらいこらえないと、バチが当たっちゃうわ」
バチは当たらないと思う。むしろ当てる方だろ。
「ガハハハッ。おいあんちゃん、こいつは早速別れの危機ってやつかあ?」
「やめてくださいよ。元々、俺たちはそんなんじゃないですから」
「おうそうか。そんじゃ、部屋はやっぱり別々にしとくか?」
「え~~いいわよもったいない。部屋が分かれてると不便だし」
「だよなあだよなあ。わかってるわかってる」
何が分かってるんだ。みんな大体そう言うんだ、みたいな顔でニヤニヤするな。
「まあそういうわけで、お世話になりますオルテガさん。部屋は仮眠室だけで大丈夫です」
「おうよ。やっぱ静かな部屋でアレしたくなったら、アレだ。空き部屋を見繕ってやっから、な?」
「アレってなに?」
「さあ。昼寝とかじゃないの?」
「えっ。……あっ! あーーーおじさん! アレってアレ!? えっちょっと待ってよもう! あたしが? こいつと? 絶対、100%ない! ないわ~~~! ないったらない! ありえないわー」
あ、さてはこいつ、オルテガの心を読んだな。
どんな想像してたんだ、オルテガ。
「もちろんそうだろう。分かってる。俺は分かってるとも」
「分かってないじゃない! 今、『そういうことにしておいてやるよ』って思ってるでしょ!」
「まさか。思ってない思ってない。ガハハ思ってない」
「いや思ってるってば。思ってるでしょ!」
コラウザ子。ムキになるな。心読んで断言までしてるじゃねえか。
奇跡的に幼なじみあるあるっぽくまとまってるからいいものの。
もうお前なんかウカツ子さんだ。ウザ子じゃなくてウカツ子だよ。
「そこまでだよ。話がまとまったんなら、二、三、買い出しに行ってほしいところがあるから。アンタ、屋台の方は店じまいして、まわってきてもらえないかい」
おかみさんが割って入ってきて、強制終了した。
よし、ナイスタイミング。
「よっし。それじゃ、あんちゃん。早速で悪いが、俺についてきてくれ。嬢ちゃんの方は、こいつから接客とかについて聞いてくれよ」
「分かりました」
「いいわよ」
「決まりだな。改めて、オルテガだ。よろしくな。二人の名前を教えてくれ。いつまでもあんちゃん嬢ちゃんってわけにもいかないだろ」
「シンです、よろしくおねがいします」
ススム、だと響きが珍しくなってしまうから、音読みしてシン、ということにした。名字は名乗らない。
「キドよ。よろしくオルテガさん」
ウザ子、お前そんな名前があるのか。
今の今まで知らなかったぜ。
≪全部アンタのせいでしょ。この機会にしっかり覚えときなさい。喜怒哀楽のキドよ。ママの喜びと怒りの感情をメインで担当してるんだから。偉いんだから!≫
マジか。
今日イチ驚いたわ。
顔には出さないけど。




