悪役令嬢、グルメ対決で婚約破棄の危機
「やっべーのですわ!」
私、グリルした丸鶏を切り分けようとナイフを置いていたら、いつの間にか左手の薬指の先が無くなっていましたの。見間違いではありませんことよ。めちゃくちゃ痛えし、ですの。
何故、たかが料理でこんなゴアな事故が起こっちまったかと言うと、それは私が婚約成立を巡るグルメバトルを、ライバルの娘に仕掛けたからですの。
実は私と婚約予定の王太子様は世界規模の大王国を治める(予定)手筈になっていましてよ。だけど婚約直前になって、王太子様がどこの馬の骨とも分からない辺境伯の娘に一目惚れ。横恋慕は許せませんわ!
このままでは間違いなくコンニャク……ではなく婚約破棄されて実家は没落確定。なので一発逆転のチャンスをかけて、お互い料理を作って王太子様に召し上がっていただき、気に入ったほうと婚約していただくことを確約しましたの。田舎娘には可哀相ですけれど、グルメにうるさい都会派である私が圧倒的有利ですことよ!
っていうか、今は指!
「セバスチャン!」
「はい、お嬢様」
執事登場。
「私の指、見なかったかしら?」
「今見ております」
「違えのですわ! 指を早く探して!」
「どこを?」
「チキンの中!」
「フハッ! ご冗談を」
水木しげる風に笑いながら執事はチキンを手際良く切り分けて、あっという間に皿に盛り付け完了。見事なり! そして身体に染み付いた軽やかな動きで皿を持って王太子様の下へ直行。まだ指、入ったままですわよ! 早くくっつけないと本気でやっべーのですわ!
「ほほう、ついに来たな」
王太子様は箱入り娘の作ったスープも食べて、すっかりご満悦。メインディッシュに私の指が入っていることも気付かず、蓋を開いてチキンとご対面。
私、最悪の事態を覚悟しましたわ。指が入った料理のせいで敗北。これはもうおしめーですの!
その時、王太子様のフォークの先には私が長く付き合ってきた人生の友の姿が。王太子様はフォークの先を眺めた後、一言。
「チキンの中に腸詰めとは、これは帝国風だなあ?」
「王太子様って物知りー! 素敵ー!」
取り巻き女の黄色い声に包まれて王太子様は指を実食。
「ンまーい!」
なんと料理対決は私の勝利。が、結婚指輪をつけるべき指は胃袋の中。
結局、婚約は破棄されましたとさ。