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ドワーフ国で寛ぎます2

 翌朝、朝食後からペンについての説明が再開された。今日は職人が二人増えていた。

 一人はグンダルナ、もう一人がズリム、王級鍛冶職人だ。

 「先端の穴からインクが出て文字を書くのか、この仕組みは凄いな」

 「ああ、こんな細い穴を開けることができるとは。我々の技術もまだまだだな」

 ズリムとガンダルナのペンを見ての会話だ。

 スキルで開けたので褒められるような技術は持ってないのだが。

 「お二人にはペンの再現をお願いしたい」

 宰相の言葉だ。二人とも任せろと言って請け負っていた。

 「それなら、こちらの絵も見てもらえないか」

 ボールペンの構想を二人に説明する。『ほう』とか『なるほど』と言って聞いている。

 「こちらのほうが滑らかに書けるはずだ」

 そう言うと二人は羊皮紙とペンを持って部屋から出て行った。

 「二人とも楽しそうだったな」

 「はい、玩具を与えられた子供のようでした。貴重な情報をありがとうございます」

 「俺も楽しかったから問題ないよ。細い穴は錬金術で開けられないのかな」

 「レベルが上がれば可能かもしれませんが、製作者が限られるより鍛冶師で対応したいですね。将級になれなかった鍛冶師達の仕事にもなりますので」

 全員が将級の鍛冶師にはなれない。なれなかった者は親方として独立しても弟子も集まらない。剣の仕事も多くはなく、廃業する者もいるようだ。だが、ペンの加工ができれば別の売り上げが期待できるという算段だ。宰相さんはいろいろと考えているのだな。

 「羊皮紙ですが、余剰分があれば譲っていただきたいのですが」

 「余剰はあるな。千枚くらいなら可能だな」

 「では千枚お願いします」

 「俺は金額が分からないから宰相殿に任せるよ」

 「大金貨三十枚でいかがでしょうか」

 この世界の通貨を円換算すれば

 

 銅貨         10

 大銅貨       100

 銀貨       1000

 大銀貨     10000

 金貨     100000

 大金貨   1000000

 白金貨 100000000

 地球の十円が銅貨一枚だ。白金貨の一億は滅多に見ない硬貨らしい。大きな紹介や王家の取引でも使われないらしい。王城には在庫があると言っていたが。

 百枚の束を十束テーブルに載せる。宰相さんがカレーナに目配せすると扉を開けた。

 狐の獣人が三人入室してくる。一礼してから羊皮紙を持ち出していった。狐人族、兎耳もいいが狐の尾も捨てがたかった。

 狐人族は賢いので文官の補佐に起用しているそうだ。ただ賢いが狡賢いと言い違えたのは聞き逃さなかったが。

 羊皮紙千枚が三百万は驚きだが、他の羊皮紙は厚くインクの滲みも激しいそうだ。俺の作った羊皮紙に宰相さんは感激していた。『王城からの公文書に使います』と言っていた。

 羊皮紙はこの後、作り方を実演する予定だった。羊皮紙は素材の入手が難しいと宰相は言っていたが、他の革でも試してみるらしい。

 「では、昨日の修練場に向かいましょう」

 二人で修練場に向かう。異世界人だと解っても問題無いとしたので、顔は隠さずに歩いていく。

 修練場にローラー台を設置してローラーを乗せる。油が染みた革を置き、ローラーを何度も往復させ革を伸ばす。途中ではみ出るまで伸びたので、半分に切り作業を続けた。

 伸びた革は油分と水分を抽出すれば完成だ。

 途中、宰相さんがローラーを押したが、一往復で根を上げた。

 「ローラーを動かすのは力のある獣人なら問題無いと思いますが、平面な台と真円のローラーの作成が難しそうですね」

 三人いる職人に確認している。王級ではないが、緻密な作業が得意な職人だと聞いていた。

 「多少のバラつきは誤差だよ。まずは造って使って直していけば大丈夫だと思うよ」

 適当なことを言った。昼食の時間なのだが、終わる気配がないのだ。

 「台とローラーは置いておくから好きに使ってくれればいいよ」

 宰相と二人、部屋で食事の後は鉱山へと向かった。

 鉱山入口には不要となった岩が積まれていた。ある程度溜まったところで、山奥の谷まで捨てに行くそうだ。もちろん収納袋アイテムボックスを使ってだ。

 この岩の中に陶芸に使える石もあった。宰相さんに頼んで収納させてもらう。これで人気の白い陶器も作れる。楽しみだ。

 鉱山の中は薄暗い感じだ。所々に明かりの魔道具を設置していると宰相さんが教えてくれる。鉱山の中には毒蝙蝠やスライムが発生するので注意するよう言われた。蝙蝠は人間を攻撃しないが、天井から糞が落ちてくるそうだ。その爆弾はいらない。

 毒蝙蝠は集団行動なので、纏まってきたら魔法で殲滅をしている。今も前方の天井に数百羽の蝙蝠が見える。宰相さんが氷魔法を放ち凍らせ落とす。そばに居た獣人に向かい

 「処理しておいて下さい。報酬は不要ですから」

 と言うと籠を背負った獣人たちが蝙蝠を回収していく。

 「安いですが、蝙蝠は魔獣なので買い取りしています。彼らは休み等に小遣い稼ぎで蝙蝠退治もしているのです。私は報酬が不要なので分けるよう言いましたが、早いもの勝ちですかね」

 笑いながら獣人を見る宰相さん。蝙蝠拾いうに参加しない者は籠に岩や鉱石が入っている者達だ。空なのは運搬を終え奥に向かう者達、ちょっとした時間差で小遣い稼ぎができず残念そうだった。

 奥に進むと岩を叩く音が大きくなってくる。採掘現場が近い証拠だ。そこまでの道のり、壁は一部補強されており、広場のようになっている。万が一に備えたシェルターの役割だと理解した。

 場所により鉱物の種類は違うが、鉄、銅、錫等が採掘されている。ミスリルやオリハルコンの採掘場所は秘密。盗掘対策だ。

 洞窟内部は迷路のように繋がっていて、灯りの魔府道具にある番号で位置が解るよう刻印がある。慣れていないと番号だけでは帰れなくなるので注意するよう言われた。

 確かに採掘の音が反響していて、方向感覚が狂う。方位磁石とか作れないのだろうか。今後、考えてみよう。

 部屋に戻ると文官らしき方が二人、待っていた。

 「はじめまして。文官長をしておりますオルリーナ・ボテンテです。そちらの宰相、モナハルゾの妻です。こちらが文官のラスティナ、狐人族ですが優秀な文官です。少々お時間をいただきたく挨拶に来ました。食事までの時間、よろしいでしょうか」

 宰相さんの妻、オルリーナさんはインクについて確認だった。

 インクは木炭を粉にして油で溶いた物だと説明したら驚かれた。通常の木炭では無理らしい。

 木炭の製造方法から説明したが、鍛冶用の炉は魔石を使っているので、無酸素状態での加熱を試してみるようだ。油は草から絞ったと伝えたら、再度驚かれた。この世界では菜種油が主流だった。それも異世界人が伝えた工法らしい。

 木材は何でも大丈夫だと思うが、今の木炭は漆黒樹だと伝えると、もう一度驚かれた。解せないな。

 話は簡単だったので食事前に引き上げてくれたので、宰相さんと二人で食事となった。

 明日一日は街に出てみようと思っていた。

 食後は一人でドワーフ国での事を記していた。もちろん日本語だ。この世界の言語で会話は可能、だが文字は読むことも書くこともできなかった。

 「見たことのない文字ですね。タツヤ様の世界で使われる文字ですか」

 「ああ、日本語という文字だ」

 「異世界に学校はあるのですか」

 「あるよ。計算や文字等の基本を教える学校は子供が全員通える。卒業後はより専門的な学校に通う事もできるな」

 「羨ましい世界ですね。獣人の村では文字を書ける人が少ないです。私はドワーフ国に来て文字と簡単な計算を学べたので幸運ですが」

 この世界の識字率は低いのか。いや、獣人がってところだろうな。カレーナは王城で働く程なので優秀なのだろう。確か十四歳と聞いたな、十五になったら追い出されるのか。

 「カレーナは十四だったよね。この先、どうするの?」

 「まだ決まっていないのですが、工房さんで働ければと思っています」

 「そうか、いい工房が見つかればいいな」

 それ以外言葉が続かなかった。寝室に向かう。

 「寝るから今日は終わりでいいよ。鍵は俺が締めるから」

 「分かりました。では、失礼します」

 カリーナが出て行った。そのまま書き物の続きをしていた。収納内の品についてである。

 正直、何が何個あるか全く把握していなかった。兎と猪、鹿、熊の肉は全てアブソの餌か廃棄した。革は未加工のまま、魔石も残してある。飛竜と色付きの竜は手を加えないまま収納していた。一部、食用にしたので魔石と革、鱗、骨だけが残っていた。

 飛竜が百二十七体、火竜が四十八体、水竜は五十二体、土竜は五十六体が残っている。

 あとは龍種の鱗が各色五十以上ある。

 魔獣の革も大量にあるので処分方法を検討するようだが、兎だけは羊皮紙と服に使いたいので保存予定だ。

 国王には店舗も借りるので各色の竜を一体ずつ進呈しよう。頭部が無いけど。


 翌日はモナハルゾ隊長の案内で街を歩いていた。

 商店には旗が掲げてあり、人族の国旗だと教えてもらった。他国の人間に知らせる為に掲げているそうで、万が一の紛争などで同士討ちの予防もあるが、国旗に対して他国が攻撃した場合、宣戦布告とされるそうだ。国旗は王家や皇家が販売するもので、偽造すれば罪となる。安くない金額で購入した国旗を掲げているそうだ。

 国旗があるのが人間の商人の証でもある。

 ドワーフ国の商人は見た目で判るので問題ないのだ。

 数件の鍛冶工房を廻ってから食堂で昼食となった。大銅貨五枚から十枚の定食が多いようだが、量は豊富だった。味は可もなく不可もなしだった。

 その後、店舗に案内してもらう。明日から使う予定なので、今は掃除を行っているようだ。

 中を見せてもらい、家具を買いに向かった。

 ベッドとテーブルは最低限必要だ。在庫のある品から選び今日中の搬入をお願いするが当日の依頼にも関わらず快諾してくれた。隊長さんのおかげだな。

 その晩は国王と共に食事となった。しかも王家全員が揃うという。礼儀作法を知らないので断ったのだが、押し切られた。

 王妃様はテニーナ。ヴィル・ツェルギム、

 第一王子はギルベルト、第一王女はシルバーナ、第二王女がロザリーナ。五人家族だ。

 「で、二日間楽しかったか」

 国王に聞かれたが正直な話、楽しかった。それを伝えると

 「ふん、宰相が不在で俺は苦労したが」

 言うと同時に王妃が肘鉄を繰り出す。肝臓に決まったようだ。

 「貴方、羊皮紙やペンの技術を教えてくださっていたのに失礼ではありませんか。この先の国を思えば感謝しかないのですよ」

 おお、王妃様は良い人だ。

 「は、この先も何も作れるかも分からない技術だぞ。感謝は完成してからで十分だ」

 「父上、母様のおっしゃる通りですよ。何事にも感謝の気持ちは大切です。今日の食事だって命を頂くのですから、感謝して下さい」

 第二王女の言葉だが、少しだけ違和感を覚えるな、少しだけ。ただ、横でじっと見つめる第一王女は違和感しかないが。

 「タツヤ様、他にも知っている技術を隠していませんか。隠しているなら直ぐに教えて下さい!」

 「えっ、隠していませんよ、本当に」

 王妃様が席を立ち、第一王女の頭を叩いたよ。パンッといい音がした。王妃様は席に戻り、

 「シルバーナは錬金術が得意なので、新しい技術が大好きなのです。お仕置きはしたので許して下さいね」

 宰相さんが国王の後ろで苦笑していた。でも楽しい家族だと思うよ、毎日の付き合いは無理だが。

 「楽しそうなご家族ですね」

 と返すしかない

 「は、どうせ面倒な奴らだと思っているのだろ、その通りだよ。俺でも面倒になる時があるからな」

 王妃様の肘鉄が再度決まった。前回より強力な肘鉄が。

 「その言葉、そっくり返しますわ。私がどれだけ苦労しているか。毎日毎日、休まる日がありません」

 とハンカチを目に当てて泣いている。いや、真似だ。第一王子と目があった。

 「タツヤ殿は明日から商売を始めるのか」

 「はい、陶芸の素材も揃ったので白い陶器を作って売ろうかと考えているよ」

 「それなら人族の商人に売れそうですね。他には無いのですか」

 「他か・・・収入が無ければ素材でも売るか、冒険者登録する予定なので、依頼を受けるかな」

 「えっ、素材があるの?何隠しているの」

 素材の言葉にシルバーナ王女が食いついてしまった。

 「店舗も貸していただいたし、面倒も見ていただいたので、色付きの竜を三体、お渡ししようかと思っているのですが」

 「龍!?火竜や土竜のこと!三体・・・何が作れるかしら」

 シルバーナ王女は遠い目になっていた。

 「あ、礼は不要だぞ。羊皮紙とペンの技術でも余るな」

 「父様、タツヤ様が提供すると言っているのですから、いただきましょう」

 王女復活。

 「は、店舗の一軒や二軒で相殺できる技術ではないぞ」

 二人で揉めている間に

 「王妃様、これは感謝の気持ちです。他に持ち物も無いでの受け取っていただけませんか」

 「そうですか・・・判りました。有難く頂戴します。ジェイナンド、管理は任せます。決して無駄に使われないよう注意して下さい」

 王妃様は第一王女を睨みながら宰相さんに伝えている。眼力に負けたシルバーナ王女は頷いていたが。

 「少しだけ、少しだけ分けてよ。一生で一度手にできるか分らない素材なのだから!」

 「そんなに珍しいのか?金に困ったら王城に売りに来ればいいかな?」

 「おう、売りに来ていいぞ。他国にも売れるからな。で、この国が竜を討伐しているってことになれば牽制にもなるな、ギルベルト」

 「はい、例の玉と合わせれば効果は絶大だと思います」

 「私にも直接売って!」

 「あ、お前の小遣いで買える値段ではないぞ。それこそ白金貨の出番だからな」

 一体、一億か。地球の間かうなら今後はニートで十分だな。いっそ引き籠るか?

 夕食後、カレーナも帰った部屋で寛いでいたら宰相さんが来た。シルバーナ王女に内密に素材を収めたいらしい。王城地下にある食料貯蔵庫に向かった。ここはエルフの魔道具で時間停止になっているそうだ。入る時に魔道具を外さないと中で動けなくなるという魔道具だが。そこに三体の竜を置けば容量一杯だった。

 「シルバーナ王女には内密に」

 確かに彼女に知られると面倒だろう。

 「これをお持ちください」

 何と!携帯電話だ。いや、車載電話だ。携帯電話初期に使われていた某芸人必須アイテム、それと同じ物が目の前にあった。

 「異世界人の方とエルフ族が共同して造った魔道通信機です。ユニットあたり千台の通信機が登録可能になっています。こちらにあるのが番号、他者の番号一覧はこちらの羊皮紙に記載しております。緊急時は最上部のボタンを押していただければ、距離が近い五台に知らせが届く仕組みになっています。五台での同時通話が可能となっております」

緊急対応も可能なのか。考えたのは日本人だな。有難い事だ。活用させてもらう。

 「リストにシルバーナ王女もあるよね、大丈夫だよね?」

 すっと視線を躱され無言だった。

 「おやすみなさい」

 一言残して宰相さんは帰った。中間管理職みたいな立場で大変そうだな。




 明日からは店舗に移動だ。引っ越し蕎麦とか必要なのだろうか。宰相さんに必要なら聞いて用意しないと。


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