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黄龍は引き籠り

 古青龍エンシェントブルードラゴンに追い出されたので低い山脈に向かうことにした。筏の家なので用意も無い。アブソが筏を押して進めている。途中一泊して山脈に到着した。

 湿地周辺の探索もここで最後になるだろう。漆黒山脈にはいかないから。

 ここで魚と蟹、海老を多めに捕まえて保存したい。徳に魚は節にして出汁を取るので大漁に必要だ。濃い出汁に漬けて食べる火竜ファイアドラゴンのシャブシャブも美味しいのだ。だが、節を多量に使う。極寒山脈でも魚を捕まえていたが、今回は罠の数を増やして大量生産する。

 まだ冬なので周囲の植物も見かけない。燻製は二時間の燻し時間以外は陶芸空間でできる。時間を持て余していた。

 陶芸を開始した。空間で形を整えてから釉薬を塗って焼いていた。ミスリオルの粉は銀に。オリハルコンは黒だったので使わない。漆黒樹の炭が黒なのだが、そちらの方が好みの黒だ。

 宝石は色がそそまま着色された。青は綺麗に色付けできたが、赤と緑は粒のままだった。黄色も溶けていた。二色は釉薬として使える宝石があった。

 珪砂が無いので光沢のある陶器が作れないのは残念であるが。砂浜があればいいのだが、海にも行ってみたい。

 だが燻製容器は大型の者を十台用意して十日間で使い廻した。そして、春になるまで延々と燻製を作っていたのだ。

 春になり、山に向かう。湿地に戻らない予定なので、筏の家も収納インベントリした。途中の森で野営するのだが、ガーダが

 『周囲、巣張る。安全』

 と言ってくれた。ガーダの糸は強力になっており、飛竜ワイバーンでも切れないだろう。

 炭用の木を伐採しながら進む。蜥蜴人リザードマンの資料だと山脈の向こう側にドワーフの国がある。どのような国なのか、この世界で初めて接する人に期待をしていた。

 木々の間にハンモックのように巣を張ってもらい、夜を過ごした。食事は明るいうちに済ませていたが、魔物が近寄ってくることは少ない。

 『主、私強い。弱い魔物、来ない』

 ガーダは何度か進化?しているので、強い魔物になっている。猪などは近寄ってこないのだ。場所によって気配を変えることも可能で、熊の生息地では夜以外、気配を消している。熊肉確保のためだ。

 気配に関係なく襲ってくる飛竜ワイバーンの生息遅滞に入っていた。漆黒樹を伐採しながら討伐していく。

 人が生活する場で木々の伐採が可能かも解らないので、多めに伐採していた。

 この山脈は低いので山頂でも雪が積もることが無いようだ。とりあえず一番高い山頂を目指す事にした。

 途中で土竜アースドラゴンが襲ってくるが、問題無く対処していく。最初は一頭ずつ飛来してきたのが、標高が上がったら複数で飛来し攻撃してきた。二頭までは対応できたが、三頭は厳しい。スコップに魔力を籠めて、魔力を斬撃として飛ばして対応した。

 これが嵌って、討伐も楽になったのだが、楽しいのだ。一回の斬撃でも土竜アースドラゴンが固まっていれば、一撃で倒せたのだ。複数を相手にしながら、微笑みを浮かべる姿、他人に見せることはできないが、不気味である。

 山頂に登る頃には相当な土竜アースドラゴンを討伐していた。全て収納インベントリ(インベントリ)へ食料として保存している。

 山頂は岩山だけに何も無い。

 『主、穴、ある』

 ガーダが小さくなって岩の隙間に入っていった。直ぐに戻ってきて、

 『主、大きい、穴、岩どかす』

 そう言ったので、ガーダの入った岩の周辺をスコップで掘ることにした。

 人が通れるくらいの大きさで掘り進めると空間が現れた。これが洞窟らしい。ライトの生活魔法を使うと、奥に続いているが先は見えない。そのまま十メートル程の高さを飛び降り、先に進むことにした。

 縦横ともに三十メートルはある洞窟だ。見える範囲には何も無いが、途中から下に向かって傾斜が着きだした。しばらく進めば大きな空間にでた。差し詰め広場だな。

 光を強くして全体を見廻す。壁際には鱗があった。茶色?黄色?古龍エンシェントドラゴン達と同じ大きさだな。そういえば古赤龍エンシェントレッドドラゴンがこの山脈にも古龍エンシェントドラゴンが居たと言っていたな。きっとそいつの鱗だろう。貰っておく。

 その奥の窪みに金貨が入っている。百枚くらいか?この先、人の街に行くのに必要だろうと収納インベントリする。主が不在なのだ、落とし物は拾った者に権利がある、としておく。

 他には何も無いので戻る事にする。

 外には古赤龍エンシェントレッドドラゴンが待っていた。

 『汝、土竜アースドラゴンを数多葬ったであろう。彼奴等を眷属としておる古黄龍エンシャエントイエロードラゴンが怒っておる』

 「いやいや、この山に登ったら襲われたので倒しただけだよ。向かってこなければ何もしないって。肉は欲しいけど」

 『汝はそう言うであろうな。彼奴等も山を守る事を言われておった。当然の結果であろう。古黄龍エンシェントイエロードラゴンと話をする故。しばし待て』

 そう言うと古赤龍エンシェントレッドドラゴンは目を瞑った。しばらく待つと、

 『古黄龍エンシェントイエロードラゴンには説明した。今後、土竜アースドラゴンには鱗を持っておる者を襲わないよう言っておく。汝も土竜アースドラゴンを討伐せぬ。これで良いな?』

 「襲われなければ何もしないよ」

 『全く、普段は結界で念話を妨げておきながら、こんな時ばかり念話しおって。黄が巣から出てケリを付けられぬとは。

 彼奴は巣から外に出ぬ。五千年は動いておらん。この先、彼奴から何かすることはありえんな』

 「それならいいよね。鱗を持てって洞窟の鱗は貰っていいのかな?」

 『しばし待て』

 そう言うと飛び去ってしまった。

 上空に上がったと思ったら、一気に下降して山の中に消えた古赤龍エンシェントレッドドラゴン。どこに行ったのか解らないが待てと言うなら持とう。

 五分もせずに戻ってきたが、足には何かを掴んでいた。黄色い古龍エンシェントドラゴンの尻尾?

 『これを食せば古黄龍エンシェントイエロードラゴンの気配を纏えるであろう』

 そう言って尻尾を目の前に置いた。

 『汝は我と青の尾を食らうたであろう。龍族には同族の気配を察することができる。汝がこれを食らえば、黄の気配を眷属が察し襲うことは無いであろう』

 「ありがとう?後で食べるけど、大丈夫?恨まれない?」

 『気にするな。寝ているところを切ってきたのでな。

 怒ってはおったが、我が黙らせたわ。我が尾を切りし人族だと言うたなら納得しおったわ』

 尻尾を切られても巣から出てこないのか。引き籠りだな。しかも重度だ。地球なら餓死するレベルの五千年、ミイラだよ。

 「冬の間だけ洞窟使ってもいいかな?」

 『問題無かろう。この巣穴は使っておらぬ』

 ここで冬を越す事にした。下に降りて街に行きたいが、この洞窟を拠点にして陶芸に没頭するには良い空間だった。湿地までも近いので土も補充しておきたい。

 陶芸で何を作るのか?もちろん器や椀である。陶芸空間でも形は作れるが、それは量産品だ。全てが同じ形に出来上がる。轆轤を使い手で作る椀こそ職人の腕の見せ所だ。

 この世界に電気は無いので足で廻す轆轤を作ることから始める。足で回す円盤と土を載せる円盤を軸で繋ぐ、それだけだが綺麗な円を描くには必須な道具だ。足で回す円盤に軸受けを取り付けするのだが、ベアリングなど作れないので穴に玉を入れその上に円盤を載せるだけの簡易な道具を作った。

 それだと足で回す時に軸も動いてしまうので、玉を入れた受け台に穴を開け、軸が入るよう改良した。これで綺麗な円を作れるようになった。

 陶芸で作った品は綺麗だが造形に味が無いのだ。少し歪な形に味がある。そう思っているので、轆轤の出番だった。

 この山には石灰岩と長石が含まれている。それが留まった理由でもある。これで天目茶碗のような椀を昔から作りたいと思っていた。春までの時間、釉薬の配合から時間を掛けて挑戦するのだ。

 作った椀は岩妖精ドワーフの街で売れるかな?とも思っている。この先、路銀を稼ぐ手段にもしたいのだ。

 轆轤を回し、椀を作る。厚みや淵の形を変えながら試していく。

 形が出来れば釉薬だ。配合を変えながら何度も試してみる。焼くのは陶芸空間だ。焼きの温度も一定に管理できるので便利。ここは毎日、何度も試している。

 配合を書き込む紙が欲しいが無い。兎の革を薄く伸ばす。厚みは一ミリ以下だ。大きさを整えて切れば羊皮紙の完成。ペンは炭を粉にして油で溶き、インクとして使う。

 細いパイプを陶芸空間で作り、先端に細い穴を開けインクが出るよう作ってみた。

 穴は太くても細くても具合良く書けない。適度な穴を見つけるのも試行錯誤だった。だが、完成したペンは使いやすく、羊皮紙にもインクは滲まず書けた。これも売れるかもしれないと思い百本作った。

 釉薬も数十種類を試しているが、星空のような模様にはならなかった。だが、色合いとして気に入った物も完成していた。

 気に入った釉薬、三種類を大量に作り、大皿と小皿、スープ皿、湯飲み茶碗をセットにして各十式、計三十式も販売用に作った。

 陶石があれば白い陶器も作れるが現状は見つかっていない。釉薬で黒や茶に染まった陶器で我慢だ。

 羊皮紙も大量に作った。兎の革が余っているからだ。猪と鹿の革は茶色で黒いインクでも使えるが、見にくい。何とか漂白できないかと何度も洗ったりした結果、色が薄くなった。兎ほど白くはないが羊皮紙として使うには十分な色だ。これも大量に作った。

 そんな事をしていると春が訪れた。この地域は冬でも雪が降ることは無かった。暖かい地域なのだろうか、定住するなら雪の無い地域だなと考えている。




 農地の拡大も終わり、限界突破を成し遂げた四人は王都に戻っていた。

 詩音のレベルは八十台だったが、三人は百を超えたのだ。牙熊ファングベアなら個人でも討伐できるレベル。

 「一度王都に戻ったほうがいいな」

 第二王子の提案だった。王都を出立する時の約束だ。もちろん今のレベルでは妖精族エルフと対等とは言えない。倍にならないと対等と言えないのだ。

 「戻るのは構わないが、森妖精エルフと戦うのは遠慮したいな」

 聡輔が嫌そうな顔を隠しもせずに告げる。

 「王都に戻ったからと言って、即戦闘ではないよ。ご機嫌伺いだよ。他の領地でも農地拡大の話もあるようだし」

 農地拡大に動いてくれれば、四人は願っていたのだ。元々の原因は食物が少ないからの召喚なのだ。農地拡大で対応できるだろうと思っている。しかし、国土拡大も各国が持つ野望でもある。覇権を握りたいのは世界が変わっても同じであった。

 王都に到着して早々に国王との謁見だ。

 「限界突破したそうだな。スキルを見せてもらおうか」

 四人がスキルを表示すると驚愕の声が上がる。ブラッドリッテ王国には一人だけであった限界突破者が三人も増えたのだ。国王の顔も喜びに綻んでいる。

 「まだレベルは低いと思っています。火竜ファイアドラゴンが討伐できるよう冒険者を続けながら鍛錬を続けたいと考えています」

 勇樹がブラッドリー魔導士長に話をする。国王と直接の会話ができる立場ではないのだ。

 「うむ、飛竜ワイバーンの討伐が可能になれば大陸内の移動も容易だな」

 魔導士長は頷いているが、国王は難しい顔になった。早くエルフ族の国に向かわせたいのだ。

 「だが、エルフの森にも赴いてもらわねばならん。あそこへは船か陸路となるが、我国の船を用意するぞ」

 ブラッドリー魔導士長が船の手配をしているようだ。

 この世界の船は全長五十メートル全幅十メートル位の大きさだ。風の魔道具により進むことが出来る、舟航には魔導士が二人以上乗り込み、魔道具への魔力供給を行っている。乗組員は最大で百五十名、船内での宿泊を考えれば七十名である。

 「いえ、まだ我々のレベルで赴くのは時期尚早と考えています。山脈周辺で鍛錬を重ね万全の準備で臨みたいです。

 いただいた剣も半数以上が折れ、残りも刃こぼれ等で使用可能な装備が少なくなっております。可能であればドワーフの国で新に買い求めたいと考えています」

 四人のレベルではエルフの戦士と互角に戦うことはできない。彼らにはレベル限界が無く、二百を超える戦士が多数存在しているのだ。

 「その方らの言い分も解るのだが、悠長なことも言っていられない。どの程度の期間を考えているのだ」

 「最低あと二年」

 王国とは最大三年で話が纏まった。

 四人はドワーフの国へ山脈沿いから向かう事になった。王国から新たな装備も支給されたが、上級冒険者が使う装備には及ばない品だが、王国騎士が使う装備よりは上物、何とも中途半端な装備だ。

 ブラッドリッテ王国はドワーフ国より離れており、安全に向かうにはサリムガンタ帝国とミュッツザハルフ皇国を経由しなくてはならない。だが、関係が良好と言えない二国を王国関係者が武器を持って通過するのは困難で、商人に頼んで装備の買い付けを行っている。しかし王国は食料も購入に頼っている状況、ここ十年以上国費は減る一方、上物の装備をおいそれと買えないのだ。

 冒険者の四人は自分達の装備購入であれば正規ルートで行くこともできるが、鍛錬も兼ねて山脈ルートを選んだのだ。


 「とりあえずの期限付とはいえ王国から出られて良かったよね」

 結衣が感嘆の声を上げる。四人は王都を出立したのだ。

 「そうだな、今回は第二王子の同行も無い。自由に動けそうだ」

 勇樹が頷きながら呟く。

 「途中の街で農地の拡大をしますか」

 詩音が呟く。

 「大丈夫、俺が傍に居るからね」

 聡輔が詩音の肩に手を載せ語り掛ける。

 「僕としては農地拡大を行いたいですが、ドワーフ国に行くのを優先で考えています」

 「どうして?」

 「装備の充実は是非行いたいのと、レベルが上がれば魔力も増え、作業時間の短縮にも繋がるのでね」

 「流石、聡輔。その案に賛成」

 四人は辺境伯領に向かった。そこで食料他の物資を補給する為だ。秋の収穫量が例年以上に見込めるのは辺境伯領だけ。一年分の食料を揃えることが出来る領地は他に無いのだ。

 一年分、収納袋アイテムボックスを持つ四人が分担して持つ。詩音の持つ収納袋アイテムボックスは容量が少ないが時間停止機能付きだ。肉などの生鮮食品は詩音だけが担当し、他は小麦粉や水、ポーション等を均等に分けていた。

 辺境伯領の収穫高は前年の倍とはいかないが、七割の増加だった。快く物資の補給を引き受けてくれた。

 冬の間、ここで辺境伯軍と訓練をし、春に改めての出立となったのだった。


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