冬の到来と装備の充実
冬が来た。湿地の水も冷たくなり、陸地に向かうことも減っていた。服装も薄手で寒いのだ。
今まで貯めたタンニンと油で革を大量生産していた。冬の間に服装を整える計画だ。
シャツ、カーゴパンツ、ベスト、ブルゾン、ブーツを揃えるのだ。
兎の革は柔らかく、肌触りも良いのでシャツに使うことにした。針は陶芸で作った。流石に一ミリ以下の針は作れなかった。二ミリには満たない針で我慢した。糸はガーダに頼み強度の高い物を吐いてもらう。
着ているシャツを型にして兎の革を切り出す。ナイフで切るのだが、兎、鹿、猪、熊の順で硬くなる。
寒くなり、毎日の道作りを止めようかと思ったころ、熊と遭遇した。ガーダが教えてくれるので、距離はあったが、一目でデカいと分った。立ち上がれば三メートルは超えるだろう。俺は普段以上の魔力を籠めて投擲した。他と同じで頭が弾け飛んだ。うむ、熊は弱いと覚えていた
猪は鹿より硬いのは厚みがあるからだ。熊は硬くて、なめしても柔らかくならない。鎧として使えそうな硬さを持っていた。
猪は硬いがなめしを行えば少し柔らかくなる。ブルゾンの前身頃と後ろ見頃は猪が向いていそうだ。
まずはシャツを縫い合わせるが折り返しや合わせ部が巧く縫えない。何回もやり直すと穴が沢山開いて使えない状態だった。三日間かけて使えそうなシャツを完成させた。一着では不安なので二着を追加しておく。これは一日一着で作ることができた。
一番苦労したのは襟形状で、ここはスタンドカラーが簡単だったので、採用してしまった。ネクタイ締めることは無いだろうな。
カーゴパンツは鹿の革だ。兎より厚くしてある。上は重ね着が可能だが下は無理だから。そして鹿の革は若干だが伸びるのだ。これは足への負担が減るとの目論見もあった。
ジーンズを型にして鹿の革を切る。ナイフに魔力を籠めないと切れない。兎は切れたので、傷には強そうだ。型取りをし、縫い合わせ面を折り返そうとしたが、二ミリの革を折り返すのは無謀な行為だった。コバを磨くか?と思ったが、まずは縫い合わせを優先で作っていく。
鹿の革は茶色なのでガーダの白い糸が映えるな、などと思いながら縫い合わせるが、縫い目の間隔が不揃いで曲がっていて汚い。もう一度やり直そうとするが、一度開けた穴が近いので綺麗に縫えなかった。そこで針を二十本ほど並べ繋げた。これを革に押し付け針を通す場所にすれば真直ぐに進み、間隔も一定になる。間隔は五ミリ、糸を太めにすれば強度も確保できるだろう。型取りの変更などもあったが二日で一本を縫い上げる。
これは予備を二本追加。ポケット六ケ所は外からの縫い付けになった。膝上のポケットは兎の革を使い、白いポケットに。ちょっとしたアクセントのつもりが失敗だな。
チャックを作ることはできないので、ボタンにした。チャックより時間が掛かるので気をつける必要がある。しかし挟む心配はないのだ。
下着は兎革で作った。タンニンに長く漬けて柔らかくし、シャツより薄くした革を使った。綿の下着に比べ遜色なくとはいかないが、実用に耐える仕上がりだ。白い下着、お漏らし注意である。ゴムはガーダが伸縮性のある糸を出せたので代用した。革に縫い合わせてみると想像以上にゴムになった。カーゴパンツの裾にも同じように縫い付けた。
「上出来だな」
一人呟き、森まで行き、体を動かし、着心地を確認する。鹿革の伸縮性のおかげか、今までのジーンズより動きが滑らかだった。
シャツも問題ない。森で魔物を狩ろうと考えたが、寒いので早々に戻るのだった。
次はベストを作ろうとしていた。鹿革は防風効果もあるようで下半身は暖かかった。ベストを鹿革で作り、寒さ対策をするのだ。
シャツより少し大きめに革を切り、縫い合わせる。一日で縫い上げた。今までの経験が生かされているようだ。
通常のベストとは違い、V字を小さくして首筋まで近づけていた。開いた部分が多いと寒いのだ。ベストも都合三着用意した。
予備を作っていたが、洗濯はしない。クリーンで対応するので、あくまで破損した時の予備なのだ。
そして、難題だと思われるブーツを作ることにした。靴底は熊革で地球の安全靴のように足先に丸めた熊革を取り付けしたい。
この世界、何があるか解らないので安全には最大限の考慮をしていく。
熊革を足に合わせて切出す。一枚でも良かったのだが、強度を考え二枚を重ねたい。ガーダに粘着性のある糸を出してもらい、貼り合わせようとした。
『粘着液、出せる』
有難い事に粘着液だけ吐き出せるようなので、使わせてもらう。貼り合わせた靴底は厚みも強度も十分な感じだ。
足先のカバーは陶芸で型を作り、熊革に油を染み込ませ馴染ませていく。硬いので力を使う作業だが、根気よく馴染ませる。指も痛くなってきたので、スコップの柄がハンマーだったことを思いだし、使ったが陶器が砕けてしまった。力加減が難しい。地道に馴染ませていった。
靴底とは粘着剤で貼り合わせる。ガーダの粘着剤は協力で瞬間接着剤〇ロンアルファのようだ。靴底を囲うように貼り付けるとスリッパにも見えてきた。後でスリッパも作ることが決定した。
足の形に合わせながら鹿革を使い、ブーツの形にしていく。靴底と接着して形を整える。
脛の保護にも熊革を使いたいので、内側に紐ではなくベルトを取り付けする。
ベルトの金具は陶芸で作ったので陶具と呼ぶ。鹿の革と陶具を片側四個取り付け、ブーツを固定する。脛あての湾曲を作るのに足先並みに苦労したが、完成したブーツを見ると顔が綻んでしまう。これは予備を一足追加した。頑丈にできたので破損の心配は無かったが熊に咥えられれば壊れるだろう。予備は必要だ。尤も熊に咥えられた時には死んでいるだろうが。
最後の大物、ブルゾンだ。これは熊革を使いたいが、硬く動きが阻害されそうだ。
いろいろと考えた結果、ベストに袖を追加した上着に落ち着いた。
ベストを熊革で作り、鹿革の袖を追加するのだ。襟元が寒そうなので長めのスタンドカラーを追加することにする。だが、熊革は硬く、洋服にはならなかった。三日間かけて試行錯誤したが、どう見ても鎧なのだ。
結局、鹿革でブルゾンを作り、熊革の鎧が出来上がった。ブルゾンは前身頃と後ろ見頃を二枚重ねとし、防御を重視した。ボタン部分は二重にせず、ボタンを留める機能を優先にしたが、内側に風がはいらないようボタンを着ける革を長くしておいた。
「これ、夏は暑そうだな。やはり布も入手しないとダメか」
とりあえず全てを着て森で動いてみることにした。心配していたブーツの靴底、筏が濡れると滑るかと心配していたが、問題が無かった。熊革は滑りにくいらしい。
森で走ったり飛んだり、運動し汗を掻いたが不快にならなかった。思いのほか透湿効果があるようだ。革のブーツで水虫になったらと心配していたが、蒸れることなく快適だ。
三十日ほど部屋の中で裁縫の日々だったが、作り終えれば何もやることがない。部屋に籠ってから寒さは厳しくなっているので、春は遠いだろう。
『水が氷る。魔物来る。柱立てて』
ガーダから念話が届く。そろそろ水が氷る時期になったらしい。
「柱を立てる?何するの?」
『巣を張る』
なるほどと頷く。水中に柱を立て蜘蛛の巣で魔物を捕らえるのか。名案だ。
早々に筏で集落の廻りに柱となる硬木を挿していく。水上に十五メートルほど柱を出すとガーダが柱の間に巣を作っていく。
三日間で集落を囲うことが出来た。魔物からの襲撃もこれで安心だ。
俺は追加で風鈴を用意した。巣に魔物が触れると音がなるようにしたいのだ。陶芸の風鈴なのだが、薄く硬く作ることで乾いた音色を奏でる自身策が出来上がった。魔物を察知できない俺には必需品だろう。
ガーダと一緒に巣に取り付け、揺らしてみると『カーン』と音がする。
「あれっ?」
家で鳴らした音との違いに驚く。手元の風鈴を鳴らすと『チーン』と違った音がする。どうやら手持ちだと上部を固定だが、巣では全体が揺れてしまうので音質が変わったようだ。
「まあ、分かるからいいか」
この時、風鈴は妥協した。だが時間を持て余していたので、家で数日の間は音色の良い風鈴を求めて試行錯誤したのだった。
風鈴と言っても短冊は無い。風で鳴ったら意味が無いからだ。舌の太さと長さに拘り、外見も厚みと形を試し、最終形態が決定したのだ。
「チリーン」
綺麗な音色が響く風鈴の完成だ。全部で二百個を作り交換と設置を行った。
風鈴作りもひと段落し、部屋で暇を持て余す日々だったが、寒いが雪が無いなら道作りを進めることにした。
六十キロも先まで進んでいるので、走っても二時間はかかる。時速三十キロは異様な速さだが、異世界に来てから身体能力が向上しているので息切れせずに走れる。
だが、道は凸凹で走るには適さない。平なら更に速く走れるだろう。
そう考えた俺は道に土を敷いていた。平な道を作るのだ。敷いただけの土は柔らかい。固まるには数日は必要だろう。ここで陶芸の出番だ。敷いた土を陶芸空間に入れ焼き固めたのだ。地面に沿った形で焼き固めるのだ。
三十メートルの長さで陶器の道が完成していた。何回か繰り返したところで、土を敷いた空間を陶芸空間として認識できないか試してみた。出来た!土を収納から出して盛っていく。先端まで一気に盛った。それを全て陶芸空間として成形、焼き固めたのだ。途中で魔物が出たりして二日間の徹夜で道が完成した。一気に作った道は土を圧縮しているので、強度も十分だ。最初に作った部分もやり直しを行った。
「完成したな」
道の先端から水際まで全力で走った。一時間掛からない。踏み込みにも耐えている。上出来だ。
道作りを進めると、漆黒樹という太さが一メートル超え、高さが五十メートルはある木が現れてくる。スコップでも魔力を使わないと一撃で伐採できない木だ。
漆黒樹が生える場所では上空に魔物が飛んでいた。こちらを見つけると向かってきたので魔力の玉を投擲した。顔に当たって爆散し、落下していく。一応戦利品として回収すべく森の中へと向かう。
十五メートルほどの竜だった。解析すると飛竜と出た。首から先が無いのでガーダにお願いして木に吊るしてもらい、血抜きをしてから収納した。
『血、匂い、そのまま、魔物来る』
血を放置すると魔物が来ると教えてくれたので、土をかぶせて匂いを消す。
道はどこだ?と見廻すとガーダが先行して進んでくれた。
元々が道作りは木綿の探索が目的で迷子にならないよう道を作っていたのだ。糸も見つかった今、道が必要かと考えてしまった。
中途半端はよくないと山脈まで作り続けることとしたのだ。あと三十キロくらいだと思う・・・
飛竜が現れる森の奥に他の魔物は居ない。上空の警戒が必要になったが、ガーダが木の上に上り、警戒している。飛竜を見つけると風鈴を鳴らしてくれるのだ。俺の努力を解ってくれる相棒だ。
途中、雪が降って中断もした。その寒さでも革で作った服は快適だった。寒さを感じることなく外での作業ができるのだ。魔物は素晴らしいなと思った。
雪が積もり外に出られないので、飛竜の革をなめしていた。倒した飛竜は二十三頭、鱗があり剥がすのに苦労したが、革は伸縮性があるにも関わらず、刃物にも強かった。ナイフで切ることができず、スコップの出番であった。スコップは魔力を必要としないので、漆黒樹より柔らかいのだろう。
飛竜の革でカーゴパンツとブルゾンを新に作った。厚みは鹿と同じにしたが、カーゴパンツの履き心地は向上していた。ブルゾンも二重にしているが重さを感じず着心地が向上した。飛ぶ魔物なので革も軽いのだろう。
そして鱗は靴底にだけ使った。そのままでは足先の形に鱗を整えることができず、。脛当てにも使えなかったのだ。
冬に備え、硬木を使い陶芸空間で炭を作っていた。土の容器に炭に適した形に切り、陶芸空間を真空状態で八百度にして硬木を熱したのだ。上質な炭が完成していた。火鉢で使う炭としては十分すぎるが。
炭で温めれば鱗も柔らかくなるか?と考え火鉢で炙ったが変化無。それならと脛の形をした陶器に鱗を乗せ陶芸空間で二千度まで熱してみた。見事に陶器に張り付く形で曲がっている。足先も同じ要領で作った。
飛竜の革と鱗で作ったブーツが完成した。
飛竜のカーゴパンツにブルゾン、ブーツと軽い装備に満足し道作りも捗っていた。
ここで山々を見上げ、雪が無いことに気づいた。雪が積もった日もあったのに標高の高い山に雪が無い。これが異常だと今まで思わなかった。
森の木が無くなり、岩山の裾にたどり着くと暖かいのだ。
岩山に手を当て解析を試みる。石と鉱物が混ざっているようだ。鉄、銅、鋼、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトが含有されている。抽出で抜き出そうと試みたが、鉄、銅、鋼は可能だが、ミスリル等は遠くにあるようで抽出できなかった。
だが、地球のラノベで知るカタカナの鉱物は希少なはず。何としても集めたかった。
岩山を進み抽出を繰り返すが、まだ遠い。岩山を進んでいるとガーダが風鈴を鳴らす。上空を見上げると赤黒い魔物がこちらに向かってきていた。
慌てて収納から魔力を込めた玉を取り出し投げつける。当たって爆発するが落ちずに浮かんでいた。怯んだようだが、雄叫びを上げ口から光線を吐き出した。
後方に飛び退き躱すが、斜面を転がり落ちてしまった。転がりながらも収納から陶器の玉を取り出し、精一杯の魔力を籠める。
体制を立て直し、空を見上げれば魔物が再度、光線を吐こうと口を開ける。口の中目掛け魔力の玉を投げる。光線より先に口の中に玉が入って爆発する。
数舜の沈黙の後、赤黒い魔物が落下した。俺は勝ったらしい。だが体のあちこちが痛かった。手足の関節を動かし確認するが、骨折はないようだ。転がり落ちた時の打ち身で済んだらしい。
ガーダと魔物の落下地点に行くと、赤黒い二十メートルを超える竜だった。解析では火竜と出た。光線だと思ったのはブレス、高温のようだ。
とりあえず収納して家に戻り休むことにした。
異世界を甘く見過ぎていたな。今日の火竜との闘いで思い知った。一歩間違えば死んでいただろう。
俺は火竜を収納から出した。鱗を剥ぎ、革を剥ぎ、装備を作り直すのだ。
血抜きと内臓の処理を先に済ませ、肉を確保してから革のなめしに掛かる。飛竜より上質だ。魔物としての格が上なのだろう。
鱗と革を使い、ブーツとカーゴパンツ、ブルゾンを新調した。火竜の革は衝撃も吸収できるようで、自ら叩いても衝撃が少ない。転がっても打ち身が減りそうだ。
火竜の肉は美味だった。他の肉が食べられなくなりそうで怖い味なのだ。特別な時だけにしようと思った。
火竜を解体し、不要な部位をスライムに吸収させたのだが、翌朝見たスライムは真青な色になっていた。試しに鱗と革、肉を与えるとフルフルと揺れながら吸収していた。少し輝きが増したようにも見えた。
『主、火竜の鱗、革、魔石、食べる』
ガーダが初めて食事の催促をしてきた。今までは俺と一緒に肉食だったのが、鱗と革、魔石を食べたいようだ。残っていても使い道が無いので与えた。
ガーダは真黒になり、一回り大きくなっていた。でかくなり過ぎだ。胴体の大きさは牛の一歩手間まであるぞ。
飛竜の魔石と火竜の鱗を粉にして、土を混ぜ合わせ盾を作った。陶芸空間で六千度の温度で焼き固める。円形の一メートルもある盾を作った。内側に火竜の革で取手を作る。ガーダの接着剤が高温に耐えるかテストをした。
陶芸空間に盾を置き、一万度の熱風を当てるのだ。縦と革が持てば火竜は怖い存在で無くなる。
結果、一万度に耐える盾が完成した。盾の遮熱効果は抜群で革に問題はでなかった。
鉱物確保の為に再度、岩山に向かった。火竜との初遭遇から六日間が過ぎていた。
解析で鉱物を探しながら標高を上げる。
初めてミスリルが抽出できた。僅か一キロほどだが、陶器の釉薬に使えるだろうか。色は?等と考えていると風鈴が鳴った。
火竜が上空に表れたのだ。すでにこちらを認識している。収納から盾を取り出し、左手に嵌める。右手は魔力を最大に込めた陶器の玉を握りしめ、火竜が射程距離に入るのを待つ。
火竜がブレスを吐くが、避けずに盾で真っ向から受け止める。衝撃で飛ばされそうになるが、踏ん張る。数秒なのだろうが長い時間に感じたブレスが止む。火竜は口を開けたままなので玉を投擲した。
「バスン」
火竜の口の中で玉が破裂した。
口から煙を吐きながら落下したのを見届けて回収に向かう。
盾は無傷だ。持ち手も熱くならない。防御は盾を使うよう訓練も必要だろうか。火竜を回収して盾の使い方を考えていた。
その日は二頭の火竜を入手できた。肉が嬉しい。
誤字報告、ありがとうございます。
読まれていると判るので嬉しくもあります。