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第三十五話 僕と彼女のラストダンス①

「まず最初に聞いておくことがある」

「初めに聞きたいことがあるんだけど」


 僕らは同時に口を開き、


「どうして僕がハリネズミだって知ってた?」

「なんでわたしが三角定規って分かったの?」


 全く同じ質問をした。

 思わず二人とも吹き出し大声をあげて笑う。

 ホント仲良しかよ。


「どっちが先に話す?」

「そりゃ先輩からでしょ」


 相変わらずこの後輩は先輩に対する尊敬の念がない。

 ……いまさらか。


「僕の場合は至極簡単だよ」


 このチャットアカウントは中学の時から使っていたもの。その時に烏丸や宮原を含めた十人くらいの音楽好きの学生で構成されたグループに入っていた。そこになんの運命か織原も参加していて、グループ解散前に織原の友達から織原が歌手の織原香苗だと正体を聞いていたのだ。


 この時は織原のファンを口外しまくっていた甲斐があったと叫ぶように喜んだものだ。あの醜態は思い出したくないけれど。


 最初はあの織原香苗と繋がれるのか、とファン心丸出しで関わっていたがまさかこのような関係になるとは思いもしなかった。


 しかも作詞を共同で作れるなんて中学生の僕が知ったら泣いて喜んだだろう。織原と紆余曲折あった今の僕は泣いて喜ばないけれど。


「なんだわたしとほぼ一緒じゃん。まあ先輩はわたしが歌手だから近づいたんだろうけど、わたしは全く違う理由だったなぁ」

「僕がネームレスだからだろ。そんくらい知ってる」

「おいおいワトソン君。君がネームレスを作ったのは高校生からだろう」


 誰がワトソン君だ。お前にホームズ要素皆無だろうが。


「じゃあ中学生の時から僕に興味があったってのか?会ったこともないのに」

「わたしは会ったことあるんだよなー。一方的にだけどね。あの時の先輩は一生懸命で可愛かったなぁ」


 僕は首を捻る。

 ネームレスを作る前ということは中学生以前の話なのだろうが、そんなに何かに一生懸命取り組んだ記憶はない。


「一生懸命っていうか皆の前で必死だった感じ?」


 今までの人生でそんな大多数の前に立ったことなんてないし、そもそもそんな必死になったことなんて……ない……よな?

 待て。物凄く違和感が生じる。


 どうしてコイツはこんなにもニヤニヤしているのか。人を小馬鹿にしたような態度はいつもかもしれないが。

 それは置いといて、織原の今までの言動を思い出せ。何かしらのヒントがあるはず……。


「あ」


 僕は無理矢理封印していた記憶を思い出し顔を一気に赤らめる。思わず顔を右手で覆った。

 その様子をさらに面白がるように織原が僕の顔を下から覗き込む。


「思い出したかねコメント無しボーカル君」

「お前……あそこにいたのかよ」


 今思い出しても恥ずかしい。

 人生の黒歴史は何ですかと聞かれれば真っ先にあげるほどの事件。


 黒歴史すぎて記憶から抹消しようとしていたが。

 もう言わなくても分かるだろう。織原が語った文化祭に出ていた中学生バンドは僕らのこと。


 烏丸と宮原、そしてもう一人有志で参加したベースの三人が計画したゲリラライブ。

 開催に当たって僕も力を貸したが、出る予定なんてこれっぽっちもなかった。ボーカルは宮原がギターを弾きながらする予定だったのだ。


 それを直前で疲れるから変わって、などとふざけたことを言い放ち、最初から計画していたと言わんばかりにあれよこれよと言いくるめられステージに立たされた。

 それが僕の初ライブ。


 それが歌手織原香苗を産む切っ掛けになっていただなんて、全くもって信じられない。

 いまさら嘘は言わないだろうが誇張は激しくされていそうだ。


 などと疑わしげな視線を送っていると、肩をすくめて小馬鹿にしたような溜息をつかれた。



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