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兎人族の村で

 カレーナの故郷である村に到着していた。

 そこはテルダム領周辺にあった村と比べ、簡易すぎる柵に覆われた村だった。

 柵は狭い感覚で刺さっているが、高さはニメートルもない。すぐ横まで森の木々があり、容易に魔物が越えてくるのが分かる、簡易な柵だ。

 中には簡素なテント?家?がある。柱を打込み、布で覆っただけの家だ。屋根には木が見えるので、雨漏りの心配は不要だな。

 「兎人族の家は獣人族の標準的な家なの?」

 「いえ、兎人族はテント暮らしだったのですが、この地から動かなくなったので、今の造りになりました。頑丈な家を作る種族もあります」

 テントを改良して、今の形にしたのなら納得だ。この先、更に進化したテント型の家になるかもしれない。

 見える範囲では一キロ四方程度の村と理解した。中央に家が密集しており、周囲が畑。家の周囲も柵で覆われていた。

 ガーダと子蜘蛛達を呼び、地面に絵を描いて説明を始めた。

 「今の村の大きさを基準に、倍の長さになるよう、周囲に糸を出してくれないか」

 一キロ四方を三キロ四方となるよう、周囲に糸を置いてもらう。それに沿って外壁のレンガを積んでいく予定だ。

 「まずはカレーナの家に行こうか」

 「案内します。家族は両親と兄と姉が一人です。他にも兄と弟、妹が五人居ましたが、ドワーフ国で奴隷として働いています」

 子沢山だな。少子高齢化が進む今の日本には羨ましい状況だろう。だが、日本も昔は子沢山で貧乏人が多かった時代もあった。この世界の未来が少子高齢化にならないよう、女神様にお願いしとこうかな。

 カレーナの家は俺を歓迎してくれた。見た目は子供なのに、彼女の雇い主として扱ってくれた。有難い事だ。

 家族水入らずを邪魔しても申し訳ないので、俺は森に家を出して寝る事にした。ガーダと子蜘蛛達が戻ってきたので、一緒に夕飯とした。カレーナには飛竜ワイバーンの肉を渡してある。多分足りるだろう。

 「主、糸、終わった。中、魔物、居ない」

 ガーダからの報告だ。内側に魔物が入り込まないか、不安だったが大丈夫なようだ。今回は子蜘蛛二十匹も同行している。熊と猪の肉を大量に出すと、生のまま森の中へと持っていってしまった。確かに蜘蛛が肉を貪る姿は見たくないな。ガーダと焼肉を堪能した。

 「ガーダ、外壁を作ってもいいと思うか?」

 俺が何かしても問題ないのだろうか。他の獣人族とのバランスが崩れる気がした。

 「まあ、外壁程度なら問題ないよな」

 翌朝、ガーダ達が張った糸に沿って木を伐採していく。子蜘蛛達が枝を払ってくれるので、俺が切り倒し収納する。ガーダが切り株の根を切断、後は朽ち果てるのを待てばいいだろう。一辺が三キロ、歩きながらの作業で、一時間ほど掛けて一辺が終る。昼前には一周廻ったので、カレーナの家に向かった。彼女は兎人族の人達にトレーニングさせていた。

 「もっと早く足を上げて!」

 自分のやったトレーニングを教えていた。

 (君と同じ動きが、始めての人には無理だから)

 そう思いつつ、眺めていたが、終わりが見えないので、外壁を造りに戻った。

 レンガを並べるのに、邪魔な切り株を引き抜き、平に均していく。

 「壁の前に堀が必要かな?」

 日本の城壁は堀とセットだった。同じように作ろうと思ったのだ。幅二十メートル、深さは五メートルでいいだろう、レンガを積んだら土を収納しよう。一段目を一辺並べ、ガーダが粘着剤を出していく。中央部には六メートル角の門を設置する。漆黒樹で枠組みを造り、外側に開くよう扉を二枚作った。漆黒樹なので魔物の突進なら防げるだろう。二段目、三段目と積み上げ、十メートルの高さまで積んだら完了だ。手前に堀を造り、次の辺にレンガを積んでいく。邪魔な切り株を蜘蛛達が抜いたようだ。あの大きさで可能なのか?疑問は残るが、作業を進めて行く。

 夕方まで掛かり、二辺の壁が出来上がった。

カレーナは相変わらず訓練を続けているようだ。子蜘蛛達からの報告だ。確かに村人たちが強くなれば、安全な生活ができる。彼女が張り切る気持ちも分かる。

翌日、外壁と堀が完成した。だが、堀に架かる橋が無かった。村が孤立状態になってしまった。門前の堀に手を加え、橋げたとなる部分をレンガで組み上げた。今回のレンガは五十センチ角で一メートルの長さだ。ちなみに外壁は一メートル角、長さニメートルのレンガを使っていた。レンガと言うには巨大だが。

 橋も漆黒樹を使い、幅六メートルで門と合わせていた。手摺りを着けるか考えたが、無いと村人は落ちてしまいそうだが、魔物も落ちるかもしれないので、無としたのだった。

 「堀に水が無いね」

 一人呟いていた。このままでは堀の機能が生かされない。堀の底にある土は粘土層ではないので、水を入れても吸い込まれていくだろう。湿地の土を掘りの中へ盛るのが対策になる。あの土は粘土層だったからな。

 翌日、土を盛って固めて堀が完成した。固めたので、自然に崩れることも無くなったと思う。

 「中は別として、壁は城壁と呼べる仕上がりになったな」

 一人で感慨に浸っていた。

 堀の外に転がっている切り株も収納した。村の人達が何かに使うかと思ったのだ。

 「門には物見櫓が必要だよな」

 そう思い、門の横にレンガを積み上げていった。上に小屋を置きたいのだ。壁の幅は三メートルなので、十メートル四方の場所を作った。作る時は上に乗っていたのだが、階段が無いので降りることができなかった。俺は飛び降りればいいが、村人は無理だろうと思い、階段を作った。他の門には櫓は作らず、階段だけとして、常時使うのを一か所とすることで、見張りの人員を減らそうと考えていた。

 翌日、櫓の上に置く小屋を造り、外壁内の木々を伐採するか、村人達の意見を聞きに向かった。カレーナは様子見に時々来ていたが、俺が夢中になって作業していたので、会話することなく戻っていた。

 「カレーナ、外壁が完成したよ。内側の木は伐採して、畑にしたほうがいいのかな?」

 「完成したのですね。一度、全員で見に行きたいのですが、よろしいでしょうか」

 「良いも悪いも、兎人族の村なのだから、是非見てほしいな。俺の自信作だぞ」

 訓練を中止して、村人達に声を掛けて廻る彼女は嬉しそうだった。

 元の柵まで移動すると

 「変わっていないようだが?」

 村人達から疑問の声が上がっている。

 「この先に新しく壁を作りました。畑も広げられますよ」

 笑顔で返しておく。カレーナは説明していなかったのだろうか。森の中を歩くと、木々の隙間から壁が見えていた。

 「あれが新しい外壁ですよ」

 後ろを振り返り、壁の存在を伝えると、皆が唖然とした表情で足を止め、壁を見ていた。

 「タツヤ様の作った壁です。もっと近くで見ましょう」

 二百人ほどの村人達が、門前の広場で外壁を見上げていた。俺は門を開け、外へと歩いていく。皆が続き、橋を渡り振り返っていた。

 橋を渡った先は直径で二百メートル程、円形の広場を作っておいた。魔物が隠れる場所を無くし、発見が容易にしていたのだ。

 「凄い壁だな。これを一人で作ったのか?」

 問いかけてきたのはカレーナの父、ムロナトだ。

 「一人というか、蜘蛛のガーダと子蜘蛛達も手伝ってくれました」

 ポケットからガーダが出てきて、足を上げている。子蜘蛛達は周囲に散っているので、居ないのが残念だ。

 「この水はどこから引いたのだ?」

 「それは生活魔法で水を出しただけですよ」

 そう言って堀に水を追加した。地面からは一メートルほど低くしているが、大雨で溢れたり、干ばつで干上がったりした場合、不測の事態を全く考えていなかったな。堀の外側を少し盛り上げ、水の流入は防いでおこう。あとは裏門になるのか、今の場所と反対側は川に近い。そこと用水路を作って繋げたほうがいいのだろうか。いろいろと考えていた。

 ちなみに村内には井戸が三か所あり、飲料水の確保は十分なようだ。

 「水が必要なら魔道具を用意すれば問題ないと思いますが」

 「いやいや、魔道具なんて高価な品、我々では買えませんよ」

 「それは私が買います。お金の心配は不要ですよ」

 カレーナが父親に応える。確かにお金は余っているよね。

 「このような立派な壁を作ってもらっても、村から支払える金は微々たるもの、よろしいのですか」

 村長のナガンセミが支払いを心配している。

 「そちらも私が支払いします。村に負担がないよう用意しています」

 カレーナが説明するが、村長は納得がいかないようだ。彼女が手にしたのは賠償金だと知っているのだろう。

 「だが、カレーナの将来の為にも残しておかなくてよいのか」

 「この村が安全になれば、私が年老いて戻る事もできます。何の問題もありませんよ」

 そう言って笑った。

 皆が感謝の言葉を告げている。


 しばらくして、村長に木々の処理を確認した。

 「今は畑を増やしても、耕す事も管理する事もできないので、余裕ができたら畑にしていこうと思います」

 その後、収納していた木を取り出した。大量にあるので、家を新たに建てることもできるだろう。兎人族に大工は居ないようで、建てるなら犬人族に頼むことになると言っていたな。それなら俺がスコップで角材としておこうか。十五センチの角材と三センチ厚の平板、これを大量に作ったのは翌日のことだった。スコップは俺の思い描いた通りに動いてくれる。古赤龍が神器と言っていたが、間違いないだろうな。

 外壁を見学した後は、村で宴会となっていた。飛竜の肉を提供したら、凄く喜ばれた。壁より肉のほうが嬉しいようだ。次に訪れる時も肉の差し入れが必要だろう。

 兎人族の踊りも披露してくれた。いつもは結婚式などの祝いで踊るそうだが、今日も祝いの席ということで、村人総出で踊ってくれた。いろいろな意味があるらしいのだが、俺には分からなった。でも、感謝の気持ちは受け取っておくので、ありがとう。終わった後に一人ずつ感想を聞きに来ないでほしい。全員を見ていなかったから、子供達、ごめんね。

 木材を作っている最中に、数人の犬人族が来た。外壁と堀を見て驚いている。

 「兎人族の家を無料で建ててくれるなら、犬人族の村に外壁と堀を無料で作るよ」

 と持ち掛けてみた。粘土は十分余裕があるので、この規模なら五か所は外壁の設置が可能だ。

 「族長に確認してくる」

 犬人族は全員が戻ってしまった。

 カレーナは相変わらずの訓練だ。村人の中から、狩に参加する人を中心に教えていた。

 「壁の上を走って訓練します」

 壁の上に上がり、半分を全力で走り、残りを流して走る。これを五周繰り返すと言って、走り去った。彼女以外は笑顔が引き攣っていたが、俺は見ていない。救いを求められても、止めることはできません。

 その日のうちに犬人族が戻ってきて、交渉は成立したのだった。

 「明日から作業を開始するので、道案内は頼むね」

 今彼らは今晩、兎人族の村に泊まり、案内の人と共に俺が向かうこととなった。歩いて半日程度の距離だという。




 ドワーフ国でタツヤの帰りを待つ、サルコムーナは待ちくたびれていた。予定の日を過ぎても帰ってこないのだ。

 「店に蜘蛛は居ましたか?蜘蛛が居るならタツヤ様は寄り道でもしているのでしょう」

 と宰相であるジョイナンド・ボテンテにあしらわれていた。皇国で開催する晩餐会の期日が迫っているので、サルコムーナは気が気ではない。焦ってみても状況が変わらないのは分かっていた。だが、自身で湿地に向かうのは愚策である。毎日、朝昼夕と三回の訪問が日課となりつつあった。


 「で、タツヤは生きているよな?」

 ツェルギム王が宰相に確認する。

 「はい。従魔である蜘蛛が店から離れません。どこか別の国や街に行ったと思われます」

 「で、アルマブル男爵が慌てているってことか。皇国には出向いていない。なら、獣人の娘の村だろうな」

 「はい、私もそこだと思います。怪我の件を報告に行ったと考えれば、よろしいではないでしょうか」

 「だな。まさか帝国、ましてや王国に行くとは思えない。だが、召喚者の話あがったな。まさか、王国に会いに行ったか」

 「それなら我国に戻ってから向かうと思うのですが」

 「ま、そのうち帰ってくるだろうな」


 ドワーフ国王と宰相の会話も、自国がカレーナの故郷である村に見張りを置いたことも知らないサルコムーナ。皇国はタツヤが獣人の森に向かったことを知っているのだ。

 だが、タツヤと会えないサルコムーナは、皇国に報告も出来ず、ただ慌てているだけの数日間だった。そして、五日後に帰還命令を受け取るのだった。タツヤの行動記録と共に。


更新、再開しました。

毎日更新できるよう頑張ります。

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