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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛されたゴブリン

作者: たけのこ

先日の豪雨災害の時に雨に降られたせいか38.9℃の熱が出ちゃって、その時に見た夢を文字に起こしたやつ。

 人の胎を占領する事でこの世に生を受けるゴブリンという種族。

 その特性上、他種族の雌を攫っては孕ませるという行為が日々の生活の中で不可欠であるが故に嫌われる種族。


 ゴブリンの巣穴から帰ってきた女など腫れ物の代名詞であり、大半の女性はそのまま自死するか教会へと籠るのが普通だった。

 人の身でありながら、人を害する魔物を産み落とす……それは女性にとっては耐え難き苦痛でしかない。


 そんな繁殖の為に女を攫うゴブリンと、悪鬼から大切な人を守る人間との争いが数千年続き、この先数千年も続くだろう歴史の中で稀有な事例が一つある。

 大半が望まれない生を受け、仲間からも尊重されず、人からは見つけ次第に討伐され、他の魔物から雑兵として扱われるゴブリンを愛した女性が居たのだ。


 その女性は貧しい農村で共同体維持の為に決まった相手と結婚した何処にでもいる妙齢の女性だった。

 ただ一つだけ違う点を挙げるのであれば、その女性と夫の間には子どもは全く生まれず、村の至る所で「奴の胎には岩が入っている」と陰口を叩かれている事だろうか。


 将来の夢は王子様のお嫁さん……でも歳をとるごとに現実を見て、自分の子どもを腕に抱く事がささやかな、貧しい農村での見れる精一杯の夢とした女性だった。


 そんな女性にとって、今の自分の現状と故郷の有り様は酷く耐え難い。


 何度も夫にまた自分を抱くように懇願し、それでも産まれず、やはりアイツはダメだと村での居場所を無くしていく悪循環……女性は自殺すら考えた。


 そうして女性がいつもの様に下を向いて歩いていた時、村をゴブリンが襲ったのだ。


 何も珍しい話ではない。

 この様に冒険者を雇う事も出来ず、巡回の兵士すら来ない様な貧しい農村が、ゴブリンの様な弱小種族にとってちょうどい略奪対象だったというだけの話だ。


 だが弱小種族といっても魔物は魔物……ろくに食事のとれない貧しい農村が束になって勝てる相手ではなかった、それだけだ。


 そうして他の村の女と一緒に巣穴へと連れ帰られた女性を待っていたのは語るまでもなく、激しい陵辱の限りだった。

 最初は拒絶し、助けを呼ぶ元気のあった人間達も三匹目からは瞳から光を失くし、言葉を発さなくなる。


 そんな地獄の様な日々が二週間くらい続いたある日の事だ──産まれたのだ、女性に、子どもが。


 あれだけ望んだ我が子がついに産まれ、自分の腕の中でスヤスヤと寝ている。


 あぁ、なんと愛おしいのだろうか?


 長く尖った爪も、額から伸びる小さなツノも、他とは少し薄めの緑色の肌も、長い耳も、その耳まで裂けた大きな口も全てが愛おしい。


 女性は涙を流した……ゴブリンに陵辱されて悲しかったからではない。

 こんな自分でも自身の子を抱けるという至上の喜びに浸って泣いたのだ。


 同じ村出身の女達へと嬉しそうに我が子を見せびらかす女性を見て、同郷の者たちの精神は限界だった。

 もうこんな異常な空間は耐えられないと舌を噛んで自殺したのだ。


 それを見て女性はまた涙を流した。

 死んでしまった皆の為にも、この子を大事に育てると決意をして。


 そこから女性の常軌を逸した〝教育〟が始まった。


 産まれてから直ぐに魔物としての本能に目覚め、自身を産んだ母親となった女性すら犯し、食べてしまうゴブリンに対して女性は社会常識、言葉、簡単な算学、そして日々の生活の知恵を叩き込んでいった。


 自分に犯されながら特定の同族に愛おしそうに語り掛ける様子に他のゴブリンも、また産まれた時から魔性である為に女性が産んだゴブリン自身も不可解な想いを抱いた。


 何度も自分の母親と名乗る女性を犯し、殴り、突き飛ばしても女性の我が子への執着が無くなる事はなかった。


 それどころか次第に女性が産んだゴブリンは種族としてはじめて「無償の愛」というものを学んだのだ。


 ……学んで、しまったのだ。


 それから薄緑のゴブリンは母親の言う事をよく聞き、その言い付け通りに困っている同族を助けて回った。


 無論、他のゴブリンにとっては便利な奴としか思われていなかったが、何となく良い事をした気分になったから良いのだ。

 とにかくそのゴブリンは母親を慕い、次第にその母親が生まれ育った「人間社会」というものにも興味を持つ様になった。


 ゴブリンが食う、寝る、犯す、奪う以外の事に興味を持つなど、これまたゴブリン史上初の出来事だった。


 そうとなれば早速行動だと、そのゴブリンは同族の目を盗んで巣穴から抜け出した……もちろん母親を連れて。

 突然の事に目を白黒させていた女性だったが、我が子が望むならと、街についたら案内をしてあげようと張り切った。


 しかし現実は非常である。


 街に近付き、人目が出てきた所で襲われたのだ。人間の兵士に。


 当然である。だってゴブリンが攫った人間の女性を連れ回している様にしか見えないのだから。


 母親と同じなりをした〝同族〟に襲われて困惑し、ただただ血を流して蹲るゴブリンの味方をする者など誰も──いや、一人だけ居た。


 彼の母親が身を呈してゴブリンを庇ったのだ、この子は自分の子だと。


 何度もそう主張しながら斬り捨てられた。


 魔性に堕ちた女だと、巣穴で起きた出来事によって錯乱してしまったのだと……そんな言葉があちこちから聞こえてくる。


 母親を目の前で殺されたゴブリンは逃げた。


 逃げながら憎悪を募らせた。


 無償の愛を識るが故に、またそれが奪われ裏切られた時の気持ちが増幅されてしまったのだ。


 もともとゴブリンという種族にとって嫉妬や憎悪という感情は相性が良い。


 彼は未来永劫、人に対する恨みを忘れはしないだろう。






 そんな幼少期を辿ったゴブリンが──今我々人類が苦しめられている魔王である。

この短編に登場した人物達の中で一番の化け物は誰だと思います?


魔物?魔王になったゴブリン?それとも人間?


私はゴブリンの母親が一番の怪物だと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お母さんは確かに怪物かも知れないけど、それをそうしたのは夫だな。 この人の対応によってはこの怪物は生まれなかった。
[一言] こういうの大好物です。
[一言] 某ゴブリンスレイヤー「やはりゴブリン殺すべし」
感想一覧
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