ドワーフの国に入りました。
春になり、土妖精の国に向かう。
南門と呼ばれる海側の門を目指して下山していた。冬の間も下山中にも土竜に襲われることはなく、途中で飛竜と熊を倒した程度で無事に南門に到着した。
「身分証の提示をしろ」
門の両側には十人の門番が立ち並び警戒している。各国が船を使い、土妖精国を訪れる際に使われる門が南門だ。訪れる際には多数の人で慌しくなるが、通常時に訪れる人は少ない。
「持っていないのだが」
召喚で呼ばれたので身分証など持っていないのは当然の結果だ。この世界で人との会話が初めてなのだ。
「持っていない?冒険者証は?」
「山脈の向こう側、湿地帯から来たので何も無い」
「湿地帯から?あそこに住まう種族は無くなったと聞いているが。スキルの確認をさせてもらうが問題ないか」
「スキルの確認とは?」
「早い話が鑑定だ。種族や職業等を確認する。強盗のスキル『強奪』等があれば入国はできず、取り調べの対象となる」
「了解した。鑑定をお願いします」
スキルを見られても問題ないだろうと考えていた。
名前 高達達也
年齢 十五歳
種族 人族(異人)
職業 陶芸職人
レベル 二千百十七
スキル 陶芸 無限収納 投擲 解析
抽出 従魔 生活魔法
スグンターナ神の加護
アーステラ神の加護
「おまえ!いやっ、貴方は神の加護をお持ちのようだが詳細を教えてはもらえないだろうか」
「神の加護?あれは召喚された時に貰ったものだよ」
「召喚?召喚者ではないのか?異人とあるが」
「それは巻き込まれたからだと古赤龍が言っていたな。何か問題があるのか」
「おれ、いや、私では判断できないので相談してきます。中に詰所がありますので、そこでお待ちください」
「あと従魔、蜘蛛とスライムも一緒なのだが、大丈夫か」
「後ほど冒険者ギルドで従魔登録していただければ問題無いです」
それを言うと同時に別の門番が中に走っていく。詰所内の一室に案内してくれたが、三時間も待たされることになった。
走った門番が向かうのは三番隊詰所。
土妖精国には六番隊までの軍がある。一番隊が首都、洞窟内を守る隊。二番隊は首都正面の正門及び外壁周辺を守る隊。三番隊は南門と外壁周辺、四番隊は北門と外壁周辺、五番隊は街北側の治安維持、六番隊は街南側の治安維持を担当している。外壁周辺とは外からの脅威の排除で魔物だけでなく、密入国や闇取引を取り締まっている。
それぞれの隊が担当地区に拠点を構えており、宿舎や食堂、訓練場も備えている。そして首都との通信ができる魔道具も設置されている。これは隊長、副隊長の他、小隊長が使用可能。三番隊には十の小隊があり十二人が使用可能なのだ。
三番隊隊長室に門番が駆け込む。
「失礼します。南門に不審人物がいらっしゃいました?」
門から駆け出した隊員が小隊長室に駆け込む。隊長室であろうと緊急の伝令は入室できるのだ。この国の隊の特徴であり、他国では真似のできない対応だ。
「不審人物がいらっしゃいましただ!自分が何言っているか分かっているか?落ち着いて説明しろ。だいたい何故疑問形なのだ」
三番隊隊長、モナハルゾ・ウィルバーナが叫ぶ。要点を得ていない報告に苛つく。
「はい!訪れたのは人族、異人とありましたレベルが二千を越え、スグンターナ神の加護を持っていますが、身分証明書を持っていません。通常であれば水晶による確認で入国を許可できるのですが、異人と神の加護により報告と入国の可否を確認に来ました」
隊員は落ち着いて報告を行う。些細な事での報告は訓練の割り増しが待っているが、隊長の顔を見て安堵する。
「神の加護・・・異人・・・ここに連れてこい。その間に総隊長に確認する。それと急がなくていいぞ。時間が必要かもしれんからな」
「はい!お連れします」
隊員は脱兎のごとく走っていく。
「ゆっくりでいいと言ったのだが・・・」
自分も落ち着いて総隊長、第一王子へと報告を上げるのだった。
待ち時間も長そうなので見張り?の隊員にドワーフ国について教わっていた。
実力主義、国王も世襲制ではなく鍛冶の腕で決めているそうだ。三年に一回ある剣技認定会で王級を獲得出来た者が務めることになっている。もちろん当代との話合いの上でだが。
剣技認定会は洞窟内にある神殿で行われる。ここには戦神が祭られており、神前にてオリハルコンを切る剣を打てた者が王級と認められる。
当代の王は十九年前に王級を得て国王となったが、その時は一悶着あったのだ。先代の王は早く退位したかった。ドワーフの職人だから内務より実務が好きなのだ。当代が王級を得た時には飛び上がらんばかりに喜んだそうだ。他にも先代の時に王級を得た者はいたが、年を理由に辞退が続いていた。先代より年老いていたのだ。当代は逆に若く三十を超えたばかり。当然のように辞退したが、他の王級職人を巻き込んで代変りしたのだ。もちろん辞退した王級職人と密約を結ばせていたからだ。
国王は代変りするが宰相は継続しており、外務や内務関係者は世襲制が多かった。これは王を支える為の専門職と考えられているのだ。その家系でも職人を目指す子はいるが、一人は生贄のように内務に従事していた。引退後からでも職人を始める者が居るくらい人気のない職業だ。
ちなみにドワーフは身長百六十センチ前後の伍頭身くらいで筋骨隆々だ。中東系の顔立ちのイケメンだ。女性も同じ体形。地球のイメージでは髭もじゃだが、実際には無かった。残念である。
鍛冶職人の他に人気なのが国軍である。
国軍は一番隊から六番隊まであり、それぞれが各地区を受け持っている。一番隊は六百人、二番隊から四番隊がそれぞれ三百人、五番隊と六番隊はそれぞれ千人となっている。
この国に貴族は存在せず、王級を持った職人がそれに価する。王級職人を持つ家には秘伝の製法などがあり、実施や一番弟子に伝え家を守っているのだ。国王は世襲制ではないが、ある程度限定された家系から選ばれている。
現在、王級職人は国王含め十一人。これが国会であろうか。官僚を任される家系は二十家あり、宰相や外務相、内務相の他に裁判相、採掘相と言われる国家の重鎮が居る。
国としての収入は国営の鉱山の運営が主で、他国からの商人等には税が課せられている。鉱物の販売では全額が国の予算となり、そこから各予算を捻出しているのだ。他に商人への税として、自国産の品を仕入れるには二割、外国産の品を販売するには一割の税を課している輸出が主産業の国だ。
職人が作った剣や防具は国が買い上げ、ギルドや国内の商人に販売している。王級職人が仕上げた品だけは競売に掛けられ、売り上げの三割を国に納めさせている。
そして無類の酒好きな種族でもある。輸入品の五割が酒である。残りが食物だが成人以降の食事が少なく、酒だけで働けるのは種族特性かと疑うほどの酒豪であった。
ドワーフはエルフと唯一の取引がある国でもある。ドワーフ国はギルドから魔石を購入しエルフに売る。エルフは魔石を使い、魔道具を製作。その販売利益で穀物を買うのだ。
五十日に一度、エルフの森から船で交易に来るのだが、人族の商人は麦や野菜などを売る為に次期を合わせて訪れていた。
「十日前に帰ったのですがね。しばらく南門は静かですよ」
門番の隊員から話を聞いていたのだが扉がノックされ、走っていった隊員が帰ってきた。
「お待たせしました。隊長が会いたいとの事です。三番隊の施設まで案内します。
こちらを着用いただけませんか?隊で使う外套なのですが、隠蔽の効果があります。黒目黒髪は異世界人特有との認識があり、フードで隠していただければと思います」
黒目黒髪は異世界人と認識されているのか。過去の転移者や召喚者には日本人が多かったのだろうか。
歩いて三十分ほどの距離だったが、城壁内部は石造りの家が多く、ほとんどが平屋だった。鍛冶屋や金物屋が通りに数多くあり、あちこちにある煙突からは煙が上がっている。
「鍛冶師の窯が多いみたいだね」
「ええ、ドワーフは鍛冶職人が多いですよ。剣や防具、もちろん鍋などの生活品を作る工房もあります。他国で使われる鉄製品もほとんどドワーフが作った製品ですよ。他国には鉱山が少ないですから」
施設に到着したが、街並みを見学しながら歩くせいか、三十分は短く感じた。
「こちらでお待ち下さい」
隊員に案内されたのは小さいが応接室のようだった。
「総隊長、神の加護を持った異人っていうのが来たのですが、どうすればいいですか」
「宰相に確認するから待てと言っただろう!」
「もう応接まで来ましたよ。早くしてくださいよ。レベル二千ですよ!怒らせたら街が無くなるって」
「丁寧に持て成せば怒らないだろうが」
「俺たちには無理ですって。ドワーフですよ、俺達は!」
「それは俺も同じだ。だから宰相に頼んだ!」
総隊長、この国の第一王子であるギルベルト・ツェルギムが対応に苦慮していた。
三番隊隊長のモナハルゾ・ウィルバーナから連絡があり、即座に宰相へと伝令を走らせた。国軍指揮所と王城は離れているのだ。伝令が着けば魔道通信で連絡が入ると思うのだが、いまだに連絡が無い。宰相もあわてているのだ。異人の取り扱いについて。
「迷い人ではなく異人、どうすれば・・・エルフに頼るのは癪に障るが、背に腹は代えられないな」
宰相、ジェイナンド・ボテンテはエルフへと魔道通信を開始するのだった。
異人、間違いなく異世界人であること。魂を異世界で管理される迷い人であると知らされた。エルフとドワーフ、この二種族間で迷い人は希望を聞き、手助けすると盟約を結んでいる。過去に異世界の技術を引き出す為に非道な行いがあったからだ。
例えば井戸に付けられたポンプ。これは千年以上前の迷い人が考えた物だ。だが、その技術を欲した国は迷い人を攫い、拷問してまで作らせた品だった。それを聞いたエルフ族がドワーフ族と共に密に救出し、エルフの森へと匿った過去がある。その時に迷い人を保護、もしくは手助けをすると決めたのだった。
その時、エルフは絹の作り方を教わり、今では産業として成り立っているのだ。他にも綿花や菜種油等の様々な品を教えられていたのだった。
ポンプはドワーフが構造体を作り、エルフが魔道具とすることで誰でも手軽に井戸水を使えるようになっている。
エルフの知識では異人は迷い人、それならば手助けせねばなるまい。宰相は総隊長に魔道通信で告げるのだった。
「ギルベルト総隊長、彼は異世界人です。我国は手助け、もしくは保護をします。本人に確認し、王城まで案内して下さい。また彼を知る者には緘口令をお願いします。魔法契約を交わして下さい」
「! 解りました。王城へとお連れします。知る者全員を連れていきますので、魔法契約も一緒にお願いします」
このことを三番隊詰所へと伝達した。
モナハルゾは慌てて詰所に向かう。門番だった二人には交代要員を向かわせ、詰所で待たせてある。南門で彼を目にした可能性がある他の者も交代要員を送り、詰所に戻るよう手はずを整える。
「お待たせしました。お初にお目にかかります。三番隊隊長、モナハルゾ・ウィルバーナです。この度はドワーフ国への訪問、歓迎いたします。タツヤ殿は異世界人で間違いないでしょうか」
「はじめして。高達達也です。異世界人、ええ、間違いありません。詳細説明の必要はありますか」
「いえ、結構です。この後、王城へと案内したいのですが、可能でしょうか」
「特に予定はないのですが、どのような要件ですかね」
「我国の宰相が異世界人について説明したいと申しております。いかがでしょうか」
「そうですか・・・ 伺います」
「ありがとうございます。馬車を用意しますので、もう少々お待ちください」
「宰相様って偉い方ですよね?この格好でも大丈夫ですかね?他に服を持っていないのですが」
「・・・問題無いと思います・・・」
どうやら問題あるようだ。だが、服は無い。今着ているのは兎で作った服だが、上等といえば素材が上等な龍の装備がある。古赤龍は赤黒く、古青龍は濃紺、古黄龍は茶色だ。ここは古黄龍の棲家に近いので古青龍の装備で行こう。
着替えを済まし外套を羽織ると迎えにきたので、王城に向けて出立した。
王城に近くなると家々も変化した。平屋が二階建てや三階建てになり、しまいには壁に囲われた屋敷まで現れた。王城を中心に身分の高い者が住んでいるようだ。東京も同じ感じだから違和感はないが。
馬車の中から街並みを眺めていたら、ひと際立派な壁と門に到着した。王城だ。
壁は三十メートルあるだろうか。高く厚く造られており、上部を歩けるようで兵士が立っていた。
門からは徒歩での移動となった。案内もモナハルゾ隊長から変わっていた。
ただ、門の先に洞窟?岩山が王城の大きさに掘られており、王城は一個の岩を削り作られていた。
「ほぇ~、凄い造りだな」
門から王城まで、十五分も歩いた、しかも階段があった。通路用は一段一段、高さと幅が異なっている。駆け上がるにもリズムが掴めない造りだ。他も階段だが、高く狭くなっており、歩いて登るには適さない。この作りなら敵が攻めてきても登るのに疲れるだろう。しかも高低差二十メートルはあるからな。階段というより壁だな。
登り切った先で違和感があり、当りを見廻したが何も無い。
「ここから結界が張られています。外からの攻撃と悪意を弾く結界です。貴方が弾かれないので安心しました。ちなみに中から外への攻撃は可能です。お待ちしておりましたタツヤ殿、私は総隊長のギルベルト・ヴェル・ツェルギムです」
待ち構えていたのは総隊長、第一王子だが、そうとは自己紹介しない。
「はじめまして、タツヤ・コウダテです。この世界のことは知りませんので、失礼があったら許して下さい」
外套を脱いでから挨拶をした。
顔を上げれば総隊長さんが唖然と見つめていた。
五分ほどで我に返り
「よろしかったら装備の素材を教えていただけないだろうか」
うむ、古青龍の装備に着替えて正解のようだ。
「これは古青龍の革と鱗で作りました」
「古青龍・・・貴方が作った装備ですか」
「ええ、素材の入手から加工まで、全て自分で作りました。討伐はできませんでしたが」
ドヤ顔を決めてやった。総隊長さんが再度固まった。ドヤドヤ!
「ありがとうございます。外套の着用をお願いします。・・・ちなみに剣も作ったのですか?」
「はい、見ますか?」
頷いたのでドヤ顔で鞘から抜く。
今回は三龍の鱗とアダマンタイト、魔石を粉にしてから土と混ぜ焼き固めた剣だ。切れ味はもちろんだが、靭性もある自信作だ。
「!!・・・ありがとうございます。
では、王城へ案内します」
総隊長の後について王城へと向かう。ここも距離があるな、十分は歩いたよ。
王城内の応接室で待つこととなった。また待ちかと・・・
総隊長は宰相への連絡と父である国王へと使いを送った。古青龍の革と鱗を使った装備、しかも本人が入手したと。龍種の素材など数百年無かったことだ。知っているのは上空を飛んだ古黄龍(エンシェントイエロードラゴンが偶然落とした鱗二枚だけ。それは王城の奥にある謁見の間、王の座る玉座の左右に飾られている。
報告を受け宰相が総隊長室に現れた。
「龍の装備で登城したのか!」
「はい、外套で隠していましたが、古青龍の素材で間違いありません。剣も我々の常識を超えた物でした」
「そうか。まずは国王に報告だ。王の執務室に向かうぞ」
二人は執務室へと向かった。
「で、二人は俺に内緒で異世界人と接触しようと画策していたってわけだ。が、手に負えず報告に来た。それで合っているか?」
「いえ、内緒ではなく執務で忙しい国王に手を煩わせることなく対応したかっただけです」
「は!結局は煩わせているじゃねぇか。こんな面白い事、俺抜きで進めるから神罰だ。で、今は控室に居るのだろ?謁見の間に行って会うとするか。当分の間、執務は出来ないな」
ニヤリと笑う国王、
「はあ、だから合わせずに済ませたかったのですが」
リカルド・ヴィル・ツェルギム、ドワーフ国の国王とジョイナンド宰相が言葉を交わしていた。国王は書類仕事が嫌いで、理由をつけては宰相に仕事を押し付ける。ここ数十日、大人しく仕事をしていたのだが、その反動のように執務室から楽しそうに出て行った。後を追う宰相は小さな溜息をついてから部屋を出たのだった。