第三十七話 僕と彼女のラストダンス③
まずは少しあの後の続きを話そう。
僕が記者会見の時マスコミの前に姿を現したことで、その後の日常生活が大変になったーーーなんてことはなかった。
ネットでも放映されていたのだが、僕という不穏分子が突如侵入したことでネット配信は中断。マスコミ各社からも何かしらの圧力が掛かり夏代斗真がネームレスの一員だということは伏せられた。
事実として公開されたのは織原香苗が病気で活動休止ということ。そして噂として流れているのが熱愛発覚。
どこから流れたのかは分からないけれど、本当に世間は色恋沙汰が好きだな、と当事者としてはうんざりしている。
もちろん大まかな出来事を知っている烏丸や宮原には逐一いじられているのは言うまでもない。
周囲の目がない時だけだが、エアーマイク片手にマスコミばりに出会いから事実無根だが付き合うまでの経緯までしつこく聞いてくる。
ハッキリ言ってウザイ。
いつもならば盛大にキレてしばらく不機嫌になるけれど、今回ばかりはそうもいかない。
この二人には協力をしてもらわなければならないからだ。
まぁそれも狙ってのことだろう。いやらしい親友たちだ。
いやぁ友情って素晴らしい!
そんなことはさておきここから話を本題に戻そう。
あの後すぐに織原から登校日に関するメッセージが届いた。それ以外にも結構な量が届いたけれど。
登校日は三日後。
それまでの間に僕は無謀とも言える準備を行わなければならなかった。
そこは流れに沿って藤丸先輩に頼って何とかクリア。烏丸と宮原の協力はもちろんクリア。
会場だが、ここは中学時代の僕らに習おう。捕まりそうになったら逃げれば何とか……ならないかもしれないけれど最悪烏丸を囮にすれば一人くらい逃げられるだろう。
ここは運次第。日頃の行いがものを言う。
僕は頬杖をつきながら窓にチラッと目を向ける。
さあ早速日頃からいい子にしていた結果が現れてきたぞ。さっきまで曇っていた空に光が差し始めた。
午後一発目の授業では数学教員の微分積分とかいう全く解読不可能な呪文が教室に響き渡っている。
ちなみに僕の席の前に座る烏丸は不在。そのため僕は大っぴらにサボることはできない。
僕はあくびを噛み殺しながら教室を見渡す。
授業を受けるクラスメイト達は大体三パターンに分かれていた。
集中して授業を受けている、すでに夢の中、起きてはいるものの他ごとに夢中。
これで誰かあれに気がつくことができるのだろうか。
他のクラスや学年が気付く可能性もあるが、最悪自分で声を上げるしかない。
そんなことを考えている最中、ポケットが振動する。そっとそれを確認すると織原からスマホにメッセージが届いていた。
ならそろそろか。
スマホをポケットに戻し、カモフラージュの視線を黒板に向けようとした時だった。
「あれなんだ……?」
僕の後ろに座る男子生徒がぽそっと声を上げた。
その声に僕も反応して窓の外に視線を送る。
来た。
すぐさま僕はその場で手を上げ数学教諭にトイレに行きたいと申し出る。
狙ったわけではないが、自然とクラスの何人かの注目が僕に集まった。
そして彼らの視界の中に窓の向こう側が入り込む。
皆一様に正門をくぐり抜け校庭に入り込んでくる異物に反応した。それは次々にクラス中へと伝染する。
校庭の中心には学校には到底似合わないトラックが一台校舎に並行して鎮座した。
そのトラックはゆっくり荷台部分を上に開いていき、中から紙袋を被った烏丸、赤い長髪の宮原、狐の面を顔につけた藤丸先輩の姿が現れる。
そしてドラムを軽快に叩く音とギターの甲高い音が静寂を切り裂いた。
その様子を横目に僕は教室を抜け出し廊下に出るとすぐに下駄箱へと向かう。
通り過ぎる教室からは歓声や驚きの声が教室内を反響し廊下へと飛び出してくる。
「はははははは!」
僕は笑い声を上げながら下駄箱へと走った。
外履きを取り出そうと下駄箱の扉を開けると、そこには白い紙袋。外履きと一緒に取り出し中身を確認する。
中には薄手の黒いロングカーディガンに銀髪のウィッグ。
僕はこれらをすぐ身につけて校庭へ、仲間の元へと駆け出した。




