青龍 復活しました
収穫作業も終わり、麦もどきが入手できたおかげで、揚げ物が食べられるようになった。魚に麦粉をまぶして揚げるだけだが、美味しい。食感もいい。芋は茹でて揚げたり、そのまま食したりしている。唐辛子は乾燥して粉にして使っている。
大豆、もしくは豆があれば醤油と味噌が作れる!と思い探したが、豆の類は見つからなかった。ならば魚醤か?と思ったが匂いが。
そこで鰹節を思い出した。確か茹でて燻製にしてカビを着ける。だったか、カビは無理だが、燻製までは出来る。もしかしたらうどんが食べられるかもと思い、湿地の魚で節を作ることにした。
魚の頭と内臓を取り、尾を切り硬木のチップで燻製にする。陶芸で燻製用の容器は以前作ったので硬木で燻していく。一回二時間、十日間続けてから天日干しをした。
削り節を作る器具は陶芸で作った刃と硬木で作った箱だ。木に刃を固定するのに試行錯誤したが、節が出来上がる前に器具も作れた。
節を削り、湯に入れ出汁を取る。匂いはいい。塩を少々追加しながら味を見る。スープとして飲み干してしまった。
麦は陶芸の臼を作り粉にしていた。人力の臼だが、異世界で身体能力が向上しているので、何時間でも廻していられる。
麦粉を水と混ぜて練っていく。塩を入れるのも忘れない。練って捏ねてを繰り返し生地を作る。途中で休ませてから生地を伸ばしていく。二ミリくらいの厚みになったら折り畳み、適度な太さに切り完成だ。
沸騰したお湯で茹でる。硬すぎず、柔らかすぎず、微妙な固さになるよう茹でる。
温めていた出汁にうどんを入れれば完成だ。具の無い素うどん。
「美味しい」
語録力が無いが一言に尽きる。出汁から生地まで手作りというのを差し引いても美味しかった。同じ日本人が居れば解ってくれるだろう。
そういえば、四人の高校生はどうしているかな?
四人は辺境伯領での農地拡大を続けていた。冬の間に囲いは作れた。その後の伐採と魔物討伐を春先から始めたのだ。
「とりえず伐採するよ」
聡輔が斬撃を飛ばして木を切っていく。
後方から勇樹が風魔法で木が倒れる方向を調整している。
残った切り株は詩音が土魔法で掘り起こし、空いた穴を埋める。
掘り出された切り株を結衣が火魔法で燃やし、灰にする。
「ちょっと休ませて」
詩音が休憩を希望する。
「いいよ、休憩しよう」
勇樹が答える。聡輔は心配そうに詩音に寄りそう。詩音は切り株の掘り起こしと穴埋めで結構な魔力を使うのだ。三人は適正が無く手伝えない。詩音に負担がかかっていた。
休憩中も勇樹と結衣が枝打ちをして伐採した木々を木材として使えるよう整えている。
「休もうよ」
詩音は半泣きだった。
「僕は仕事も少ないので、邪魔にならない今が仕事時だよ」
倒れている木々の廻りは切り株を掘り起こし、火魔法で燃やしている状態で枝打ちはできないのだ。
「そうそう、火魔法で着火だけだから大丈夫だよ」
結衣も笑って詩音に語り掛ける。
「ごめんね。作業が遅くて」
「囲い込みの時も今回も詩音が一番魔力を使う作業なのだ。疲れたら遠慮せずに言ってくれよ」
聡輔が詩音を諭すように語り掛ける。
「うん・・・」
小さく頷く詩音。四人は仲良く作業を進めていた。微笑ましい光景だ。
「召喚者の力は我々の常識の範疇を越えていますね」
シャルホードが後ろから二人に声を掛ける。
「魔物討伐では聡輔殿、結衣殿が前衛で敵と対峙していますね。魔物との闘いで一息付いた時、詩音殿は飲み物の用意や食事を用意して働いていましたよね。それを三人は止めましたか?パーティーには役割があります。それぞれが出来る事を行う、お互いが助け合う良いパーティーではないですか」
「流石、第二王子。たまにはいい事言うな」
勇樹が声を掛ける。
「たまにでは無い。いつもだ」
短い時間だが、打ち解けているようだ。
「そうだね、良い仲間だよ。休めたから始めようよ」
詩音が切り株の掘り起こしを始めた。三人もそれぞれの作業を開始する。
秋の収穫に向けて種まきを開始できるよう作業を進めているのだが、開墾しても耕せてはいなかった。魔物の半数以上を倒したが、残っている状態での農作業は危険なのだ。
だが、辺境伯の計らいで、数日後から区画整理が始まった。文官が土地の大きさを計り、居住地と農地の区割りをする。そこを公募で集めた住民が農民となり、農地を耕すのだ。
公募で集まったのは百の家族だった。三十を過ぎた所帯持ちの冒険者や農家の三男、四男や商家の人間もいる。稼業を継げない者が家族揃って移住を希望していたのだ。
冒険者も辺境伯の依頼で周辺の警護にあたっている。辺境伯が自費で依頼を出したのだ。実入りの良い依頼ではないが、ギルドも後押しをしていた。依頼を受けた者に食堂での割引を提案したのだ。
金額は少ないがギルドのおまけ付、依頼の無い冒険者は集まりすぎる程だった。
夏が始まる前には開墾が終り、種まきを開始した農地が面積の半分を超えていた。
「農地も完成したし、次は森で魔物討伐だな。そろそろレベルを上げないと監視役の第二王子に刺されそうだ」
聡輔がシャルホードを見ながら言うが、シャルホードは
「辺境伯領の噂を聞いて他の領からも王家に依頼が来ている状態だよ。僕としては農地拡大に賛成なのだが、父上からはレベル上げを催促されていてね。悩ましいよ」
倍にも膨れ上がった農地の噂は他領にも届いており、王家に依頼が殺到していた。それほどまでに食料事情と懐事情が厳しいのだ。だが、国王は魔族の討伐を再優先にしており、農地拡大は見送られていた。
「鶏が先か、卵が先か。農地拡大とエルフの技術、確かに難しいな」
勇樹も頷く。どちらも食料事情を解決する油断なのだが、後者は他国で実績があり、前者は始めたばかり。拡大した農地で収穫量がどれほどなのか、検証には時間が掛かるのだった。
「まずは限界突破を目指そうよ」
結衣が声を弾ませている。農地拡大より戦闘が合っているようだ。
「怪我は私が治しますから」
拳を握りしめて詩音も同調する。
「まずは牙熊の討伐だな。ここで苦戦するようでは火竜までたどり着けにからな」
聡輔も拳を握りしめていた。魔族と戦闘する、別と考え強くなって三人を守りたいのだ。特に詩音だが。
「辺境伯領を拠点に遠征を繰り返す。予定通り明後日から森に入ろう。第二王子は同行しますか?」
勇樹がシャルホードに確認する。
「今回は同行させてもらう。まだ浅い森だろうしな。危ないと思ったらランドリートと二人で戻るから安心してくれ」
ランドリートと頷きあう。すでに意思の疎通は終わっていたのだろう。
四人のレベル上げが再度始まった。
秋になる頃には牙熊の討伐は完了していた。まだ危ない時もあるが、四人で討伐できるレベルには達した。聡輔八十七。勇樹八十一、詩音七十一、結衣八十三だ。詩音は後衛で回復役なので上がりが遅いようだ。
「詩音が限界突破したら蘇生とかできるのかな?もしかして、私達って死ななくなる?」
結衣が能天気な事を言った。
「まさか。死者の復活とかアンデッドじゃないのだから無理だろ」
勇樹が冷静に返す。
「アンデッドは嫌いです」
好き嫌いの問題な詩音。
「アンデッドなら任せて。光魔法で浄化するから」
「私も一緒に浄化します」
相変わらずの聡輔と詩音だ。
「ゴホン。して牙熊の討伐は可能になったのだな」
この日は辺境伯、第二王子と晩餐会だ。四人の進捗状況の確認が主目的だが。
「はい。先ほど報告通り討伐が可能になりましたが、限界突破には至っておりません」
勇樹が代表して回答する。
「うむ、四人での討伐であろう、レベルもパーティーで分割されるか。攻撃に参加する人数を減らしながら討伐するのが良かろう」
「今は四人で攻撃しています。次回からは三人、もしくは二人で戦ってみます」
パーティーでの討伐はレベルの上りが悪いようだ。この先は少数で対応する事になったが、詩音は涙目だ。聡輔が二人で倒そうと慰めている。
「二人は婚約してはどうだろうか。シャワルヘルニ・ヌーグナイルが辺境伯の名を持って貢献人となろう」
二人は真っ赤な顔で俯いた。詩音は小さく頷いていたが。勇樹がそれに気づく。
「詩音は首肯したぞ。聡輔は?」
聡輔も頷く。二人の婚約が決まった。今年十八になる二人、この世界では結婚適齢期だ。貴族などは生まれた時に婚約者の決まる世界なのだから、遅いのかもしれない。
「あーあ、私にも王子様が現れないかな」
「そこにリアル第二王子様が入らっしゃるが?」
「いやいや、本物の王子様はダメでしょ。面倒ごとは避けないと」
「面倒ごととは、酷い言われようだな。だが外れてはおらんな。王侯貴族、策ばかりだ。このまま辺境伯領で一生を過ごしたいよ」
「殿下、早めに王都へと戻る事を進言しますぞ。物騒なやりとりは魔物だけで十分でございます」
秋には麦が一面に実る畑が広がっていた。
冬が訪れて道作りも三分の二を超えていた。漆黒樹が生茂る地域へと進んでいたのだ。
飛竜が襲ってくるようになり、肉の確保も順調だ。最近は兎や猪は革と魔石以外は燃やしている。ガーダもアブソも食べないのだ。一度上がった食生活は落とせない、地球以外で実感するとは思わなかった。熊だけは肉も残している。竜系の肉と食感が違うので時折食べる食感が気にいっていた。
岩山に辿り着き、家の設置を行う。土を盛ってから陶芸空間に入れ焼き固める。岩山の形の沿った土台の完成だ。ここを拠点に鉱物の採取を行おう。
左に向かえば暗黒山脈、いわくつきの山脈だ。右は崩れた山脈、こちらはドワーフ族の坑道要塞が地下にある。鉱物の採取は控えたほうが良いだろう。
採取しつつ左に進む水竜が威嚇してくるので、投擲で攻撃される前に討伐する。大きくなったガーダが水竜を取りに行く。糸を絡めて引き摺ってくる。
最近は投擲の熟練度が上がったのか、一撃で首に当て落とすことができる。頭は爆散して無いがそのまま血抜きできる。
五日間は左に進み、その後右に進んだ。どちらも成分は同じで鉄や銅は抽出しない。収納にも在庫が豊富なのだ。金属以外の岩塩も少量だが採取した。他にダイヤモンドなどの宝石類もあったが、使い道は無いので採取しなかった。陶芸品に宝石は似合わない、そう思った。だが、砕いて釉薬に使えないか?と考え、赤と青、緑、黄の宝石を採取した。釉薬としては贅沢だが、良い製品が作れればいいのだ。
水竜も六十頭ほど討伐していた。火竜もだが、体は大きいが鱗と革、内臓等を取り除くと肉は少ない。背から腹廻りは脂ものって美味しい。ロースやカルビだ。尻尾は筋肉の塊って感じだが、すね肉とも違いロースより美味しいのだ。手足の部分は筋肉で焼肉には適さないので羽と合わせて廃棄(従魔の餌)となっている。具材が揃えば首の肉はひき肉にしてハンバーグも美味しいかも。
そろそろ極寒山脈を離れようかと考えていると上空から大きな魔物が向かってくる。こちらに向かい大きな咆哮をあげたので、魔力を最大まで込めた銛を投げつける。
水竜の討伐途中から使い始めた銛で、ガーダの糸を付けて投げ、そのまま絡めて引きよせる。引き取りが不要になった便利グッズだ。
銛を投げつけろ。魔物は気づき上空へと躱すが尻尾に当り切れた。ガーダが糸を操り尻尾を引き寄せる。こいつも龍のようだ。
上空を見上げた時には尻尾は生えている。再生能力が格別だ。
しばらく睨み合う。その間も盾と銛を取り出し、魔力を籠めている。
『スグンターナ神の加護を持つ異人。貴様は何者だ』
俺の鑑定をしたようだ。
「訳あって異世界から転移してきた。その縁で神の加護を貰っただけだ」
アーステラのことから話をした。
でかい魔物は古青龍、古赤龍の仲間だそうだ。奴は教えてくれなかったが神龍と呼ばれる種族で火、水、土、風、闇を司る五体が存在する。光の神龍は過去の禍で消滅、今は生と光をスグンターナ神が司っている。火は赤、水は青、土は黄、風は銀と色が能力を表していた。こいつは水だ。
『話は分かった。敵対はしない。だが、ここから立ち去れ。さすれば儂も去ろう』
「了解だ。ここから離れるよ」
『この先も儂の眷属を葬るのであれば神の加護を持とうとも滅ぼしてくれる。忘れるな』
そう言い残して古青龍は飛び去った。去り際に
『この鱗を見せれば水竜は去るであろう』
と鱗を数十枚残していた。面倒な奴だ。
「尻尾だけど美味そうな食材だぞ、喜べガーダ、アブソ」
古龍の肉、数十日いや百日近く食べていない。その晩は尻尾の焼肉を腹一杯になるまで堪能した。
『赤いの、聞いているのか?』
『青いの、聞いておる。かの人間は二柱の神から加護を受けている。我と合った後ではあるが』
『そうか、異人とは頷ける。儂の尾を切り落としおった』
『我も尾を切られたわ』
『儂が寝ている間に弱くなったのか、人間が強くなったかと思ったぞ。だが、赤いのまで尾を切られるとは』
『言うな。青いのも切られたであろう』
二体の龍が楽しそうに情報交換をしていた。
『また眠るのか?青いの』
『いや、あの人間や召喚者も気になる。しばらくは山に居る』
数千年の眠りから龍が目覚めることになった。