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皇国との揉め事3

 「やっと着いた~」

 門まで戻り声が出てしまう。

 「早く帰ってカレーナとシーフードピザを焼こうな。お前達もピザでいいか?」

 ガーダは足を上げ、アブソはプルプルと震える。湿地では食べすぎかと思うほどだったので、了解なのだろう。

 門番にギルドカードを見せ入ろうとすると

 「タツヤ殿、店でカレーナ譲が襲われました。今、王城にて休まれていますので、このまま王城へ向かっていただけますか」

 一瞬何を言われているのか理解できなかった。頭が真白になっていたのだ。

 「・・・襲われた?怪我は?後遺症は?」

 矢継ぎ早に問いかけるが

 「私は詳細を知りません。ただタツヤ殿が戻ったら王城へお越しいただくよう伝えろとの指令です」

 「分かった」

 頭の中は混乱したままだが、指示のあった王城へと向かう。既に暗くなった道は一通りも少なく、かなりの速さで駆け抜けた。

 自分の店の前には隊員が二人立っていた。

 「これから王城へ行くのだが、カレーナの容態をしっているか?」

 「いえ、知らされておりません」

 隊員に一礼して駆け出す。

 (生きているよな?)

 そんな考えが、ふと浮かぶ。こんな事なら店番を頼まなければよかったと後悔の念も浮かぶ。

 王城の衛兵は俺の顔を見るなり、一人が場内へと走りだした。

 「タツヤ殿、お待ちしておりました。カレーナ譲の部屋に案内いたします」

 「彼女は無事なのか?」

 「ええ、怪我はポーションで治っております。ですが・・・ 部屋へ案内します」

 衛兵は詳細を語らず歩き出す。

 カレーナは治療済のようだ。だが、口ごもっていたのが気に掛かる。早く会って確かめたいと内心逸る気持ちを押えながら後ろに続く。

 部屋の前には宰相さんが待っていた。

 「タツヤ様、詳細な報告は後ほどいたします。こちらにカレーナ様が居られます」

 扉をノックすると中から声がする。

 「君は任務に戻りなさい」

 衛兵を戻し、二人で部屋に入った。

 そこには右足と右耳の無いカレーナがベッドに腰かけていた。

 「カレーナ、何があった?相手は誰だ?」

 「申し訳ありません。タツヤ様の作った皿を奪われてしまいました」

 大粒の涙を零しながら彼女は頭を下げていた。なぜ彼女が謝る必要がある。

 皿を奪われた?あの古龍達の素材を使った大皿だな。確かに王女が騒ぐほどの素材を使っている。表から見えるようにと迂闊に並べていた俺の失態だ。

 「頭を上げてくれ、カレーナ。君が謝る必要は無いよ。俺が不用意に古龍の素材を使ったのが間違いだった」

 「ですが・・・」

 「いや、被害者が謝る必要な無いよ。悪いのはカレーナに怪我を負わせ、皿を奪っていった奴らだ。犯人の顔を見ているか?見れば分かるか?」

 「顔は見ていますし、見れば分かります。忘れることはありません」

 そう言って唇を噛むのだった。

 「悔しいよな、大丈夫だ。俺が敵を討つ」

 「タツヤ様、別室で詳細を説明させていただいてもよろしいでしょうか。カレーナ譲もお疲れの様子ですので」

 「ああ、詳細を教えてくれ。カレーナ、また後で来るからな。そうだ、夕食は食べたか?今日はシーフードピザでも作ろうかと思っていたけど、食べられるか?」

 「・・・はい、タツヤ様が作って下さるのであれば食べたいです」

 表情は浮かないままだが、食事は共に食べてくれるようだ。

 「宰相さん、調理場を借りたいのですが」

 「ご案内いたします」

 調理場で王城の料理人さんにも手伝ってもらいながらピザを焼いた。後ろに控える宰相さんは何も言わずに見守っていた。料理人さん達も言葉を発しない。俺と宰相さんの雰囲気を察しているのだろう。

 一時間ほどで二枚のピザが焼き上がった。シーフードと龍の肉を使った二枚だ。湿地の魚や甲殻類なのでシーではなくレイクフードかな?などと思いながらカレーナの部屋へと向かう。

 扉をノックし返事を待ってから入室する。カレーナは先ほどと同じでベッドに腰かけたままだった。

 手前にあるテーブルにピザを置き、収納から飲み物を取り出した。

 「ピザが焼けたよ。レイクフードとドラゴンフードだ。宰相さんも一緒にどうですか?」

 カレーナに近づき、肩を貸す。片足で動くのも辛いだろう。だが、一生このままなのだ。そう思うと俺も涙が出そうだった。

 「ありがとうございます」

 俺の肩に手を置き、ピョンピョンと跳ねながらテーブルに向かう。その姿が痛ましいが、残った兎耳が揺れる姿が可愛らしい。この姿は反則だなと思ってしまった。

 三人で席に着いたところで、ガーダとアブソがポケットから出て来た。二匹ともカレーナを見つめている。アブソがプルプルと震えたと思ったら、彼女の膝上に飛び乗った。

 「カレーナと一緒に食べたいのか?」

 そう言うとプルプルを激しく震えていた。魔物でも傷付いた相手には気遣いをするようだ。

 「「「いただきます」」」

 三人で食事を始めるが、何を言っていいのか判らなかった。もし、俺が片足を失ったら?そう思うと掛ける言葉が見つからない。

 「タツヤ様は湿地で何をしていたのですか?」

 宰相さんが言葉を発した。場を読んでくれた。

 「今回はレンガ用の土を仕入れに行きました。土と素材を混ぜるのは職人さん達では困難かと思いまして、レンガ用の素材として売ろうかと思っています」

 「それなら国の職人たちでも品質が安定しそうですね」

 「カレーナには在庫の管理と帳簿付けを頼む事になるかな。帳簿のことは全然知らないので頼むね」

 「こんな体になった私でも雇っていただけるのですか?」

 「もちろん。力仕事ではなく、事務の仕事だから大丈夫だよ」

 「ありがとうございます」

 彼女は暗い笑い顔だったが、いつもの笑顔に戻っていた。この先の不安は隠せないし、考えずにはいられないだろう。俺が雇ったのは、自分の知識不足を補ってもらう考えもあったので、体が不自由だろうと問題無だ。

 「ところで宰相さん、元の世界では彼女のように体の不自由な方の為の法律がありました。雇用側に国から補助や税金の減額をしていたのです。この世界にありますかね?」

 「ありませんね。詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか」

 「例えば彼女の給金を年金貨十枚としましょうか。その給金の何割かを国が補助、または税金を減額するのです。五割の補助なら金貨五枚を国が支払う、もしくは税金から金貨五枚を差し引くのです」

 「なるほど、国王と相談する話ですね。もっと詳細に、他の者も交えて話をお願いしてもよろしいでしょうか」

 「はい、構いませんよ」

 「しかし、レイクフードピザでしたか、美味しいですね」

 「ええ、湿地の蟹と海老が良い味を出していると思います」

 「私は獣人の森出身なので、魚は食べていましたが、蟹やエビがこんなに美味しいとは知りませんでした」

 宰相さんにもカレーナにも好評だ。こんな他愛のない話でもしていないと怒りが湧き出てくるのだ。視界に入るカレーナの耳、その度に怒りが込み上げる。だが、カレーナ自身が一番つらい状況で、俺が喚き散らしても状況は変わらない。この先もカレーナに見せをお願いし、不安を少しでも和らげることしかできなかった。




 食事も終り、別室へと移った。

 部屋には宰相さんの他、ギルベルト第一王子とモナハルゾ三番隊隊長も同席している。

 三日前、皇国の侯爵家次男シュルバッゾが店を訪れ、皿の購入を申し出る。金額も金貨一枚とか足元見すぎだろうが。

 俺が居ないので販売を断ると、貴族の身分を笠に着てカレーナに向かい剣を抜く。その時、通報を受けた三番隊が到着し場を収めた。

 二日後の夜明け前、三人の冒険者風の男が店に押し入り、皿を盗もうとしている所にカレーナが降りて来る。咄嗟に蹴りを入れ、一人目には当たったが、二人目には剣で足を斬り落とされてしまう。顔への一撃で意識を失うも耳を斬られた激痛で目覚める。再度の一撃をもらい、気づいたら椅子に縛り付けられていた。

 これがカレーナから聞いた話だとモナハルゾさんが語ってくれた。

 途中からで溢れる怒りを抑えることができなくなっていた。宰相さんに落ち着くよう諭されてしまった。

 「それって侯爵家次男が怪しいですよね。あと冒険者のアランですか?そっちは調べられないのですか?」

 「ギルドへの問い合わせと出国者の確認を行ったところ、昨日の早朝に皇国へと向かうシュルバッゾと冒険者アランは確認できております」

 モナハルゾ隊長が説明する。

 「くそ、すでに出国済か。出向くしか方法は無さそうだな」

 一人呟き、拳を握る。魔力を最大限に籠めた玉が大量に必要だな。その侯爵領を吹き飛ばすくらい威力が上がればいいが。スコップで領主館を斬り刻むか?

 「タツヤ様、領主であるヘルダーソン様は何も知らないかと判断しています。今回の件は時期当主を狙う次男、シュルバッゾが独断で起こした事件と見ています」

 そこから侯爵家に内紛の恐れがないか調査中だと教えてくれた。貴族の跡目争いに巻き込まれたのだった。

 「怒りが収まらないのは理解できる。だが、今は我々の調査が終わるのを待ってもらえないだろうか」

 ギルベルト王子に頼まれれば嫌とは言えないが

 「分りました。ですが調査結果によっては俺一人で侯爵家に乗り込みます。その時は皇国と戦闘になる覚悟もしています。まあ、簡単には負けませんがね」

 そう、貴族に喧嘩を売って勝てば、次の相手は貴族が従う皇国なのだ。古赤龍より強い相手は居ないと思う。それならば、負けることはない。異世界でチートを使って暴れる、うん、悪くないな。それで死んだら女神を恨むとするか。

 「タツヤ殿が言うと恐ろしいな。皇国が滅ぼされる未来が見えそうだ」

 ギルベルト王子が苦笑していると、宰相さんとモナハルゾ隊長が頷いている。そういえば古赤龍は念話ができるはずだが、俺とも繋がるのかな?援軍として呼んだら怒るかな?

 「難しい顔をして何を企んでいるのだ」

 「いや、古赤龍って念話が使えるのだけど、俺とも繋がらないかと思って。援軍として呼べれば最強だからね」

 「「「・・・」」」

 「今は繋がらないから大丈夫ですよ」

 「今は、と言えるタツヤ殿は何と表現すればいいのか、規格外だな

 ギルベルト王子が呟き、二人が頷く。そんなの知らないよ、知り合いになったのだから、死にそうなら助けてとお願いするだけだ。




 日付が変わろうかという時間に店まで戻ってきた。三番隊の隊員の見張りも無かった。俺が戻るまでだったのだろう。

 店内は綺麗に掃除されており、ここで戦闘があったとは思えない。だが、そこにある椅子の目が行き、思わず蹴ってしまった。

 壊れた椅子は元通りにはならない。カレーナの体も同じだ。

 「はぁ」

 深くため息を吐いて、残った椅子に腰かける。

 彼女の足は無くなった。蜥蜴の尻尾でもあるまいし、自然と生えるものではない。どうしようか悩んでいたが、義足を思い出した。

手足に付けるあれだ。

 確か、切断された足を型にして、プラスチックで包みこみようにソケットを作り、チューブと足部を形作るのだったかな?

 この世界に存在するのか明日確認して、無いのなら俺が作ると決めた。

 今までと同じとは言えないが、外出ができるような義足を造れば、彼女も生きていけると思う。パラリンピックでは健常者より速く走っているのだ。思考錯誤すれば大丈夫、とこの時思ったのだった。



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