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今後の予定

 伯爵領を出た翌日の昼にドワーフ国へと到着した。近い門は北側であったので、そこからの入国となった。

 「身分証明書を拝見します」

 いつものやりとりを行い、ドワーフ国に入国し、店のある地区へと急いでいた。

 暗くなる前に店に着き、中へと足を踏み入れる。薄っすらと溜まった埃と締め切った部屋独特の匂いが立ち込めていた。

 二階に上がり、カレーナの部屋の扉を開ける。ベッドにテーブルと椅子、小さなクローゼットがある、素っ気ない部屋だった。

 「ごめんな」

 そう呟き、部屋を出た。

 一階に降り、宰相さんへ連絡するべく通信機を手に取った。

 「タツヤです。本日、ドワーフ国に戻りました。明日の朝、王城に伺ってもよろしいでしょうか」

 「タツヤ殿、無事でしたか。皇国に乗り込んだと報告があったので、心配していました。攫われた方々は皆無事でしたか」

 「心配を掛けました。皆無事に救出できました。今は村に向かい移動していると思います」

 「そうですか、無事救出できて良かったです。明日、王城でお待ちしておりますので、詳しくは明日、お聞かせください」

 その晩、俺は彼女のことを考えていた。本当に短い時間であったが、楽しく過ごせていたのか考えていたのだった。

 だが、兎人族の村人達は家族や隣人が亡くなったのに、立ち直りが早いように俺は感じていた。ここは異世界、生活環境も違い人の死が近い。人だけでなく、魔物にも襲われる世界、死が近い分立ち直りも早いのだと納得するしかないだろう。俺は地球人として慣れたくない、そう思っていた。

 俺はテーブルの上に女神像を置き、久しぶりに祈りを捧げたのだった。

 目を開ければ、いつもの白い空間だった。

 「今回も随分とご無沙汰でしたね」

 そう言って微笑むのは女神、スグンターナ様だ。俺は周囲を見渡し、

 「お久しぶりです。アーステラ様はいらっしゃらないのでしょうか」

 「今日は居ないんや。何か用でもあったんか?」

 「いえ、問題無いです。今日はスグンターナ様に聞きたいことがあります」

 俺は獣人達の生い立ちを訪ねたかった。何故、あのような状況になっても諦めずにいられるのかを。

 「それについては長くなるわな。まずは聞いていてや」

 この世界が作られた時、人型の生き物と龍種、精霊が形作られた。皆が魔力を糧とし生きられる生物として。

 龍種は賢く、人型は考えることを苦手とし、精霊は気ままな存在として成り立っていた。

 その内、人型は魔力を求めて地下へと向かいはじめた。魔力は地脈を流れており、それを目指してしまったのだ。深く掘り進むうちに、魔力に耐えられなくなり人型は消滅してしまう。しかし、地上では消滅した人型が魔力により再生されていた。それを繰り返すことだけが行われるようになった。ちなみに、この地下空洞が今のダンジョンとなっているのだった。

 同じことを繰り返し、進歩の無い人型を見て、創造神は再生ができないよう封印した。

 龍たちは人型と違い、賢かったため、人型とは別の行動をとった。地上で動かないことを選択していたのだ。龍たちは己の魔力で眷属である竜を形作り従えていた。そして、地上の精霊たちを見守っていたのだった。

 精霊は気紛れな生き物だった。好きな時に遊び、好きな時に寝る、そんな存在だったが、ある精霊が一本の木を成長させ、立派な大木を作り上げていた。そこに集まる動物たちと遊ぶ精霊を見て、他の精霊も木々や草花を育てていった。それが今の森となっている。

 だが、このままでは世界の進歩が終わってしまうと嘆いた創造神が新たな人型として、土と共に生きるドワーフ族、森と共に生きるエルフ族を創造した。

 それらの種族に従う者として獣人族も創造された。彼等獣人族はドワーフやエルフとは違った進化ができるよう、実直な生き物として生まれたのだ。

 しかし、創造神は人族も生み出していた。最初の人型より賢く、感情を豊かにしてしまった。

 その人族は感情豊かなため、喜びや楽しみだけでなく、憎しみや妬み、恨みの感情が生まれていくのだった。

 「これが人族の生まれた経緯や。タツヤの世界の人族と同じ感情を持っていると思ってええわな。全ての感情を持つ者が人族。そして、実直な感情を持つのが獣人族。ドワーフとエルフは好きな事にしか興味を示さない種族って解釈しといてな、でも最近は少し進化して、国とか街とか成すようになってきたわ」

 俺は何と答えていいのか解らなかった。でも、獣人達がこれ以上苦しめられるのは、創造神の設定が間違っているように思えた。

 「俺は獣人達が進歩できるよう、手助けできるでしょうか」

 「難しいやろね。それこそ何百年と時間が過ぎないと結果が出ないことやからな。でも、獣人達の生活を助けてにはなっているやろ?襲われた獣人を助けたしな。そのまま獣人たちに接していけば、この先に見えてくる何かがあるかもしれんわな」

 「そうですよね、すぐに変わらないですよね。でも、奴隷として生まることが強制でも義務でもないのなら、俺は彼等を手助けしたいです」

 「そう、具体的にはどうするつもりや?」

 「許可されればですが、村で一緒に生活していきます」

 「獣人の手助け、そういう上から目線は止めとき。まずは対等な立場にならないと駄目やな。でも、その心意気に私から一つ、贈り物をするわ」

 俺の足元に一枚の紙?が表れた。奇妙な紋様が描かれている。

 「それは不壊を付与する魔法陣。壊したくない品を上に置くか、品に当てて魔力を流せば不懐になるはずや。壊された門や壁に使えば役に立つと思うで。タツヤにしか使えないようになってるで。武器には付与できないようにしてあるで。これを使って軍隊を整えられたら、均衡が揺らいでしまうさかい、許してや」

 女神様がそう言うと、俺は真白な光に包まれていた。


 俺が目を開けると朝になっていた。テーブルに突っ伏したまま眠っていたようだ。

 椅子から立ち上がり、伸びをする。座ったまま寝てしまったので、体からピキピキと音がするような感覚だ。

 テーブルには一枚の紙が広げてあり、女神様との会話が夢ではないことを物語っていた。

 「これで外壁が完璧になるな」

 一人呟き、王城へと向かった。


 王城で通された部屋には宰相さんとギルベルト総隊長、シルバーナ王女が待っていた。

 「おはようございます、タツヤ殿。皇国での事、詳細をお願いできますか」

 宰相さんが早々に話を切り出してきた。

 俺は皇国での詳細を説明する。何とか死人がでないよう対処できたことを強調した。殺人への禁忌感は拭えないのだ。

 「賠償請求などはいかがするおつもりですか?」

 「そこは兎人族の村に戻ってから、村人達に決めてもらいます」

 「タツヤ殿が支払った金額については?」

 「あのお金は元々カレーナの物でした。それも村人達に任せますよ」

 「欲は無いのですか?」

 ギルベルト王子が聞いてくるが、

 「俺には素材が大量に残っていますからね。先日の鱗なら十倍は在庫がありますよ?買い取りしてくれますか?」

 「買う!買うぞ!私が買うぞ!私に売ってくれ!」

 今まで黙っていたシルバーナ王女が口を開いた。素材の話が目的だったのだろうか?

 「いいですが、鱗一枚が白金貨一枚です」

 そう言って一枚だけ鱗を収納から取り出した。

 「むむっ!白金貨一枚・・・残念だが諦めよう・・・そうだ!半分でも、半分の半分だけ売ってくれないか!」

 「王城に九枚渡しています。そこから分けてもらうのがいいと思いますよ。俺に金貨が集まるのは良くない事だと思いますが」

 宰相さんを見ると小さく頷いているが、苦い顔をしていた。もしかして、鱗を売ったこと、王女に内緒だったのか?

 「シルバーナ王女の話は置いておき、タツヤ殿、この先どうする考えなのでしょうか」

 「許可が下りれば兎人族の村に住もうと思っています」

 「ほう、獣人の森に移住するのか。我国には戻ってこないのか?」

 王子からの発言だ。

 「兎人族と話をしていないのですが、俺は移住というか、そこに定住しようと考えています。そこでお願いがあるのですが」

 宰相さんを見ながらお願いを切り出してみた。

 「何でしょうか」

 「今使ってる店なのですが、建物を譲っていただけませんか」

 「構いませんが、どうするのですか」

 「収納に入れて持っていこうかと思います」

 「相変わらずの規格外だな。家などいれようと誰も思わないのだがな。それに、一人で皇国の伯爵家に喧嘩を売るのも考えものだぞ。下手したら罪人となるところだったのだ。タツヤ殿、その辺は理解しているのであろうな?」

 王子が一気に捲し立てる。俺もやらかした感はありますよ。

 家は金貨二十枚で売ってくれる事となった。無料でと言われたが、二十枚を無理に置いたのだった。


 タツヤが去った部屋には四人が集まっていた。

 「王よ、彼は我国を出ていくと言っていますが、よろしいのですか?」

 「はん、良いも悪いもあいつが決めたことだ。口出しはしない」

 隣室に潜み、先ほどの会話を盗み聞きしていたリカルド国王も加わっていたのだ。

 「ですが、タツヤ殿は我国の発展に必要な方ですぞ!」

 ギルベルトが声を張り上げるが

 「ああ、判っている。だが、俺達ドワーフとエルフは異世界人を拘束しない、そう決めている。反故にはできないな」

 「ですが・・・」

 「ギルベルト王子、タツヤ殿が残してくれた技術、まだ完全ではないですが、我国が発展するに十分な功績を残してくれています。今は黙って見送りましょう」

 「・・・そうですね」

 ギルベルトは納得したようだったが、

 「私はタツヤと一緒に獣人の村に移住するよ!」

 王女の発言に皆が白けた目を向ける。

 「あぁ!お前が獣人の村に行って何をするのだ?邪魔なだけだろうが!」

 「そんなことはない!私は錬金術師だ。農業が主体の獣人族なら、手伝える事は沢山ある!」

 鍛冶師ではなく錬金術師。素材を集めてポーションの作成、素材の生成ができるのだ。錬金で武器の大量生産も出来るが、鍛冶師の鍛えた武器には劣る。今は黙っていようとシルバーナは思った。

 「ポーションの作成や農具の作成なら錬金術でもできる!確かに鍛冶師の作った農具には劣るが、ちゃんと使える製品が作れるよ!」

 「ほう、分っているようだな。で、タツヤと一緒に行く理由を教えろ」

 「それは・・・・獣人と一緒に暮らしたいから?」

 「何故疑問形なのだ!お前はタツヤ殿の持つ素材に魅かれているのだろが」

 「えっ!いやっ!そう、素材だよ、素材に魅かれている!」

 王は口角を上げていた。どうやら娘は異世界人に興味を持っているようだ。

 「よし!お前がタツヤの婚約者になれたら、許可するぞ!」

 「「「ええぇ~~」」」

 三人が一斉に声をあげた。

 シルバーナは俯いているが、耳が赤くなっている。それは王と王子から丸見えであった。

 「陛下、よろしいのですか?」

 「ああ、構わない。だが、婚約できなければ戻ってこい。約束だ」

 「解ったよ。必ず婚約者になってみせる!」

 拳を握り、天井に向かい振り上げた。ガシャッと音がしてシャンデリアが揺れ、ガラスの破片が降ってきた。

 「大丈夫なのか・・・育て方、間違ったのか?」

 王が小さく呟いていた。

 それを無かったことのように

 「私は移住するのだ。婚約祝いとして金貨と工房の炉を持っていきたい!」

 工房の炉はタツヤが陶芸空間で行う焼成と同じ条件がでるよう、新たな魔道具の開発と共に製作した品だった。

 「お前、あの炉がいくら掛かったか知っているのか!」

 王が声を荒げるが

 「婚約祝いだと思って、許してほしい。あと金貨も、できれば白を数枚」

 最後の方は小声であったが、横の宰相にはしっかり聞こえていた。

 「ちっ、いいだろう、勝手に持って行け」

 「ありがとう父上!」

 「陛下、金子は何枚ほど用意すればよろしいでしょうか?」

 「あっ?金子?」

 「先ほど、シルバーナ王女は炉と金子のお願いをしていました。陛下が了承しましたので、用意をと思いまして」

 「くっ、そんなこと言っていたのか。ごにゅごにゅ言ってると思っていたが、くそっ!そうだな金貨五十枚でいいだろう。まだ婚約も決まっていないのだからな!」

 「陛下、シルバーマ王女は白金貨と言っておりましたが。白金貨五十枚を用意するには時間が掛かると思います」

 「あぁ~~~!白金貨だ!お前、嵌めたな」

 国王はシルバーナを睨むが、舌を出して横を向いていた。

 「ふん、一枚で十分だ!」

 「ケチッ!」

 「ぐっ!二枚だ」

 「まあいいわ。白金貨二枚と新型の炉、花嫁道具としてはまあまあね」

 満面の笑みで立ち上がり

 「陛下、準備がありますので、失礼いたします」

 スキップしながら部屋を出るシルバーナだった。

 「タツヤ殿も村に住む許可を貰っていないというのに、あの妹は何を考えているのか理解不能だ」

 ギルベルトが首を横に振りながら呟くと

 「ふんっ、何も考えていないのだろうな。今は獣人の村に行くことで頭が一杯だな。だが、タツヤと一緒に行動してくれれば、楽しく生活できるだろうな。くそっ、少し羨ましいぞ。ジョイナンド、次の王級が表れるのはいつだ!早く引退させろ!」

 「陛下、あと五十年は無理かと思います」

 虚ろな目で天井を見つめるリカルドだった。

 「宰相、もしタツヤ殿が他国と揉めた場合、我国はタツヤ殿と共に行動する、それは変わりないと思っていいのか」

 「殿下、変わりありません。古の約束、決して反故にはしません」

 そう言って力強く頷く宰相。王子も一緒に頷いていた。

 「今回は皇国が引いていますが、この先は解りません。タツヤ殿が傷つくことは無いと思いますが、周囲の方々を守る必要はあると考えています。陛下、シルバーナ王女の同行者に護衛を着けていただきたく進言します」

 「ああ、ギルベルト、女兵士を二人ほど着けておけ。俺は寝る」

 国王は部屋を出て行った。本当に引退したいのだな、ジョイナンドは哀れみの目で背中を見送っていたのだった。

 



 俺は店に戻り、手を当てて収納する。

 ドワーフ国に居た時間は短かったが、初めての店だ。大切に使わせてもらおう。だが、何も売っていなかったと今さら気づいていた。

 三番隊の拠点に挨拶に向かった。

 モナハルゾ隊長にはお世話になっている。この国で一番初めにお世話になった人物だ。挨拶を欠かすことはできない。

 「すいません、モナハルゾ隊長さんをお願いします」

 「隊長は外廻りに出ています。一時間も掛からずに戻ると思いますが、部屋で待ちますか?」

 「ありがとうございます。待たせていただきます」

 俺の事は知っているようだ。

 しばらく待つとモナハルゾ隊長が戻ってきた。扉がノックされ隊長が入ってくる。

 「タツヤ殿、久しぶりです。皇国で活躍したそうですね」

 モナハルゾ隊長にも話は伝わっているようだ。

 「活躍と言うほどのことはしていませんよ」

 「いやいや、見事な暴れ方だったと聞いていますが、間違いでしたか」

 皇国にもドワーフ国の人間は居るだろうから、通信機を使えば俺の移動より早く、情報も伝わるよな。ということは、宰相さん達も既に知っていたということか。先ほどの詳細で省いた内容も筒抜けなのだろうか。今後は注意して話をすることにしたのだった。

 「実は移住する事になりました。今後は獣人の村で厄介になろうかと思います」

 「ドワーフ国を出てしまうのですか。残念です。この国に全く訪れない、そのようなことはないですよね?偶には遊びでも仕事でもいいので、訪れて下さいね」

 「ええ、また来ます。ところで、今日は何か特別なことでもあったのですか?隊長さんが外回りをするなど珍しいですね」

 「今日はエルフが来ているのです。先ほど到着して、今は広場で休憩しています」

 エルフか、彼等なら欠損した足や腕を治す秘薬とか持っていないだろうか。

 「隊長さん、エルフって秘薬とか持っていませんかね?欠損した足や手を治せるような薬を探しているのですが」

 「噂では万能薬エリクサーというポーションが欠損も治せると聞いていますが、実物を使ったという話は聞いていませんね。でも、エルフなら知っているかも?憶測ですので、当てにしないで下さいね」

 俺は挨拶し、早々にエルフの居る広場へと走っていた。



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